【連載】植草一秀の「知られざる真実」

植草一秀【連載】知られざる真実/2025年11月24日 (月) 御用発言者と御用メディア

植草一秀

日本の行く末が案じられる。

高市首相の台湾有事発言。

中国が強く反発しているが当然のことだ。

メディアは社会の木鐸として問題の背景を中立公正の立場から検証する必要がある。

しかし、そのスタンスを明確に示す報道は皆無に近い。

台湾問題について日本と中国は1972年の国交正常化の時点で明確な取り決めをしている。

日中共同声明に記された文言は次のもの。

二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。

三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。

台湾問題については三の記述が焦点になる。

日本国政府は、

「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であること」

を承認しなかったが、

「中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重する」

とし、さらに、

「ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」

とした。

テレビ番組は専門家見解として、台湾が中国の領土の不可分の一部という中国の主張を日本政府は承認していないと強調する。

これを見た視聴者は「台湾が中国の一部との中国の主張」を日本政府は承認していないと思い込み、中国の反発が不当であると感じるだろう。

この解説は正しくないしミスリーディングである。

番組制作者が無知でコメントする人物の説明の不正確さを認識していないのか、不正確さを知りながらそのまま垂れ流しているのかは不明。

しかし、事実としてこの説明は極めて不正確である。

日中国交正常化交渉の際に、当初、日本政府は、

「中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重する」

を提案した。

しかし、これを中国政府が拒否して、

「ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」

を書き加えることで決着した。

この部分が重要だ。

日本が受諾したポツダム宣言(1945年7月26日)第八項(領土条項)が「カイロ宣言ノ条項ハ履行セラルべク」と規定している。

カイロ宣言は「満洲、台湾及澎湖島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還すること」が対日戦争の目的の一つであると明記している。

日本政府は「一つの中国」を承認したから中華人民共和国政府が中国を代表する唯一の正統政府と認めた。

カイロ宣言にある「中華民国」を継承したのが「中華人民共和国」であるから、「ポツダム宣言第八項に基づく立場」とは、

「中華人民共和国への台湾の帰属を認めるとする立場」

を意味することになる。

この文言が加わったことで中国が同意した。

この点を正確に伝えずに、「日本政府は台湾の中国帰属を承認していない」と説明するのは極めて恣意的かつ悪質である。

また、日中両国政府は1972年の日中共同声明および78年の日中平和友好条約で

「日本国政府及び中華人民共和国政府は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に両国間の恒久的な平和友好関係を確立することに合意する。」

「両政府は、右の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、日本国及び中国が、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。」

などとした。

高市発言は台湾有事で米軍が展開されれば日本の存立危機事態になる可能性が高いとしたもので、具体的には日本が中国に対して宣戦布告するという意味になる。

これまでの日中両国政府が築き上げてきた友好信頼関係を根底から覆す暴言と言って間違いない。

社会の木鐸として冷静な考察を促すべきメディアが歪んだ情報を垂れ流して可燃性の高いナショナリズム感情を扇動する現実は慙愧に堪えない。

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植草一秀 植草一秀

植草一秀(うえくさ かずひで) 1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。 経済金融情勢分析情報誌刊行業務の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」を発行。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門1位。『現代日本経済政策論』(岩波書店、石橋湛山賞受賞)、『日本の独立』(飛鳥新社)、『アベノリスク』(講談社)、『国家はいつも嘘をつく』(祥伝社新書)、『25%の人が政治を私物化する国』(詩想社新書)、『低金利時代、低迷経済を打破する最強資金運用術』(コスミック出版)、『出る杭の世直し白書』(共著、ビジネス社)、『日本経済の黒い霧』(ビジネス社)、『千載一遇の金融大波乱』(ビジネス社、2023年1月刊)など著書多数。 スリーネーションズリサーチ株式会社 http://www.uekusa-tri.co.jp/index.html メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」 http://foomii.com/00050

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