【連載】知られざる地政学(塩原俊彦)

「知られざる地政学」連載(118):28項目のウクライナ和平計画案をめぐる考察(上)

塩原俊彦

(2025年11月28日にウクライナのイェルマーク大統領府長官が解任された。そこで、それにかかわる考察を、私の運営する「21世紀龍馬会」のサイトにアップロードしたので参照してほしい)

118回目の連載として、「なぜウクライナ支援を継続するのか?:真っ黒なゼレンスキー政権を糾弾せよ!」を用意していた。だが、28項目のウクライナ和平計画が明るみに出されたため、急遽、これについて論じることにした。さりとて、「ミンディッチ」事件と呼ばれる汚職事件について詳細に分析したものなので、この拙稿は私の運営する「21世紀龍馬会」のサイトにおいて公表した。11月19日に「現代ビジネス」に公表した拙稿「ついに暴かれたウクライナ政界の腐敗「一番真っ黒なのはゼレンスキー」」をより詳しくしたものだが、19日以降の出来事を含めた分析を行っている。日本語でこれ以上に詳しい解説記事は存在しないと自負しているので、ぜひ読んでみてほしい。オールドメディアが報道しない「真相」を理解するのに役立つだろう。

28項目の和平計画

ウクライナの国会議員オレクシィ・ゴンチャレンコ(ホンチャレンコ)議員は、2025年11月20日、ウクライナに手渡されていたウクライナ戦争を解決するための米国とロシアの和平計画を公表した。ついで、Axiosは同社が入手し、ウクライナ政府関係者、米国政府関係者、提案に詳しい情報筋が検証した草案を公表した。

ここでは、まず、この二つの報道(ゴンチャレンコ版とAxios版)およびこの和平計画に対して欧州側がまとめた欧州和平計画(ロイター版)を比較しながら、28項目の和平計画の内容について紹介したい。
下の表「28項目のウクライナ和平計画」からわかるように、ゴンチャレンコ版とAxios版の内容は若干異なっている(ロイター版との比較は後述する)。

明らかなことは、Axiosのほうがより詳しいということだ。Axiosは21日付の別の報道で、提案文書には、ウクライナ、米国、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)、ロシアの署名欄があると報じている。さらに、「ホワイトハウス高官によると、ロシアは草案について説明を受けたが、最終的にプーチン大統領の署名が必要かどうかは不明だという」と書いている。加えて、「安全保障は当初10年間で、双方の合意によって更新される可能性がある」とも紹介している。

さらに、Axios版の21項目の4番目の記述にある「非武装緩衝地帯」に関連して、Axiosは、「安全保障に加え、28項目の計画では、東部のウクライナ領とロシア領の間に非武装地帯を設けることを求めている」と説明している。

pdfでは拡大して内容を確認いただけます。

28項目和平計画の作成過程

今回の28項目の和平計画は決して唐突に出現したわけではない。ウラジーミル・プーチン大統領は21日、安全保障会議を開催し、そこでこの計画について言及した。彼によれば、「私たちはこれを公にはほとんど議論していなかったが、ごく大まかな概要については議論していた」という。ドナルド・トランプ大統領のウクライナ情勢解決に向けた平和計画は、アラスカでの会談前に議論されており、その事前協議の中で、米国側は「一定の妥協、つまり彼らが言うところの柔軟性」を示すよう求めていたのだと説明した。

ただ、「ウクライナがトランプ大統領の提案した和平解決案を事実上拒否したことと関連して」一定の沈黙期間を要した。「おそらくそれが、28項目からなる、実質的に改良された新案が登場した理由であると考えられる」というのがプーチンの見立てである。

さらに、プーチンは、「我々は、米国政府との既存の連携ルートを通じて、この文書の入手を確認している」とのべた。そのうえで、「この文書も、最終的な平和的解決の基礎となり得るものと考えているが、具体的な内容については、我々と協議は行われていない」とした。そして、「その理由については、推測できる」とのべ、プーチンは、「米国政府はウクライナ側の同意をまだ得られておらず、ウクライナが反対しているからだ」という見方を示した。いずれにしても、「提案された計画の細部について、具体的な議論が必要だ。我々はそれに応じる用意がある」と語った。

マイアミ会談

具体的にわかっているのは、まず、先に紹介した20日付のAxiosが「この計画は 、マルコ・ルビオ国務長官とトランプの娘婿ジャレッド・クシュナーの意見を取り入れながら、トランプ特使のスティーブ・ウィトコフが起草した」と報じたことである。さらに、「ウィトコフはまた、この計画についてロシア特使のキリル・ドミトリエフ(ロシア最大の政府系ファンドのひとつであるロシア直接投資ファンド[RDIF]トップ)にも相談した」とも報道している。この点は、先のプーチンの説明と矛盾しているように思えるが、ドミトリエフとの協議が詳細なものではなかったということだろうか。

23日、ロイター通信は、10月末にマイアミで、ウィトコフ、ドナルド・トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー、ドミトリエフが参加する会議が開かれていたと報じた。事情に詳しい関係者の一人によれば、ウィトコフは11月中旬、訪米中だったルステム・ウメロフ国家安全保障・国防会議書記に計画を伝え、米国は20日にキーウでゼレンスキーに直接手渡す前に、19日にトルコ政府を通じてウクライナに計画を渡したという。ウメロフは自分の役割を「技術的なもの」と説明し、米政府高官と計画について実質的に話し合ったことは否定している。

20日、和平のための「特別代表」に任じられた米国のダニエル・ドリスコル陸軍長官(ウクライナ担当特使のケロッグは交渉から外されており、2026年1月に退任する)はゼレンスキーに和平計画を直接伝達した。しかし、これ以前にゼレンスキーは和平計画の概要を知っていた。19日付のAxiosは、トランプの和平イニシアチブに対するトルコの支援の一環として、ウィトコフは19日にアンカラを訪問し、ゼレンスキー、トルコのハカン・フィダン外相と3者会談を行う予定であったと米政府高官はのべた、と報じた。米政府高官は、ゼレンスキーがウメロフとの合意から後退し、トランプ大統領の和平計画について話し合うことに関心がないことが明らかになったため、会談は延期されたと主張したという。あるウクライナ政府関係者は、ゼレンスキーがヨーロッパ諸国を含むより広範な形式でこの案を議論するよう求めたため、会談は延期されたと説明している。

いずれにしても、和平計画の合意に向けた具体的な動きが急速に動き出した。23日、米国とウクライナの代表はスイスのジュネーブで会合し、米国の和平提案について協議した。米国側の代表はマルコ・ルビオ国務長官で、ウクライナ側はイェルマーク大統領府長官だ(下の写真)。ルビオが記者会見で明らかにしたところでは、会談は「もっとも生産的」で有意義としたうえで、ワシントンのチームが和平計画に「いくつかの変更」を加えていることを明らかにした。同日、ホワイトハウスは共同声明を発表し、「ウクライナと米国は、今後数日間、共同提案に関する集中的な作業を継続することで合意した」としている。また、プロセスが進展するにつれ、欧州のパートナー国とも緊密に連絡を取りつづけるとも書かれている。

11月23日、ジュネーブでの記者会見の模様(左やイェルマーク大統領府長官、右がルビオ国務長官)
(出所)https://news.sky.com/story/ukraine-war-latest-trumps-peace-plan-revealed-in-full-but-zelenskyy-says-his-team-must-check-its-genuine-12541713?postid=10584195#liveblog-body

ヴァンス副大統領の関与

興味深いのは、ゼレンスキーに和平計画を直接伝達する役割を果たしたドリスコル陸軍長官を「特別代表」に任命した経緯である。ABCの報道は、「和平プロセス再開の試みにドリスコルを選んだのは、ドナルド・トランプ大統領とJ・D・ヴァンス副大統領との先週の話し合いがきっかけだった」と伝えている。ドリスコルはヴァンスの大学時代の友人であり、二人の関係はきわめて近しい(The Economistを参照)。

しかも、21日、ウクライナ大統領府は、ゼレンスキーはヴァンス副大統領およびドリスコル陸軍長官と電話会談を行ったとも伝えている。この電話会談は1時間におよび、ヴァンスが和平に直接関係していることがわかる(The Guardianを参照)。会談では、戦争終結に向けた米国側の提案について多くの詳細が議論されたという。つまり、ヴァンスも今回の和平計画に深くコミットしている点が重要である。なぜなら、欧州嫌いのヴァンス意向が和平計画の随所にみられるからである(後述)。

ヴァンスの強い意志

強調したいのは、ウクライナ戦争を一刻も停止し、和平にもち込みたいというトランプの考えをヴァンスも強く共有している点である。ゆえに、ヴァンスの21日付のXへの投稿は重要である。そのなかで、彼はウクライナとロシアの和平計画が満たすべき三つの条件をあげている。(1)ウクライナの主権を保持しつつ、殺戮を止める、(2)ロシアとウクライナの両方に受け入れられるものであること、(3)戦争が再発しない可能性を最大限に高める――というのがそれである。

こんな考えをもつ彼は、その前の投稿につぎのように書いた。

「この件に関して意見の相違があった@nfergusのスレッドに感謝する。彼は現実と真摯に向き合っているが、我々の手法を批判する大半の人々にはそれが言えない。」

下に示したように、このスレッドのなかで、The Timeのジャーナリスト、ニール・ファーガソンは、「最善は善の敵である」と書き、「最近の報道の憶測とは裏腹に、ウクライナ和平に向けた28項目の草案は、実際には交渉の合理的な基盤となっている」と高く評価した。ゆえに、「ウクライナ国民にとって、戦争がさらに一年も長期化する利益はないと私は考える」とし、そのうえで、「ウクライナ国民は独立のために英雄的に戦ってきた。今こそ、彼らが成し遂げた成果を外交によって固める時である」とのべ、明確に和平計画を支持する姿勢を示している。

ヴァンスのXへの投稿
(出所)https://x.com/JDVance/status/1992071919626301532

ヴァンスが軽蔑する欧州

この論考は日本時間11月25日午後1時までの状況をまとめている。この時点までの情報によると、23日に実施された米国とウクライナとの和平計画をめぐる会談において、欧州側が取りまとめた和平計画の代替案については、上の写真にある23日の記者会見で、ルビオはその存在について一切知らないと否定した(BBCを参照)。つまり、23日の時点でも、米国は欧州を相手にしない姿勢を鮮明にしている。

これが意味しているのは、口先で即時停戦を訴えながら、実は戦争継続をねらい、ウクライナへの支援をつづけている欧州の無定見への厳しい批判である。ウクライナはこれまで、欧州を味方につけて戦争を継続し、ロシアの弱体化をはかり、あくまでクリミア半島や東部ドンバスの領土奪還をねらうという姿勢を堅持してきた。ドイツ、フランス、英国などの主要な欧州諸国はみな「戦争継続派」であり、ウクライナに代理戦争をさせて、軍事費増強を行い、それを軍事費の対GDP比の引き上げに利用してきた。トランプの要求に応じつつ、領土の一体性の堅持や民主主義の擁護といったきれいごとですべてを糊塗してきたのである。

その証拠に、欧州諸国はつぎのようなウクライナの窮状を無視してきた。すなわち、①要衝ポクロフスクをはじめ、喪失する領土が急増しており、敗色がますます濃くなっている、②ウクライナによるロシアの製油所攻撃に対する、ロシアによるウクライナへの電力設備やガスパイプラインなどへの攻撃で、ウクライナの停電が急増するだけでなく暖房供給にも懸念が広がっている、③「ミンディッチ」事件と呼ばれる汚職によって、政敵同士の間でさえも共有されてきた「ロシアに打ち勝つためには国が団結しなければならない」という戦時下の共通認識が、ごく少数の権力者たちが多くの同胞を死に至らしめる戦争から利益を得ているという信じがたい事実によって覆された、④兵員不足が深刻するなかで、強制動員による「バス化」(無理やりバスに押し込めて動員)への国民的反発が強まっている、⑤ウクライナの経済活動は停滞し、欧州や国際通貨基金(IMF)などの支援なしには立ち行かなくなっている、⑥欧州の支援は、凍結したロシア資産を使った「賠償ローン」(事実上の没収)なしには、もはや不可能な状況に陥っている――といった「現実」がそれである。

即時停戦と和平を真摯に実現しようとしているトランプやヴァンスからみると、こうした欧州諸国の不誠実は耐え難いものであり、厳しい非難に値する。

とくに、ヴァンスは欧州に強い敵意をいだいている。拙著『ネオ・トランプ革命の深層』の161頁に書いたように、ヴァンスは、トランプ政権高官数名によるメッセージアプリ「シグナル」での私的会話のなかで、「私はまたヨーロッパを救済するなんて嫌でたまらない」と書き、「私はあなたのヨーロッパのただ乗りに対する嫌悪感を完全に共有する」と、国防長官のピート・ヘグセスは返信し、「哀れだ」(It’s PATHETIC)と書いたことがわかっている。

293~294頁では、ヴァンス副大統領が2025年2月14日にミュンヘン安全保障会議で行った演説を紹介した。そのなかで、彼は欧州の「似非民主主義」を糾弾した。そして、私自身、つぎのように書いておいた(295頁)。

「気づいてほしいのは、この程度の「似非民主主義」を守ると称して、「ウクライナ政策からデジタル検閲に至るまで、すべてが民主主義の防衛として正当化されてきた」現実だ。しかも、こんな決定を下した憲法裁判所を欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は支持したというのだから、開いた口が塞がらない。」

ややわかりにくいかもしれないが、詳しくは拙著を読んでほしい。要するに、「民主主義」といった大義名分を言い募るだけで、まったく現実を見ようとしない欧州の政治指導者をヴァンスは「嫌いでたまらない」のだ。それは、私もまったく同じである。彼らは不道徳で、不誠実で最低最悪な輩なのである。なお、この評価は『西洋の敗北』を書いたエマニュエル・トッドも同じである。

さらに、こうした輩を批判できずにいる、あるいは、彼らと共謀して、国民にディスインフォメーション(騙す意図をもった不正確な情報)を撒き散らしているオールドメディアもまた同罪である。こうした連中はみな「哀れ」かもしれないが、もっとも「哀れ」なのは、こんな奴らに騙され、自らも騙す側に回ってしまっている大多数の人々だろう。

やや感情的な表現をあえて披歴してみた。理由は、ヴァンスもまた感情的になっていることを知ってほしいからである。彼は、24日、Xに感情的な投稿をした。「トランプ政権が東欧における4年に及ぶ紛争に終止符を打とうとしていること」に激怒する共和党関係者に対して、「私は彼らの見解の内容については論じているわけではない。ウクライナ戦争について彼らがのべたことの多くは誤りだと証明されているが、まあいい」と前置きしたうえで、ヴァンスは、「自国に深刻な問題があるのに、この一つの問題にこれほど熱狂するのは正気の沙汰じゃない。心底嫌悪する」とのべたのである。別言すると、共和党内にいる「戦争維持派」が和平計画を批判していることが「正気の沙汰」ではなく、「心底嫌悪」に値すると苛立っているのだ。この苛立ちは、和平計画を批判する多くの欧州政治指導者に向けられたものでもある。オールドメディアについても同じである。

「知られざる地政学」連載(118):28項目のウクライナ和平計画案をめぐる考察(下)に続く

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。『帝国主義アメリカの野望』によって2024年度「岡倉天心記念賞」を受賞(ほかにも、『ウクライナ3.0』などの一連の作品が高く評価されている)。 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)『帝国主義アメリカの野望:リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』(社会評論社、2024)、『ネオ・トランプ革命の野望:「騙す人」を炙り出す「壊す人」』(発行:南東舎、発売:柘植書房新社、2025)がある。 『ネオ・トランプ革命の野望:「騙す人」を炙り出す「壊す人」』(発行:南東舎、発売:柘植書房新社、2025)

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