【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年11月27日):特集記事 プーチン大統領の「根本原因」に焦点を定めた米国の「おとり商法」

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

 


© Photo: SCF

仮想的な法的条約として書かれた、28項目からなるいわゆる「和平案」は、経験豊富な読者であれば素人の仕事に見えるだろう。

そこで、ウクライナ国会議員ゴンチャレンコが原文からの翻訳であると主張して提供した28項目のいわゆる「和平案」の詳細がここにある。

法的な条約として書かれたこの文書は、経験豊富な読み手には、いくつかの点で「その後の議論」と「期待」でどうにでも取れる、素人の仕事に見えるだろう。

つまり、多くの点が曖昧で、不明瞭であり、確固たるものは何もない。もちろん、このような計画は、モスクワにとって(全面的に)受け入れ難いものとなるだろう(もっとも、彼らはそれを全面的に否定することはないかもしれないが)。それでもなお、この計画はヨーロッパで激しい反発を招いている。エコノミスト誌(支配階級の見解を反映する)は、この文書を「米露間のひどい提案・・・(ロシアの)最大限の要求の多くを満たし、さらにいくつか付け加えている」と評している。

欧州諸国と英国は単純にロシアの降伏を望んでいる。

ここで重要なのは、モスクワが明確にしているように、スティーブ・ウィトコフの「28項目和平案」の起草における交渉相手であるキリル・ドミトリエフは、プーチン大統領からもロシアからも任命されていないということだ。彼には公式の権限は一切ない。

プーチン大統領報道官ドミトリ・ペスコフは簡潔にこう述べた:

ウクライナ情勢の解決について、ロシアと米国の間で正式な協議は行われていない。ただし、接触はしている。マリア・ザハロワは、「ロシア外務省は、メディアが熱心に伝えているウクライナに関するいわゆる『合意』について、米国から公式な情報を一切受け取っていない」と述べた。

「モスクワの立場は、ロシアは『自らが表明した原則の範囲内』でのみ対話に応じる用意があり、米国は今のところ、出発点となり得る公式の提案を何もしていないということだ。」

では一体何が起きているのか?政治経験のない二人の「非特使」が会談を重ね、そこから明らかに憶測に基づく提案を寄せ集めたのだ。ドミトリエフが10月に米国でウィトコフと会談した際、ロシア政府の承認を得ていたのか、それとも独断で行動していたのかさえ不明だ。ロシア外務省は、こうした広範な協議の内容について一切の関与を否定している。もしドミトリエフがモスクワの誰とも情報を共有していなかったとしたら、それは異常なことだろう。

いずれにせよ、プーチン大統領は、西側メディアで広まっている大量の記事(明らかにドミトリエフから得たとされるオンラインニュースメディアAxiosへのリークに基づく)に対して、自ら反論した。

軍服を着たプーチン大統領は、最前線にある西部戦闘集団の司令部を訪問し、ロシア国民は特別軍事作戦(SMO)の成果を「期待し、必要としている」とだけ述べた。「SMOの目標を無条件に達成することがロシアにとっての主目的だ」と彼は語った。

それゆえ、プ―チン大統領の米国への反応ははっきりしている。

この「28項目提案」はアメリカの視点から書かれたものであり、典型的な「おとり商法(bait and switch)」として構想されたようなのだ。ルビオ長官は繰り返し『ロシアが平和を真剣に考えているのかどうかはわからない』と述べている:

「我々はロシアが平和に関心を持っているかどうかを試しています。彼らの言葉ではなく彼らの行動が、彼らが本気かどうかを決めるでしょう。我々はそれをできるだけ早く見極めるつもりです・・・明るい兆候もあれば、懸念すべき兆候もあります。」

したがって、「28項目提案」はロシアを試すための「仕掛け」だった可能性が高い。例えば、これらの提案は複数の分野でロシアを「試し」ている。

「NATOはロシアとNATOの対話に基づき、米国の仲介のもと、これ以上拡大しないこと・・・が期待される;ウクライナは『信頼できる安全保障』(未定義)を受ける;ウクライナ軍の規模は60万人に『制限』(原文ママ)される;米国はこれらの保証に対する補償を受ける;ロシアがウクライナに侵攻した場合、断固とした協調軍事対応に加え、すべての国際制裁が復活し、新たな領土の承認およびその他のすべての利益は取り消される;米国は、パイプラインや貯蔵施設を含むウクライナのガスインフラの共同再建・・・および運用においてウクライナと協力する。」

「(ロシアに対する)制裁解除は段階的に個別的に協議され合意される」

凍結されたロシア資産1000億ドルが、米国主導のウクライナ復興・投資事業に投入される。米国はこの事業から生じる利益の50%を受け取る。ロシアは欧州に対する非侵略政策を立法化する(ただし欧州側の何らかの見返りについては言及なし)。

「クリミア、ルハンスク、ドネツクは事実上ロシア領として承認される。ヘルソンとザポリージャは接触線上で凍結され、これは接触線上の事実上の承認を意味する。ロシアはその他の併合された領土を放棄する。」

以下は事実上停戦に相当するものであり、和平合意ではなく、事実上の承認に過ぎず、法的承認ではない。

「この合意は法的拘束力を持つ。その実施はトランプ大統領が率いる平和評議会によって監視され、保証される。」

「合意されれば停戦は発効する」。

この一連の提案は、欧州諸国、ロシア、そしてゼレンスキー大統領でさえも受け入れる可能性は低い。その目的は、あらゆる交渉の出発点を全く新しいものにすることだ。提案文書に明記されたロシアの譲歩は米国によって「まんまと懐に入れられる」一方、ロシアが「表明した原則」は無視されることになる。ロシアへの圧力はさらに強まるだろう。

実際、その圧力強化は既に始まっている。提案の公表と時を同じくして、米国が供給した標的を定めた長距離ATACMSが4発、ロシアの2014年以前の領土であるヴォロネジの奥深くに発射された。ヴォロネジにはロシアの超水平線戦略レーダーが設置されている。そのATACMSは4発全て撃墜された。ロシアのイクサンデルミサイルが直ちに発射台を破壊し、発射操作員10名を殺害した。

スコット・ベセント財務長官はロシアへのさらなる制裁を警告しており、トランプ大統領は、ロシアとの貿易相手国に対するリンゼイ・グラハム上院議員の500%制裁案に同意すると表明している。ただし、新たな制裁パッケージに関する完全な裁量権がトランプ大統領に与えられることが条件となっている。

これらの提案の全体的な目的は明らかに、プーチンを追い詰めて、彼の根本的な原則——例えば紛争の根本原因の除去を主張し、単なる症状の除去に留まらないという姿勢——から引き離すことにある。この文書には、根源的原因(NATOの拡大やミサイル配備)を認める気配は一切見られず、ただ漠然とした約束——「米国が仲介役を務めるロシアとNATO間の対話を通じて、あらゆる安全保障上の問題を解決し、緊張緩和の条件を整えることで、世界の安全保障を確保し、協力と将来の経済発展の機会を拡大する」——が記されているに過ぎない。

など、など、など。

情勢悪化の傾向が目前に迫っているようだ。ロシアは、第三次世界大戦へ向かう事態に進む階段を踏み出さずに、いかに効果的に米国を軍事的に抑止するかを検討する必要があるだろう。

抑止力と外交の扉を開いたままにしておくことのバランスは微妙な線引きである——抑止力に過度に重点を置くと、(逆効果的に)敵対者によるエスカレーションの階段を逆方向に引き上げる結果を招くだけかもしれない。

一方、外交に過度に重点を置きすぎると、敵対者から弱さと受け取られ、軍事的圧力のさらなる激化を招く恐れがある。

ウィトコフ=ドミトリエフ提案の意図はよかったのかもしれない(あるいはそうでないかもしれない)。しかし、世界的「騎士救済」の深層構造を司る者たちが、「逆張り的」価値観を維持することをロシアに許すことはあまり考えられない。

キリル・ドミトリエフは、どうやら「騙された」可能性があるようだ。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「特集記事 プーチン大統領の「根本原因」に焦点を定めた米国の「おとり商法」(2025年11月27日)

http://tmmethod.blog.fc2.com/

また英文原稿はこちらです⇒The U.S. ‘bait and switch’ operation targeting Putin’s ‘root cause’ principles
筆者:アラステール・クルーク(Alastair Crooke)
出典:Strategic Culture  Foundation  2025年11月24日https://strategic-culture.su/news/2025/11/24/us-bait-and-switch-operation-targeting-putins-root-cause-principles/

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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