【連載】植草一秀の「知られざる真実」

植草一秀【連載】知られざる真実/2025年12月 1日 (月) 是は是、非は非とする対応不可欠

植草一秀

ナショナリズムは燃え盛りやすいもの。

可燃性の高いナショナリズム感情に油を注いで火を煽るべきでない。

1995年から2024年までの過去約30年間にドル表示のGDPは中国で26倍に拡大した。

米国のGDPは4倍になった。

しかし、日本のGDPは4分の3に縮小した。

いまや中国のGDPは世界第2位で日本のGDPの4.5倍以上の規模。

日本のGDPは世界第4位にまで後退した。

中国を罵り、中国を攻撃することで喜ぶ国民感情が存在することは否定できない。

しかし、中国との敵対感情を煽ることが日本国民の幸福につながることなのか。

冷静に考えるべきだ。

日本は隣国の中国と友好関係を維持するべきだ。

かつて日本は国策を誤った。

村山富市首相は1985年に談話を発表した。

村山氏はこう述べている。

「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。

私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。」

日本には加害の歴史がある。

その加害国日本と被害国中国が1972年に国交を正常化した。

その際に中国は中国にとってとりわけ重要な「核心的利益」について日本と合意を交わした。

日中共同声明に明記されている。

二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。

三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。

いわゆる「一つの中国」を承認し、「台湾の中国帰属」については論理的に日本政府が「台湾の中国帰属」認める内容の表現で決着した。

また、

六 日本国政府及び中華人民共和国政府は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に両国間の恒久的な平和友好関係を確立することに合意する。

両政府は、右の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、日本国及び中国が、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。

その後、日本と中国は友好関係を構築してきた。

ところが、2010年9月7日の尖閣海域中国漁船衝突事件を契機に、日本で「中国の脅威」が喧伝され、日中関係に緊張が生じるようになってきた。

高市首相発言は台湾有事に関して

「戦艦を使って、武力の行使をともなうものであれば、どう考えても存立危機事態になり得るケースである」

と述べたもの。

「存立危機事態」は日本が集団的自衛権を行使する要件であり、集団的自衛権を行使することは中国に対して宣戦布告することとほぼ同義になる。

台湾と中国との間で衝突が生じてもこれは中国の内政問題。

1973年の衆議院予算委員会で大平外相は

「中華人民共和国政府と台湾との間の対立の問題は、基本的には中国の国内問題であると考えます。」

と答弁している。

このなかで、台湾有事が生じれば日本が集団的自衛権を行使することになる可能性が高いとの趣旨の発言を日本の首相が行った意味は重大だ。

「台湾有事が生じた場合に、いかなる事態が生じたについての情報を総合的に判断する」

と述べていれば何の問題もない。

ところが、高市首相は

「どう考えても存立危機事態になり得るケース」

と述べた。

この発言は日中間の過去の政治文書等が許容する範囲を逸脱していると言わざるを得ない。

中国批判をエスカレートされる前に日本側の言動に誤りがなかったのかどうかを謙虚に見つめ直すことが必要だ。

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植草一秀 植草一秀

植草一秀(うえくさ かずひで) 1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。 経済金融情勢分析情報誌刊行業務の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」を発行。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門1位。『現代日本経済政策論』(岩波書店、石橋湛山賞受賞)、『日本の独立』(飛鳥新社)、『アベノリスク』(講談社)、『国家はいつも嘘をつく』(祥伝社新書)、『25%の人が政治を私物化する国』(詩想社新書)、『低金利時代、低迷経済を打破する最強資金運用術』(コスミック出版)、『出る杭の世直し白書』(共著、ビジネス社)、『日本経済の黒い霧』(ビジネス社)、『千載一遇の金融大波乱』(ビジネス社、2023年1月刊)など著書多数。 スリーネーションズリサーチ株式会社 http://www.uekusa-tri.co.jp/index.html メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」 http://foomii.com/00050

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