【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年12月2日):フョードル・ルキャノフ:キエフが現実を受け入れたときにのみ平和が訪れる

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。


筆者:フョードル・ルキャノフ(ロシア・グローバル情勢編集長、外交防衛政策評議会幹部会議長、ヴァルダイ国際討論クラブ研究ディレクター)


ファイル写真。© Jose Colon / Anadolu via Getty Images

1968年のパリの学生活動家たちはこう叫んだ:<i>「現実的になれ――不可能なことを要求せよ」。革命の瞬間にふさわしいよくできたスローガンだった。だが革命が選択肢になく、現実が、どう望んでも、消え去らない時はどうなるのか?

戦争は様々な形で終結する。ときには敵を完全な壊滅することによって。ときには交渉による利害の交換によって。そしてときには、争いが無意味になるまで燃え続け、数年後に再び燃え上がることもある。歴史は数多くのパターンを示している。しかし、世間の意識は近年の事例、特に国家神話や現代の道徳的物語と結びついたものに固執しがちだ。この習慣が、「20世紀は歴史的規範である」と誤解させる原因となっている。

そうではないのだ。最新のヴァルダイ・クラブ報告書が指摘するように、前世紀の戦略的思考を特徴づけたのは、相手を完全に敗北させることへの期待であった。体系的な矛盾は敵を打ち砕くことによってのみ解決できるという考え方だ。この論理は世界大戦を形作り、1945年の枢軸国無条件降伏で頂点に達した。冷戦期にもその影は残った:両陣営は優位だけでなく、相手側の政治・社会体制の変革をも求めた。ソ連崩壊は戦場での敗北ではなくイデオロギー的敗北であった。しかし西側諸国の政府では、この結果が歴史的必然の勝利として扱われた。

ここから新たなタイプの対立が生まれた。その中心にあるのは「歴史の正しい側」である。自由主義的な世界秩序に同調すると見なされた側は道義的に正当化され、そうでない側は服従し再構築されることが期待された。勝利は戦略的なだけでなく道義的なものであり、したがって絶対的なものと見なされた。


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我々は今、その時代を後にしようとしている。国際政治は以前のパターンへと回帰しつつある。すなわち、イデオロギー性が薄れ、秩序が乱れ、生の力関係への依存度が高まっているのだ。今日の結果は、道徳的主張ではなく、軍隊ができること、そしてできないことによって形作られている。

この文脈が、ワシントンの最近の外交的動きがこれほど注目を浴びている理由を説明している。米当局者は、新たに提示した「28項目の和平案」が、願望ではなく戦場の現実に基づいていると主張する。そして彼らが見る現実は厳しい——ウクライナはこの戦争に勝てず、壊滅的な敗北を喫する可能性がある。「28項目の和平案」の目的は、さらなる損失を防ぎ、不快ではあるがより安定した均衡状態を回復することにある。

これは、当事者にとっては重要だが、関与する外部勢力にとっては存亡に関わるものではない紛争に対する標準的なアプローチである。しかしながら、ウクライナやいくつかの欧州諸国にとって、この枠組みは依然として道徳的なものであり、ロシアの完全な敗北のみが受け入れられる原則的な闘争である。そのような結果(ロシアの完全な敗北)は非現実的であるため、彼ら(ウクライナやいくつかの欧州諸国)はロシア内部の変化、あるいはアメリカの政治的変化を期待して、時間稼ぎをしている。

ワシントンはウクライナや西欧諸国に対し、28項目の即時受け入れを強制することはないだろう。ホワイトハウス内には完全な結束はなく、こうした内部の躊躇は、モスクワが感知したと信じているシグナルを必然的に弱めてしまう。この政治サイクルは、新たな局面を迎える可能性が高い。前線の状況は、理論上はキエフを現実主義へと向かわせるはずだ。しかし、これまでのところ、その変化は状況が示唆するよりも緩やかに進んでいる。

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ロシアにとって真の問題は、受け入れ可能かつ達成可能な結果が何かである。歴史的に見れば、この紛争は20世紀のイデオロギー対決ではなく、17~18世紀の領土争いに似ている。当時のロシアは、行政的・文化的・文明的な境界線を通じて自らの存在を定義していた。それは挫折と回復を繰り返す長いプロセスであり、単一の決定的で不可逆的な勝利を求める戦いではなかった。

今日、ロシアの目的は本質的に同様である:信頼できる国境の確保、現実的に達成可能な境界線の確定、効果的な支配の確立、そして領土の経済的潜在力の解放。好むと好まざるとにかかわらず、これらの目標達成の主要な手段は軍事力である。戦闘が続く限り、その影響力は存在する。いったん戦闘が停止すれば、ロシアは数十年にわたりイデオロギー的な勝利を定義してきた西側諸国から、協調した外交的圧力に直面するだろう。この点について幻想を抱く必要はない。

ロシアが自国の能力に見合った明確かつ現実的な目標を定めるならば、外交が軍事的側面を下支えすることは可能だ。しかし、外交は軍事的側面に取って代わることはありえない。そして、ロシア指導部はこうした力関係をよく理解している。

28項目の計画は最終的に交渉の基盤となる可能性がある。しかし現時点ではまだだ。ウクライナと西欧諸国の政府は依然として完全な道義的勝利というビジョンに固執している。ワシントンはそれよりは現実的だが、完全に一致しているわけではない。そして戦場の声は依然として会議のテーブルの声よりも大きい。

この記事はロシスカヤ・ガゼタ紙に最初に掲載され、RTチームによって翻訳・編集された。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「フョードル・ルキャノフ:キエフが現実を受け入れたときにのみ平和が訪れる(2025年12月2日)

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また英文原稿はこちらです⇒フョードル・ルキャノフ:キエフが現実を受け入れたときにのみ平和が訪れる
ウクライナが和平案の28項目を直ちに受け入れることを強制されない理由
出典:RT  2025年11月25日
筆者:フョードル・ルキャノフ(Fyodor Lukyanov)https://www.rt.com/russia/628416-fyodor-lukyanov-peace-will-come/

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国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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