【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年12月10日):トランプは究極の政治的現実主義者である

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。


ドナルド・トランプ米大統領 © Tasos Katopodis / Getty Images

最近の出来事は、ドナルド・トランプ米大統領が究極の政治的現実主義者であることを裏付けた。

トランプ大統領は1月の就任以来、ガザとウクライナの紛争を終わらせることができなかったことなどから、支持基盤であるMAGAの一部から批判を受け続けている。

トランプはこれらの国外紛争を終わらせると約束して大統領選に勝利したが、それができないように見えるため、彼の中核支持者の一部は離反した。

トランプを最も激しく批判しているのは、マージョリー・テイラー・グリーン下院議員である。彼女はかつてトランプの信奉者であり、陰謀論者であり、MAGA(Make America Great Again)のイデオローグ(理論提唱者)である。

グリーンは最近、攻撃の幅を広げ、トランプがジェフリー・エプスタインとの交友関係を持ち、司法省がエプスタインの捜査に関連して保有する全文書の公開を拒否していることを非難した。

これが、トランプがガザとウクライナの紛争を最終的に解決しようとする試みを強化させた国内政治的背景である。トランプにとって―すべてのアメリカ大統領と同様に―その国内政策と外交政策の課題は密接に相互に関連している。

トランプは最近、ガザ紛争の解決案を仲介し、一時的な和平をもたらした。この和平はパレスチナ人もネタニヤフ政権も満足させる可能性は低いが、中東のアラブ諸国、ロシア、中国、国連にとっては受け入れ可能なものだ。

トランプの暫定合意は、バイデン政権が想像すらできなかったものだ。バイデンは過去の民主党大統領と同様、ネタニヤフ政権がどんな残虐行為を犯そうとも、無批判に支持することを固く誓っていた。

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ウクライナ紛争に関しては、トランプは再選後一貫してその終結を図ってきた。これは彼の選挙公約である「24時間以内に紛争を終結させる」という約束を反映したものである。

トランプ大統領の紛争解決に向けた努力は、ウクライナの指導者ウラジーミル・ゼレンスキーの頑なな態度と、英国・フランス・ドイツ・EUがこの弱体化した代理勢力を支援し紛争を無期限に継続させる決意のため、最近まで効果を上げていなかった。

しかし今や、トランプ大統領は、過去3年間にわたり不必要な混乱と死をもたらしてきたウクライナ紛争を解決しようとしているようだ。

トランプ大統領による紛争終結に向けた最新の試みは、先週発表された28項目の和平案に基づいている。バイデンは、ロシアとの代理戦争を行うために、弱体化するゼレンスキー政権を支えることに熱心だったため、この解決策を受け入れることはできなかっただろう。

トランプはどのようにしてこうした劇的な結果をもたらしたのか?本質的には、究極の政治的現実主義者であることによってだ。

トランプの国内政策は非自由主義的で権威主義的だ——とはいえ、先週彼が予想外にニューヨークの「共産主義者」市長ゾラン・マムダニ(詳細は後述)を支持したことは、トランプの本質的な現実主義を表していてもいる。

なぜトランプはウクライナ紛争の終結にこれほど執着しているのか?

彼が孤立主義者であり、共和党内で高まる不満を鎮めたいからというだけではない。ウクライナとロシアの複雑な歴史的関係を理解しているからでも、1990年代初頭からアメリカ主導で進められたNATOの東方拡大がそもそもこの紛争を招いた経緯を認識しているからでもない。

その答えは、トランプの本質的な現実主義と、国内外の政治を彼が「取引の芸術」と呼ぶものに還元できるという本能的な信念に見出される。

ウクライナ紛争を終わらせようとするトランプ大統領の決意は、共和党内の有力者たちから反対されている。トランプ政権には、反ロシアのタカ派やウクライナ熱狂的支持者が多数いる。今週辞任を発表したトランプ政権のウクライナ特使、キース・ケロッグもこのカテゴリーに属する。つい最近まで、トランプ政権の国務長官、マルコ・ルビオも同様だった。

だからこそトランプは、自身の28項目の和平計画に関する交渉を、ケロッグやルビオではなく、自身のロシア特使であるスティーブ・ウィトコフに担当させるよう主張した。ウィトコフは外交官でもイデオローグでもない——トランプ同様、富裕な不動産開発業者であり現実主義者である。

これによって、ウクライナを支持する欧州諸国がなぜウィトコフを批判し続け、進行中の和平交渉から彼を排除しようとしているのかも説明がつく。

トランプはウクライナ紛争の解決を実現させる可能性が高い。なぜなら、現実的な見方をすれば、現状は和解を迫る状況にあるからだ。その状況には以下のような要素が含まれる:

●ロシアのウクライナにおける包括的な軍事的成功(同国の約6分の1が現在ロシアの支配下にある);
●ウクライナ軍の戦力枯渇状態による戦闘継続能力の喪失;
●ゼレンスキー政権の政治的不安定性と不人気の高まり(辞任、政敵の投獄、終わりのない汚職スキャンダルによって裏付けられている);
●トランプがゼレンスキーに対し、合意が成立しない場合、米国はウクライナへの情報共有と武器供給を停止すると明言した事実;
●この紛争を継続的に資金援助している欧州諸国内における、広範で激化する反対の勢い。

トランプが紛争終結を決意した背景には、こうした状況を現実的に認識していることがある。


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トランプ大統領はゼレンスキー大統領に対し、自身の計画を受け入れるよう1週間の猶予を与えたが、この期間内に合意は成立しない見込みだ。同計画はウクライナに対し、広大な領土の割譲、軍事力の削減、NATO加盟の希望の放棄を義務付けているため、今週始まったトランプ大統領とゼレンスキー大統領のさらなる協議が、解決を図る上で明らかに必要となるだろう。

ゼレンスキーは、この計画を完全に拒否したわけではなく、先週、J・D・ヴァンス副大統領に対し、紛争を終わらせようとするトランプ大統領の決意を尊重すると伝えた。

そして英国、フランス、ドイツは今回初めて、何らかの解決策を真剣に検討する意思を示しているようだ――ただし今週これらの国が提案したイデオロギー主導の代替案はトランプ大統領によって拒否された。

興味深いことに、欧米の主流メディアは最近、ゼレンスキーに対する一様に称賛的な見方を修正している。もはや彼は聖人のような人物や成功した政治家として描かれていない。実際、一部のメディア報道はトランプの現実的な評価を反映している——紛争を防げたはずの失敗した指導者であり、有利な早期和平案を愚かにも拒否し、今や非常に厳しい和平条件を受け入れることを余儀なくされている人物として。

トランプ大統領の和平案は、一部の右派メディアによってさえ異論なく受け入れられている。例えばオーストラリアン・スペクテイター紙は先週の社説でこの案を支持したが、これはわずか12ヶ月前には全く想像もできなかったことだ。

もしトランプが究極の現実主義者であることを疑う者がいるなら、先週ホワイトハウスで行われた、新たに選出されたニューヨーク市長ゾラン・マムダニとの会談は、その点に関する疑念を払拭するに違いない。

マムダニの選挙運動中、トランプは彼を「100%の共産主義者で狂人」、「完全な頭のおかしい人」と非難し、対立候補である元民主党知事のアンドルー・クオモを支持した。トランプはまた、マムダニが市長に当選した場合、ニューヨークへの連邦資金を打ち切ると脅した。

したがって、トランプが先週マムダニをホワイトハウスに招いて会談した際、主流メディアは激しい論争を予想していた。

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しかしトランプはマムダニを温かく迎え、勝利を祝福し、記者団にこう語った:「私は彼を妨げるのではなく、支援するつもりだ」。実際トランプは、マムダニとの政治的提携が「ニューヨーク市を再び偉大にする」とほのめかした。さらにトランプは記者団を驚かせ、「彼の考えのいくつかは、まさに私自身の考えと同じだ」と述べた。

マンダニ自身も現実主義者的なところがあり、ニューヨークに必要不可欠な連邦資金を確保したいと考えていたに違いないため、トランプの熱烈な支持表明を快く受け入れた。

トランプは実際、現在の民主党指導部よりも左派ポピュリストのマムダニと協力する方がはるかに容易だと気づくだろう。結局のところ、民主党のエリート層はマムダニを心底軽蔑し、恐れているのだ。

トランプがマムダニを支持したのは、ニューヨーク市長が勝者だからだ——そしてトランプは来年の中間選挙でニューヨークでの選挙勝利を望んでいる。前回の大統領選挙では、トランプはニューヨークの労働者階級地区で非常に高い支持を得た——エリート主義的な民主党に投票することを拒んだ一般のニューヨーカーの票を集めたのである。

ここで再び、マージョリー・テイラー・グリーンとトランプ内部の MAGA 批判者たちについて考えてみよう。彼らは皆、献身的なイデオローグであり、トランプの政治的現実主義を理解することができない。

これが、トランプがグリーンとその攻撃をこれほど容易に無力化できた理由だ。トランプは彼女を「裏切り者」とレッテル貼りし、彼女が単に「おかしな人」だと正しく指摘した。その後、彼はエプスタイン関連の文書を全て公開することに同意した——どんな内容が明らかになろうとも、エプスタイン事件は「民主党の捏造」だと主張し続け、その影響を無視するつもりだと悟っていたからだ。

トランプは、エプスタイン騒動全体が、#MeToo ヒステリー(最も過激な woke 思想)の特に悪質な一派に過ぎず、彼の熱狂的な MAGA 支持者たちの評価を下げることはないことを知っている。エプスタイン騒動は英国では効果を発揮し、アンドルー王子のようにつけられた汚点を抱える有名人を破滅させるかもしれないが、トランプは、これまで何度も示してきたように、この種の批判にはまったく影響を受けない。

トランプは28項目の和平計画を発表し、エプスタイン関連文書を全面公開することに合意することで、グリーンとその支持者たちがもたらした政治的脅威を巧みに回避した。

トランプがゼレンスキーに28項目の和平案を受け入れるよう促し、先週ホワイトハウスでマムダニを歓迎する中、グリーン議員は議会を辞任し政治から完全に身を引くことを発表した。

こうしてわずか1週間余りで、トランプはウクライナ紛争を最終的に解決するための本格的な和平協議を開始し、最も声高に内部からMAGAを批判していた人物の政治生命を終わらせ、ニューヨークの「共産主義者」市長との政治的和解を仲介した。これらはすべて称賛に値する驚くべき成果であり、彼が究極の政治的現実主義者であることを裏付けている。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「トランプは究極の政治的現実主義者である(2025年12月10日)

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また英文原稿はこちらです⇒Trump is the ultimate political pragmatist
ウクライナ和平計画がどうなろうと、米国大統領は自らにとっていくつかの重要な勝利を確実に手中に収めた
筆者:グラハム・フライス(Graham Hryce)
オーストラリア人ジャーナリストで元メディア弁護士。彼の記事はオーストラリアン紙、シドニー・モーニング・ヘラルド紙、エイジ紙、サンデー・メール紙、スペクテイター紙、クアドラント紙に掲載されている。
出典:RT  2025年11月27日https://www.rt.com/news/628546-trump-ukraine-peace-pragmatist/

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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