日本の選択 孫崎 享氏 講演会

青柳貞一郎

※この記事は、青柳貞一郎氏のブログ「rakitarouのきままな日常」(2025年12月4日付)から、許可を得て転載したものです。

https://rakitarou.hatenablog.com/entry/2025/12/04/133810

2025年12月3日に独立言論フォーラムで行われた元外務官僚・元防衛大教授 孫崎 享氏 茶話会に出席しました。氏は来年2月にかもがわ出版から新刊を出すそうで、その内容と現在の高市・中国問題に沿った話題で興味深いものでした。以下に概要を備忘録的にまとめます。

〇 米国一極支配の終焉と日本の選択

有名なツキディティスの罠(覇権国と次の覇権国は戦争をする)の提唱者、元ハーバード大のグレアム・アリソン教授は、米国一極支配が終焉を迎えても中国と相互依存関係になれば必ずしも戦争に陥らず次の世界構造に移行できる、と発言している。

2025年毎年開催されるミュンヘン安全保障会議でルビオ国務長官は米国による一極支配は終焉を迎えたと演説してNATO諸国を困惑させました。

科学技術も経済も中国が世界一となった現在、旧来の思考や戦略で米国グローバル支配層の指示に従っていれば安心という時代は過去のものになったと認識しないといけない。

〇 沖縄・尖閣の領有権と施政権

米軍は2017年以来中国軍の台湾進攻に対する図上演習を18回行ったが、全て米国の敗退であることが分かっている。それは中国側・台湾側も十分理解していて、対応できる軍備を備えつつある。日本は個別的自衛権の範囲で国防を行う分には中国も反発しないが、それ以上の事を行えば必ず反発する。しかも事を起こせば必ず利益を得るまで辞めないだろう。

「台湾有事は日本の存立危機事態として対応」という発言が持つ意味は1972年9月の田中総理、周恩来総理による日中共同声明の趣旨を踏みにじる内容であることは明らか。

1972年日中共同宣言の第三項

ポツダム宣言第8項(外務省資料)

ここで、沖縄、尖閣の領有権の問題が出ますが、施政権は米国から明確に日本に返還されたことは内閣官房のホームページにも明記され、中国も異論ははさみませんが、領有権については「国際法上認められる」と日本は主張していますが、国際裁判所による裁定や中国などとの明確な条約がある訳ではなく、中国は領有権については「棚上げ」にすると条約締結時に日中で合意したことになっています。

領有権と明記せず施政権があるとする内閣府HP

領有権と施政権を分けて考える事は今回の米国がウクライナ・ロシアに提案した和平協定でも使われていて、ドンバスの領有をウクライナ、施政をロシアにすると言う内容。北方領土でも日本は「北方4島の領有権を日本、施政権をロシアにしては?」という交渉をプーチンと行ったことがある。

〇 中国政府は今回の件で「日中共同声明」ではなく「終戦時(ポツダム宣言)」に時を戻す

外交とは「自国主張を正当化する論陣」を張って、相手が納得しようがしまいが「だから日本の主張が正しく中国が誤りだ」で「問題が片付く」というものでない事は当たり前の事です。自国の主張、相手の主張を突き合せた上で妥協点を図る事を「外交」と言います。今日本で展開されている言論は相手の主張は一切聞かず、「自分が正しい」というのみ。正しい主張を認めない相手とは戦争も辞さない的な外交感覚ゼロの幼稚な理論ばかりです。孫崎氏によると中国は既に議論の対象を日中共同声明からポツダム宣言までさかのぼる所まで来ていると言います。日本は中国への国家賠償を免れていますが、もう一度この問題を蒸し返されて、米国や国連も「敵国条項」を持ち出して日本に譲歩を迫った場合どう対応するか、「国際輿論は強国に付く」という現実を威勢の良い人たちは理解できているのか極めて疑問です。敵国条項は正式には消滅していません。

〇 米軍産が目論む「スポンジ戦略」

米国本国以外で戦争を起こして、有り余る米国の軍備を(高く)使わせて軍産複合体が大儲けをする戦略を「スポンジ戦略」と言い、ベトナム戦争、湾岸、イラク・アフガン戦争、そしてウクライナ戦争と時には米国の貧困層の若者を犠牲にしながらも続けられてきました。次の目標は日中戦争であることは公然の秘密であり、今までの戦争履行者やゼレンスキー氏に多大な報奨金が用意されていた様に、今回の事で日中戦争にまで発展すれば高市総理には米国内で多大な褒賞が用意されることは間違いないと言われます。1970年台であれば、日本の経済力、技術力は中国にとって魅力であり、多少の譲歩をしても日本と仲良くすることで中国の得る利益は大きいものでした。しかし経済・工業力・原材料の産出、AI技術全てにおいて中国が勝っている現在、中国が日本に譲歩することで得るものは少ないのが現実でしょう。これ以上拗らせる事に何の意味があるのか、再度よく考えて行動するべき時だろうと思います。

〇 米軍が台湾のために戦うことはない

2025年12月4日のJudge Napolitanoで、日本の首相が「米軍と共に台湾有事で戦う」と言っているが正気か?という前トランプ政権で顧問を務めたマクレガー退役大佐への質問で「明らかに狂っている」と明言。中国がメキシコに来て米国と戦えるか?ありえない。米国が台湾で戦うなど正気でない。しかも日本は中国と貿易をして経済を盛り上げる必要があるだろう?」なんともまともな意見。

日本の首相の言葉はabsolutely insaneというマクレガー大佐

青柳貞一郎 青柳貞一郎

防衛医科大学卒業、元陸上自衛隊医務官、医師、東京医科大学名誉教授、医療・軍事ジャーナリスト。温暖化とコロナに流されない市民の会代表。 ブログ:「rakitarouのきままな日常」https://rakitarou.hatenablog.com/

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