【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.12.16XML :シドニーでの銃撃事件を利用してパレスチナ人虐殺を批判する声を封印する動き

櫻井春彦

 オーストラリアのシドニーにあるボンダイ・ビーチで12月14日、ユダヤ教の祭りであるハヌカーのフェスティバルが襲われ、15人が死亡、数十人が負傷したと伝えられている。イスラム教徒の親子ふたりが銃撃、父親は警察に射殺され、負傷した息子は逮捕されたという。射殺される前、シリア系のイスラム教徒であるアハメド・アル-アハメドが父親から銃を奪っている。

 

この事件を利用し、イスラエルによるパレスチナ人虐殺を批判してきた人びとを攻撃するメディアも出てきた。ユダヤ人を含む人びとがナチに弾圧されたからといって、イスラエルのパレスチナ人虐殺が正当化されないのと同じように、ガザにおける大量虐殺に反対する意見を封印する口実にボンダイ・ビーチの事件を利用することは許されない。

 

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はパレスチナ国家樹立の呼びかけが反ユダヤ主義を煽っていると主張したようだが、イスラエルの樹立が破壊と大量虐殺を生み出している。世界的にイスラエル批判が高まっている一因はネタニヤフ政権の政策にあるとも言える。

 

ネタニヤフ政権は2023年10月7日以降、ガザで住民を大量虐殺、建物は灰燼に帰した。10月7日にハマスがイスラエルを攻撃、約1200名の市民を殺害したからだと親イスラエル派は主張しているが、​イスラエルのハーレツ紙によると、侵入した武装グループを壊滅させるためにイスラエル軍は占拠された建物を人質もろとも砲撃、あるいは戦闘ヘリからの攻撃で破壊している。​イスラエル軍は自国民の殺害を命令したというのだ。いわゆる「ハンニバル指令」である。

 

ハマスの攻撃が唐突に起こったわけではない。2023年4月にネタニヤフ首相は警官隊をイスラムの聖地であるアル・アクサ・モスクへ突入させ、同年10月3日にはイスラエル軍に保護された832人のイスラエル人が同じモスクへ侵入してイスラム教徒を挑発している。ハマスなどの武装集団がイスラエルを陸海空から攻撃したのはその後だ。

 

その攻撃から間もなく、ネタニヤフ首相は「われわれの聖書(キリスト教における「旧約聖書」と重なる)」を持ち出し、パレスチナ人虐殺を正当化している。

 

聖書の中でユダヤ人と敵だとされている「アマレク人があなたたちにしたことを思い出しなさい」(申命記25章17節から19節)という部分を彼は引用、「アマレク人」をイスラエルが敵視しているパレスチナ人に重ねたのである。

 

その記述の中で、「アマレク人」を家畜と一緒に殺した後、「イスラエルの民」は「天の下からアマレクの記憶を消し去る」ことを神は命じたという。「アマレク人」を皆殺しにするという宣言だが、このアマレク人をネタニヤフたちはアラブ人やペルシャ人と考えているのだろう。

 

サムエル記上15章3節には「アマレクを討ち、アマレクに属するものは一切滅ぼし尽くせ。男も女も、子供も乳飲み子も牛も羊も、らくだもろばも打ち殺せ。容赦してはならない。」と書かれている。これこそがガザでイスラエルによって行われていることだと言える。

 

ネタニヤフによると「われわれは光の民であり、彼らは闇の民」なのである。その発言通り、ネタニヤフ政権は子どもを含むパレスチナの民間人を虐殺、それを欧米諸国の政府は支援してきた。怒りの声はイスラエル政府だけでなく、ガザでの虐殺を支援してきた西側諸国の政府にも向けられている。その怒りを封印するため、ボンダイ・ビーチの事件は利用されている。親イスラエル派は今後もパレスチナ人虐殺を容認するつもりのようだ。

 

実は、1982年にもイスラエルに対する批判が高まっている。この年の6月、PLOのヤセル・アラファトと対立していたアブ・ニダル派のメンバーがイギリス駐在のイスラエル大使を暗殺しようと試みた。この出来事を口実にしてイスラエル軍はレバノンへ軍事侵攻した。

 

8月21日にアメリカの仲介で戦闘は終結、西側諸国が監視する中、パレスチナの戦闘員は9月1日までにベイルートから撤退。西側諸国は難民と難民キャンプの保護が保証された。

 

撤退の直後、イスラエルのメナヘム・ベギン首相はレバノンのバシール・ジェマイエル大統領と会談し、イスラエルとの和平条約への署名を強く求めたが、イスラエルとの和平条約の締結を拒否し、残存するPLO戦闘員を掃討するための作戦を承認しなかった。

 

パレスチナ難民の安全を保証していた国際部隊は9月11日にベイルートから撤退、ジェマイエルは9月14日に暗殺された。その翌日にイスラエル軍は停戦協定を無視して西ベイルートへ侵攻したが、難民キャンプへはファランヘ党の部隊を入れることにしていた。

 

ファランヘ党を中心とする部隊は9月16日、イスラエル軍から提供されたジープに乗り、イスラエル軍から提供された武器を持ち、イスラエル軍の命令に従って行動する。そしてサブラとシャティーラの難民キャンプへ侵攻し、大量虐殺を始めた。1万数千名の市民が殺されたとされている。

 

パレスチナ人を虐殺したのはレバノンのファランヘ党だが、そのファランヘ党にパレスチナ人を虐殺させたのはイスラエルであり、反イスラエル感情は世界に広がる。

 

それを危惧したロナルド・レーガン米大統領は1983年、メディア界で大きな影響力を持つルパート・マードックとジェームズ・ゴールドスミスを呼び、軍事や治安問題で一緒に仕事のできる「後継世代」について話し合った。それがBAP(英米後継世代プロジェクト、後に米英プロジェクトへ改名)にほかならない。

 

そのプロジェクトには編集者や記者も参加、有力メディアのプロパガンダ機関色は強まった。現在、ガザではサブラとシャティーラでの虐殺をはるかに上回る大量虐殺が展開されているが、虐殺システムに組み込まれている西側の有力メディアのイスラエル批判が弱いのは必然だ。

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※なお、本稿は「櫻井ジャーナル」https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/のテーマは「シドニーでの銃撃事件を利用してパレスチナ人虐殺を批判する声を封印する動き 」2025.12.16XML)
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