【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年12月19日):NATOは「永遠ではない」と宣言した新たな「米国国家安全保障戦略(NSS)」を批判的に読み込む

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

欧州の支配層は今や孤立し、国民からは支持されず、死に体。

写真: Public domain
「国家安全保障戦略(NSS)」(National Security Stragegy)は、米政権によって定期的に策定される(トランプは最初の任期中に1つ作成した)。これらの文書の大半は、政権の外交・安全保障政策の理想像を提示するものであり、実質的な重要性は低い。なぜなら、そこには以下のような要素が意図的に排除されているからだ:

・米国に深く根ざした政治的・経済的利益
・根強い米国の政治的・経済的利益・深層安全保障国家の管理層が主導する外交政策における深いコンセンサス
・大口献金者集団が支持する政策

とはいえ、最近発表されたこの「国家安全保障戦略(NSS)」は、米国の外交政策に独特の「アメリカ・ファースト」の色合いを添え、世界的な覇権主義や「支配」、そしてイデオロギー的な十字軍を排し、国土安全保障、経済的繁栄、そして西半球における地域的優位といった中核的な国家利益の保護に焦点を絞った、実利的なリアリズムを重視することで、これまでとはかなり異なる印象を与えている。したがって、米国は「もはやアトラス神のように世界秩序全体を支えることはなく、欧州にも自国の防衛負担のさらなる負担を求める」ことになる。

NSSは米国がかつて追求した世界的な覇権は「失敗」であり、結局は米国を弱体化させたとして批判し、トランプの政策をその姿勢に対する「必要な修正」と位置づける。したがって、多極化世界への傾きを受け入れる。

二つの主要な外交政策目標は、根本的に再構築されるのではなく、微妙な調整が加えられる

まず、中国は「主要な脅威」から「ゆっくり進む脅威」、そして経済競争相手へと格下げされた(台湾は抑止力として扱われている)。

そしてロシアに関してはこうだ:

「ウクライナにおける敵対行為の迅速な停止を交渉することは、欧州経済の安定化、戦争の、意図せざる拡大・激化の防止、ロシアとの戦略的安定の再構築、そしてウクライナが存続可能な国家として再生するための戦後復興を可能とするため、米国の核心的利益である。」

この文書(NSS)はロシアとの「戦略的平和」には言及しておらず、「敵対行為の停止」、すなわち停戦のみに言及している。この慎重な言葉遣いは、トランプ大統領がロシアとの安全保障上の懸念に関する完全な解決ではなく、停戦、すなわち「敵対行為の停止」のみを意図していることを示唆しているのかもしれない。

NSSは欧州とロシアの関係を「著しく希薄化」と表現している:

「トランプ政権は、不安定な少数与党政権に支えられた戦争に対して非現実的な期待を抱く欧州当局者と対立している。こうした政権の多くは、反対派を弾圧するために民主主義の基本原則を踏みにじっている。欧州の大多数は平和を望んでいるが、その願望は政策に反映されていない。その主な理由は、これらの政府が民主的プロセスを破壊しているためである。欧州諸国が政治的危機に陥っている限り自らを改革できないという事実こそが、米国にとって戦略的に重要な点なのである。」

本質的に、ウクライナは今後ヨーロッパ諸国の責任として押し付けられる。より広く言えば、同盟国が費用を負担することが期待されている――その間、米国は国内基盤を強化することになる。

NSS における最も大きな変化の 1 つは、アメリカが今や世界覇権国ではなく、強化された半球規模の大国として定義されている。

「我々は、敵対的な外国の侵入や重要資産の所有から自由であり、重要なサプライチェーンを支える西半球を望んでいる。そして、我々は主要な戦略的拠点への継続的なアクセスを確保したい。言い換えれば、我々の立場はモンロー主義の『トランプ的帰結』であり、それを実行に移すつもりだ」。

軍事戦略に関しては、NSSは「西半球における緊急の脅威に対処するために世界的な軍事戦略を再調整する」ことが必要であると述べている。

おそらく実践的な影響という点で最も意味のある側面は、「拡大を続ける同盟としてのNATOを終わらせる」という言及であり、そして最も厳しい言葉で批判されるヨーロッパへの言及である:

NSSは、欧州の経済停滞、人口減少、EU機関への主権喪失、そして「文明の消滅」を強く批判している:

「我々はヨーロッパがヨーロッパであり続け、文明としての自信を取り戻し、規制による窒息状態という失敗した方針を放棄することを望む」。

NSSは、EUおよび多くの加盟国のリベラル/テクノクラート(技術的官僚)的エリート層が、欧州の未来と地域の安定、そして米国の利益に対する脅威であると宣言している。欧州における愛国的右派への支援と、欧州の現在の方向性に対する「抵抗の醸成」が米国の利益にかなうことを明確にしている。

NSSは、欧州と米国の利益に対する最も深刻な長期的脅威として人口置換(移民)を指摘し、現状の動向を踏まえ、欧州諸国の一部が今後も信頼できる同盟国であり続けるかどうかを公然と疑問視している。

したがって、大西洋横断関係(NATO)は依然として存在するが、もはや米国外交政策の中心的な位置を占めてはいない。

動転する欧州エリート層

欧州の指導者たち(元スウェーデン首相カール・ビルトを含む)は、NSS(国家安全保障戦略)が欧州を「極右のさらに右」と表現したことを批判した。米国では、ジェイソン・クロウ下院議員ら民主党議員が、NSSを同盟関係、すなわちNATOにとって「壊滅的」だと断じた。

ヨーロッパから発せられるパニック的な叫びを完全に理解するには、少し背景を知る必要がある。

woke(覚醒)運動のリベラル派政治は「他者性」を許さず、意見の相違も許さなかった。

ワシントン・ポスト紙のコラムニストでMSNBCのコメンテーターであるジェニファー・ルービン(同紙が「バランス」のため「共和党系コラムニスト」として長年引用してきた人物)は、2022年9月の寄稿で、議論に「両論」が存在するという概念そのものを否定した。なぜなら、いかなる反対論も保守派に合理性を付与することになるからだ:

我々は本質的に、共和党を焼き払わねばならない。彼らを根こそぎにしなければならない——なぜなら、もし生き残りがいれば、もしこの嵐を乗り切る者がいれば、彼らは再び同じことを繰り返すからだ・・・トランプとその擁護者、支持者を理性的な(賢明とすら見なされている!)存在として扱うこの茶番劇は、メディア体制が・・・この「異質なものを同等とみなす誤り(false equivalence)捨て去ろうとしないことから生じている。

そして当時のバイデン大統領も同月の演説で、ルービンとほぼ同じことを述べた。歴史ある独立記念館で、不気味な赤と黒のライトに照らされた会場で、バイデンは海外からの脅威を明確に拡大し、より身近な「ドナルド・トランプとMAGA共和党」による別のテロの脅威についても警告した。バイデンは、トランプとMAGA共和党は「共和国の根幹を脅かす過激主義の代表」だと述べた。

この終末論的メッセージの核心的教義は、やがて大西洋を越えてブリュッセルの指導層を掌握し改宗させた。これは別に驚くべきことではない。EUの規制に基づく単一市場は、まさにあらゆる政治的「対立」を技術官僚主義で置き換えることを意図していたのだ。欧州エリートたちは、EUの帰属意識の空白を埋める価値観体系を切実に必要としていた。しかし解決策はすぐそこにあった:

「独裁者の欲求は満たされることはない。それには対抗しなければならない。独裁者はただ一つの言葉しか理解できない。『ノー』『ノー』『ノー』(拍手)。『ノー、あなたは私の国を奪うことはできない』『ノー、あなたは私の自由を奪うことはできない』『ノー、あなたは私の未来を奪うことはできない・・・帝国の再建に固執する独裁者は、決して人々の自由への愛を和らげる(消す)ことはできない。残虐行為は決して自由人の意志を粉砕することはできない。そしてウクライナ――ウクライナは決してロシアの勝利にはならない。決して』。(拍手)」。

「共に立ち上がろう。我々はあなたと共に立つ。前進しよう・・・闇ではなく光の味方となるという揺るぎない決意をもって。抑圧ではなく解放の味方となるという決意をもって。束縛ではなく、そう、自由の味方となるという決意をもって」。

バイデンがワルシャワで行った後の演説(上記)は、照明効果と「リバティ・ホール」演説を彷彿とさせる劇的な背景を伴い、国内のMAGA反対勢力をアメリカへの重大な安全保障上の脅威として描き出そうとした。そして今回はロシア(関連する米国のMAGA脅威に対する外部の対極として位置づけられたロシア)を、過激なマニ教的善悪二元論に依拠して描いたのである。これは光と闇の勢力が繰り広げる壮絶な戦い——終わることなく戦い続け、圧倒的な勝利を収めねばならない戦い——というバイデンが作り上げた枠組みであった。

再びバイデンは、アメリカの根深い宣教的理念を「丘の上の都」として固めようとしていた。それは世界への灯台であり、ロシアの「悪」に対する「永遠の」宇宙的戦争への道標である。彼はアメリカの支配階級を「光」のための形而上学的闘争に結びつけようとしたのだ。

デイヴィッド・ブルックス(『パラダイスのボボたち』著者、リベラル派のニューヨーク・タイムズ紙コラムニスト)は、当初このリベラル思想に魅了されたと認めつつ、後にこれが大きな誤りだったと告白している:「彼ら(リベラル派)を何と呼ぼうと、文化・メディア・教育・テクノロジーを支配する閉鎖的で近親相姦的なバラモン的エリート層へと固まった」。

彼は認める:「エリート層の価値観を、言論や思考の規範を通じてこれほどまでに積極的に押し付けようとするとは予想していなかった。創造的階級が自らの経済的特権を守るため、いかに巧みに障壁を築き上げるかを過小評価していた・・・そして、思想的多様性に対する我々の不寛容さも過小評価していたのだ」。

端的に言えば、この思想コードこそが欧州エリート層に絶対的純粋性と汚れなき美徳という輝かしい新たな信仰をもたらし、EUのあまりにも明白な帰属意識の欠落を埋めたのである。その結果、その布教の怒りを「他者」に向けさせる尖兵が呼び起こされたのだ。

フォン・デア・ライエンは2022年、欧州議会で「一般教書」演説を行った際、バイデン大統領の発言をほぼそのまま繰り返した:

「外国の独裁者が我が国を標的にしていることを、我々は見失ってはなりません。外国の組織は、我々の価値観を損なう機関に資金を提供しています。彼らの偽情報はインターネットから大学の廊下にまで広がっています・・・こうした嘘は、我々の民主主義にとって有害で​​す。考えてみてください。我々は、安全保障上の懸念から外国直接投資を審査する法律を導入しました。経済のためにそうするのであれば、『我々の価値観』についても同様のことをすべきではないでしょうか?悪意ある干渉から自らをより強固に守る必要があります・・・いかなる独裁政権のトロイの木馬も、『我々の民主主義』を内側から攻撃することを許しません。」

アメリカのリベラルエリート層である「ボボス(Bourgeois Bohemians)」とEUのリベラル戦士たちが結託したが、それでもなお世界中の多くの人々は、ロシアとの長期戦争を主張するバイデンの「路線」をブリュッセルの指導部がいかに素早く受け入れたかに驚愕した。その服従は、ヨーロッパの経済的利益と社会の安定に明らかに反するように見えた。

簡単に言えば、それは究極的には過激なマニ教(善悪二元論)に根ざした選択による戦争だったようだ。

1949年のNATO設立当初は、その明確な反共産主義的姿勢ゆえに、ヨーロッパの左派から概ね反対された。しかし、1999年のNATOによるベオグラード爆撃を契機に、NATOはより広範な左派(社会民主主義者やリベラル派を含む)の一部にとって、リベラルな思想の伝播と「我々の民主主義」(これは当時のバイデン氏の表現だった)の強化のための手段として変貌を遂げた。

EU の指導部は NATO およびバイデン・プロジェクトと完全に融合した。当時のドイツ外相、アンナレーナ・ベアボック(Annalena Baerbock)は、バイデンと同様に「ロシアを滅ぼす」ことに全力を尽くしており、2022年8月にニューヨークで行った演説で、米国とドイツが支配する世界のビジョンの外観を述べた。1989年、ジョージ・ブッシュ大統領はドイツに「指導力におけるパートナーシップ」を提案したことはだれでも知っていると、ベアボックは述べた。しかし当時、ドイツは統一作業に忙殺されその提案を受け入れる余裕がなかった。今日、状況は根本的に変化したと彼女は述べた。「今こそ、私たちがそれを実現すべき時が来たのです。指導力における共同のパートナーシップを」と。

「リーダーシップ・パートナーシップ」が軍事的な観点から理解されていることに触れ、彼女は次のように述べた:

「ドイツでは、長年堅持してきた『貿易による変革』という信念を放棄した・・・我々の目標はNATOにおける欧州の支柱をさらに強化することである・・・そしてEUは米国と対等な立場で、すなわち指導的パートナーシップにおいて対峙できる連合体とならねばならない。」

したがって、欧州エリート層がNSSによる欧州への痛烈な批判に抗議するのは、単にアメリカがアメリカに媚びへつらうため全てを捨てた欧州支配階級に背を向けたからだけではない。NSSは彼らの民主主義への破壊行為を糾弾し、将来の同盟国として適格かさえ疑問を呈している。

NATOはもはや「永遠の存在ではない」とNSSは断言している。

欧州の支配層は今や孤立し、国民からは支持されず、死に体。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「NATOは「永遠ではない」と宣言した新たな「米国国家安全保障戦略(NSS)」を批判的に読み込む(2025年12月19日)

http://tmmethod.blog.fc2.com/

また英文原稿はこちらです⇒NATO declared to be ‘not forever’ – A critical reading of the new U.S. National Security Strategy
筆者:アラステア・クルーク(Alastair Crook)
出典:Strategic Culture  Foundation  2025年12月11日https://strategic-culture.su/news/2025/12/11/nato-declared-to-be-not-forever-a-critical-reading-of-the-new-u-s-national-security-strategy/

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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