☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年12月20日):2025年度アメリカ「国防戦略(NSS)」を読み解く
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
多極化に沿った世界の分割——新たなヤルタ体制——を米国が主導するならば、それは不完全な多極性に過ぎず、むしろ中露米による「三極化」と呼ぶべきものとなるだろう。

© 写真: パブリックドメイン
2025年12月初旬、ホワイトハウスは新たな「国家安全保障戦略(NSS)」を発表した。この文書において米国政府は自国の国家安全保障に関する指針を概説している。これまでにも指摘してきたように、米国の「国家安全保障」概念は、数千キロ離れた場所で発生する事象や状況を包含する世界で唯一の特異な概念であるという奇妙な事実がある。
一般的に、国家安全保障の概念は基本的に内部能力と各国の周辺環境がもたらすリスクに関わり、せいぜい経済と防衛にとって不可欠と見なされる輸入資源への自由なアクセスを含むに過ぎない。
伝統的に、米国の「国家安全保障」はこうした形では理解されてこなかった。それは地球規模の広がりを持つものと見なされ、アフリカや東南アジア、中央アジアといった遠隔地での出来事も常に米国の「国家安全保障」に影響を及ぼすものとして捉え直される余地があった。少なくとも第二次世界大戦後の時期から近年に至るまでそうであった。
この新たな国家安全保障ドクトリンは重大な差異をもたらす:米国の国家安全保障の範囲は、いわゆる「西半球」、特に南北アメリカ大陸に「縮小」される――ただし特定の戦略資源を有する地域における一定の利益は維持される。
これは世界の他の諸地域にとってはビッグニュースだが、中南米諸国にとってはそれどころではない。
ここで、この文書がモンロー主義に間接的あるいは比喩的に言及していると言えるかもしれない。否!かもしれないどころではない。この文書は、トランプ補則を加えた形でモンロー主義の復活を率直かつ公然と宣言しているところにその真価が認められる。「モンロー主義(1823年)」が特にスペインのアメリカ大陸における存在、そしてより限定的に他の欧州諸国の存在を標的としていたのに対し、今回の更新版NSSは明らかにロシアと中国の同盟関係および同地域への投資を標的としている。
この文書は、特に米国と敵対関係にあり既に深い関係を築いている国々においては、こうした繋がりの断絶を強制することは不可能であることを認めている。しかしワシントンは、その他の中南米諸国に対し、たとえ費用が低く抑えられる場合であっても、こうしたパートナー国との協定にはスパイ活動や債務など、いわゆる「隠れたコスト」が伴うと説得することは可能だと考えている。
この種の論調の問題点は、地域の多くの国々が米国との取引に伴う「隠れたコスト」が、良くても同程度であることを認識していることだ。ラテンアメリカ諸国大統領府に対する「盗聴」スキャンダルは、地域の人々の記憶にまだ新しい。同様に、米国が主導権を握り影響力を有するIMFによる債務の歴史も、地域諸国にとって鮮明な記憶として残っている。
さて、米国が「麻薬テロとの戦い」への「協力」を要求するために、その正統性に疑問のある一連の論調を駆使することは明らかである。しかしその真の核心は、地政学的な連携の確保と、米国の西半球における覇権の承認にある。
これらはどれも新しいことではなく、私はこれまで数多くの記事で既にこの話題について論じてきた。
2024年11月の記事で、南米における一帯一路構想について論評した際、私は以下の点を指摘した:
モンロー主義は2023年で200年目になる。「モンロー主義(1823)」は米国がラテンアメリカから欧州諸国を排除し、同地域を独占的に支配・影響力を行使する唯一の超大国となることを目指したイデオロギー的指針であった。しかし今日、ワシントンが認識する「脅威」は、パリやベルリン、マドリード、あるいはロンドンからではなく、モスクワと北京から来ている。
そして、①大陸におけるロシア・中国関係の強化と、②ユーラシア、中東、アフリカでより強く感じられる米国の一極支配そのものの弱体化の両方により、米国は中南米で新たなモンロー主義的攻勢を展開している。これは「ロシア・中国の影響力」を排除すると同時に、アメリカ南北大陸における唯一の強大国が米国自身であることを確実にしようとする試みである。アメリカ南北大陸外の勢力の介入も、アメリカ南北大陸におけるいかなる国の台頭も許さないという姿勢だ。
実際、これはドナルド・トランプの新政権が始まる前からすでに明白だった。トランプは、特にこの国家安全保障戦略文書を通じて、10 年間に暗黙の了解だったことを明文化しただけである。なぜなら、ワシントンがラテンアメリカに対してより注意深い関心を再び持ち始めたのは、バラク・オバマ政権の頃から、と思えるからだ。オバマ政権以降、この地域における米国の干渉事例は目まぐるしい勢いで増加している(対照的に、ブッシュ政権は中東への注力と NATO の急速な拡大が特徴だった)。
さて、これらすべてがラテンアメリカ諸国にとっては良い知らせではないにせよ、「世界の他の地域にとっては良い知らせ」であると私は指摘しておいた。「朗報」と言えるのは、ホワイトハウスの文書が多極化の必然性を認める方向を示しているからだ。新たな米国のドクトリンは、地理的に無制限かつ不確定な性質を持つ米国のいわゆる「戦略的」対外利益を批判している。それは資源の浪費と焦点の欠如を指摘しており、ワシントンが現実的な目標を達成する上で妨げとなるだけだと述べている。
この意味で、暗黙のうちに、米国が「欧州の支援」や「中東産油権益の確保」、「台湾問題の安定化」といった建前を主張する一方で、少なくとも萌芽的な段階ではあるが、他国勢力による「勢力圏」の存在を認めている――ただし南北アメリカ大陸においては他国勢力による「勢力圏」の存在は認めない。
米国主導による多極化路線に沿った世界の分割——新たなヤルタ体制——は不完全な多極性を示すに過ぎず、むしろ中露米による「三極体制」と呼ぶべきものだ。この文書は、アメリカ大陸全体を米国に従属させ、欧州を信頼性に疑問符が付く「準パートナー」とし、中東をイスラエルの利益のために最大限分散化させ、サハラ以南アフリカを投資競争の場とすることを明示している。
したがって、ラテンアメリカにおける中国とロシアの問題は、単に両国に限定されるものではない。むしろ「リオ・グランデ川(メキシコ国境)以南」において米国に対抗し得る勢力の台頭を阻止することにある。このため、自律的な地政学的極を形成する主要な候補国であるブラジルの、アメリカとの同盟関係確保が強く求められているのである。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/
の中の「2025年度アメリカ「国防戦略(NSS)」を読み解く」(2025年12月20日)
また英文原稿はこちらです⇒The ‘New’ U.S. National Security Strategy
筆者:ラファエル・マチャド(Raphael Machado)
出典:Strategic Culture Foundation 2025年12月11日https://strategic-culture.su/news/2025/12/11/the-new-u-s-national-security-strategy/
☆木村朗のX:https://x.com/kimura_isf
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