【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】 2025.12.22XML : 高市政権と連動して米政権は台湾に大規模な兵器パッケージを承認、中国を挑発

櫻井春彦

 アメリカのドナルド・トランプ政権は台湾に対し、111億ドルを上回る規模の兵器パッケージを承認した。その中にはM142 HIMARSシステム82基、M57 ATACMSミサイル420基、精密誘導ロケット1200発以上が含まれている。M57ミサイルの一部は最大射程距離が約500キロメートルと推定される最新型のミサイルだという。

 

アメリカは台湾で中国を挑発しているわけだが、アメリカと中国はベネズエラでも激しく対立している。トランプ政権はウクライナを舞台にしたロシアとの戦争から距離を置く一方、ベネズエラに対する軍事的な圧力を強めている。

 

そうしたアメリカの行動をロシア、中国、イランなどは批判、ベネズエラを支援している。すぐにでも始まると見られていたアメリカ軍の侵攻は実行されていないが、その原因はロシアなどのアメリカに対する警告が影響しているのだろう。ロシアは防空システムを供与しただけでなく軍用艦船を派遣、傭兵もベネズエラへ入ったと言われ、中国もアメリカに対する経済戦争を始める姿勢を見せている。

 

トランプ政権の中国に対する軍事的な圧力と連動した動きを見せているのが日本の高市早苗首相。10月7日に同首相は衆院予算委員会において、台湾有事について問われ、「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだ」と発言した。

 

歴代の日本政府は「ひとつの中国」を受け入れてきた。高市首相もそうした立場を継承するならば、台湾で戦闘があってもそれは内戦ということになる。高市首相の発言は、中国で内戦が始まった場合、日本は宣戦布告するということを意味する。

 

高市首相は11月11日、衆院予算委員会で「核を保有しない、製造しない、持ち込まない」という非核3原則を堅持するかどうかという質問に対して明言を避け、11月23日には小泉進次郎防衛相が与那国島を視察した際、同島にミサイルを配備する計画を発表した。与那国島、奄美大島、宮古島、石垣島、そして台湾にミサイルを配備することをアメリカ軍は予定しているので、その計画を実行するということだ。

 

アメリカ国防総省系のシンクタンク「RANDコーポレーション」が2022年4月に発表した報告書は、GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画について説明している。​アメリカの計画に基づいて自衛隊は軍事施設を建設したと言えるだろう。核弾頭を搭載できるトマホークを配備するともされているが、トマホークが発射されたなら、相手は核弾頭が搭載されているという前提で反応する。つまり核兵器で反撃される可能性がある。

 

GBIRMで中国を包囲する計画は2016年の前に作成されているはずであり、高市早苗首相が11月7日に衆議院予算委員会で行った「台湾有事発言」を「舌禍」と呼ぶべきではないだろう。アメリカ軍の対中国戦略を始動させるために発言した可能性が高い。

 

そして12月18日、「高市早苗政権で安全保障政策を担当する政府高官」が日本は核兵器を保有すべきだと記者団に対し、「オフレコ」という条件で語ったと伝えられている。

 

日本は明治維新以来、米英金融資本の影響下にあり、第2次世界大戦で敗北してからはアメリカ軍に占領されている。主権国家とは言い難いのだが、1991年12月にソ連が消滅した後、従属の度合いは強まった。

 

1992年2月、アメリカの国防総省ではDPG(国防計画指針)の草案が国防次官を務めていた大物ネオコンのポール・ウォルフォウィッツが中心になって作成された。いわゆる「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」だ。この指針を読むと、ソ連の消滅でアメリカは唯一の超大国になったとネオコンは確信、世界制覇戦争を始めようとしていたことがわかる。

 

そのドクトリンにはドイツと日本をアメリカ主導の集団安全保障体制に統合し、民主的な「平和地帯」を創設すると書かれている。要するにドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込み、アメリカの支配地域を広げるということだが、最重要事項は新たなライバルの出現を防ぐことだ。日本がライバルに成長することもアメリカは許さない。1990年代から日本経済が低迷しているのは必然だ。

 

日本がアメリカの戦争マシーンに組み込まれたのは1995年だと言えるだろう。日本が独自の道を歩もうとしているとネオコンのマイケル・グリーンとパトリック・クローニンはカート・キャンベル国防次官補(当時)に報告、1995年2月になると、ジョセイフ・ナイは「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」を発表してアメリカの政策に従うように命令している。

 

その頃、日本を震撼させる出来事が相次いだ。1994年6月に長野県松本市で神経ガスのサリンがまかれ(松本サリン事件)、95年3月には帝都高速度交通営団(後に東京メトロへ改名)の車両内でサリンが散布された(地下鉄サリン事件)。松本サリン事件の翌月に警察庁長官は城内康光から國松孝次へ交代、その國松は地下鉄サリン事件の直後に狙撃された。そして1995年8月にはアメリカ軍の準機関紙と言われているスターズ・アンド・ストライプ紙に85年8月12日に墜落した日本航空123便に関する記事が掲載される。

 

ネオコンの世界制覇プロジェクトはソ連の消滅、ロシアは欧米の属国になり、金儲けにしか興味のない中国人は欧米の戦略に逆らわないという前提で進められた。

 

しかし、物事が計画通りに進むのは最初だけで、その後は状況に合わせて対応しなければならない。そこで情報分析が重要になるのだが、その能力がアメリカでは低下している。公になっている情報を調べるだけでもわかることをCIAの分析官は大統領に伝えていないようだ。

 

ネオコンは冷戦時代、分析部門に対抗するため、CIAの内部にチームBというプロパガンダ部門を作った。ジョン・ブレナンはバラク・オバマ政権でCIA長官を務めた際、分析局所属の分析官と作戦局所属の作戦担当官をハイブリッド・ミッションセンターに統合したのだが、その結果、分析官は作戦部門に従属することになった。

 

旧日本軍が無謀な侵略戦争で敗北した一因は情報の軽視にあったが、同じことをネオコンは行っている。CIAでは作戦部門の失敗を分析部門が指摘できなくなり、作戦は成功しているとする話だけが伝えられるようになった。ウクライナを舞台にした戦争でNATOが敗北、EUが崩壊へと向かっているが、その一因はそこにあるだろう。

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※なお、本稿は「櫻井ジャーナル」https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/のテーマは「高市政権と連動して米政権は台湾に大規模な兵器パッケージを承認、中国を挑発 」2025.12.22XML)
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