【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】 2025.12.24XML: ベネズエラを軍事侵攻できないトランプ政権はタンカーに対する海賊行為を続ける

櫻井春彦

 アメリカの沿岸警備隊は12月20日、ベネズエラ沖の国際水域で中国が所有するタンカーを拿捕、さらに別のタンカーを追跡していると伝えられている。「麻薬テロ」の資金源を断つためだとドナルド・トランプ政権は主張しているが、確認石油埋蔵量が世界最大と言われているベネズエラを支配し、さらにラテン・アメリカ全域をかつてのように植民地化したいのだろう。

 

麻薬取引は情報機関の工作と関係が深い。アメリカのCIAはベトナム戦争の際にはヘロイン、中央アメリカで秘密工作を実行した際にはコカイン、アフガン戦争の際にはヘロインを製造し、売り捌いて資金を調達している。

 

アメリカの巨大資本はラテン・アメリカを支配するため、配下の軍人を育成してきた。その育成施設としてアメリカ政府は1946年にパナマでSOA(米州訓練所)を創設、対反乱技術、狙撃訓練、ゲリラ戦、心理戦、軍事情報活動、尋問手法などをラテン・アメリカ各国から集めた軍人に教え込んでいた。そうした軍人がラテン・アメリカのクーデターで中心的な役割を果たしている。そのSOAをパナマ政府は1984年に追い出し、アメリカのジョージア州フォート・ベニングへ移転、2001年には「WHISCまたはWHINSEC(西半球治安協力研究所)」へ名称を変更した。

 

そうした訓練を受けた軍人が支えるニカラグアのソモサ体制を1979年に左翼ゲリラのサンディニスタが倒してしまう。そこでアメリカのジミー・カーター政権はサンディニスタ政権を倒すために「コントラ」と呼ばれる武装組織を編成する。そのメンバーにはソモサ時代の国家警備隊メンバーが参加していた。

 

この武装組織はエル・サルバドルでの反革命作戦にも参加している。この国で巨大資本の代理人として活動していたのは「14家族」で、支配の道具として「死の部隊」を編成していた。支配者にとって目障りな人間を拉致、拷問、暗殺していたが、そうした弾圧を批判したカトリックのオスカル・ロメロ大司教が1980年3月に暗殺されている。死の部隊を指揮していたロベルト・ダビッソンはSOAで訓練を受けた軍人だ。

 

ソモサ家はイスラエルとの関係が深いことでも知られていた。同家のアナスタシオ・ソモサ・ガルシアはシオニストへ外交特権を与え、武器を供給するなどしてイスラエルの建国に協力した人物である。

 

1970年代にはロサンゼルス市警の一部捜査官がコカイン取引の背後にCIAが存在していることに気づいていたようだが、1980年代になると同警は麻薬取引の中心人物を逮捕するために特捜隊を編成している。

 

このチームは1987年に解散したが、その直後からアメリカの司法省は麻薬業者ではなく警察官を調べ始め、その警察官たちは1990年頃、税務スキャンダルで警察を追放されてしまう。

 

CIAやその手先であるコントラのコカイン取引に気づいたのはAPの記者だったロバート・パリーとブライアン・バーガー。1985年末のことだ。少なからぬ関係者に取材して記事を書いたのだが、AP本社の編集者はふたりの記事に反発、お蔵入りになりそうになった。それが「ミス」でスペイン語に翻訳され、ワールド・サービスで配信されてしまったのである。(Robert Parry, “Lost History,” The Media Consortium, 1999)

 

その後、CIAとコカイン取引の関係を疑う声は広がり、ジョン・ドッチCIA長官は内部調査の実施を約束せざるをえなくなった。そして1998年1月と10月、2度に分けてCIA監察室長の報告書が公表されている。いわゆる『IGレポート』だ。内部調査だという限界はあるが、10月に出た『第2巻』では、CIA自身がコントラとコカインとの関係を認めた。

 

APの記事はアメリカの議会を動かすことになり、上院外交委員会の『テロリズム・麻薬・国際的工作小委員会(ジョン・ケリー委員長)』が1986年4月、麻薬取引に関する調査を開始。1989年12月に公表された同委員会の報告書でもコントラと麻薬業者との深い関係が明確に指摘されていた。ほかの麻薬取引でも同じだが、商品を売り捌くために犯罪組織が使われる。そうしたこともあり、CIAと犯罪組織との関係は密接だ。この構図は基本的に変化していない。また、麻薬資金は欧米の巨大金融機関にとって重要な存在だ。

 

トランプ政権はベネズエラの石油を奪うために麻薬を口実に使っているが、笑止の沙汰。本当に麻薬の密輸を取り締まりたいなら、金融機関やCIAにメスを入れなければならない。

 

マージョリー・テイラー・グリーン下院議員はドナルド・トランプ大統領のベネズエラに対する軍事的な恫喝とイスラエルの関係を指摘したが、確かにベネズエラへの軍事侵攻を求めている反体制活動家でノーベル平和賞受賞者、つまりアメリカ政府の手先であるマリア・コロナ・マチャドはイスラエルのハマスに対する姿勢を支持している。ラテン・アメリカを再びアメリカの植民地にしようという動きにイスラエルも繋がっているようだ。

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※なお、本稿は「櫻井ジャーナル」https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/のテーマは「ベネズエラを軍事侵攻できないトランプ政権はタンカーに対する海賊行為を続ける 」2025.12.24XML)
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