【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.12.26XML :ウクライナでロシアに敗れたNATO諸国では経済が破綻、国民の怒りは爆発寸前

櫻井春彦

 日米欧のトライアングルはロシアに戦争を仕掛けて敗北、経済は破綻しつつある。特に状況が悪いのはロシア産の天然ガスを米英に断たれたヨーロッパだが、そのヨーロッパの「指導層」はそうした米英主導の政策を受け入れてきた。それに対する一般国民の怒りは膨らのでいる。そうした怒りのひとつの結果が11月18日にデンマークで出た。

 

この日、デンマークでは地方選挙が実施されたのだが、メッテ・フレデリクセン首相の社会民主党のほかベンスタや保守党は大きく議席を減らしている。逆に増えたのは現政権の政策に反対している社会主義人民党、DPP(デンマーク国民党)、自由同盟。新しく登場したデンマーク民主党も善戦した。社会民主党はコペンハーゲンを含む主要都市で市長のポストを失っている。フレデリクセン政権が国民の生活を犠牲にして軍事予算を増やし、ウクライナでの戦争に資金を投入していることを国民は怒っているのだ。

 

こうした政策はイギリス、ドイツ、フランスを含むヨーロッパ諸国で推進され、いずれの国でも庶民は怒っている。EUでは域内の農業を破壊するような政策が進められているため、4万人以上の農民が抗議活動を開始、トラクターを持ち出してジャガイモが街頭に撒かれている。

 

かつてのヨーロッパは今より自立していた。2003年3月にジョージ・W・ブッシュ政権はアメリカ主導軍でイラクを先制攻撃、サダム・フセインを殺害した。アメリカ政府はイラクが「大量破壊兵器」を保有、今にもアメリカを核攻撃するかのように宣伝していたが、それをフランスのジャック・シラク大統領やドイツのゲアハルト・シュレーダー首相はその主張を否定、攻撃に反対していた。当時、アメリカの統合参謀本部の中でもイラク攻撃に反対する声は小さくなかった。そのため、攻撃開始が半年から一年ほど遅れたと言われている。

 

ブッシュ政権はイラクが核攻撃を目論んでいるかのように宣伝、そのイメージを人びとに信じ込ませるため、例えばジョージ・W・ブッシュ大統領は2003年の一般教書演説の中で、サダム・フセインがアフリカから相当量のウラニウムを入手しようとしていると主張している。イラクがアフリカのニジェールからイエローケーキ(ウラン精鉱)を手に入れようとしているという偽情報を流していたのだが、この発言にジョセフ・ウィルソン元駐ガボン大使はショックを受けた。イラクがニジェールからイエローケーキを購入することで合意したという覚書が2002年初頭に流れたのだが、CIAからその中身の真偽を調べて欲しいと彼は要請されて調査、その結果、情報は正しくないということを確認していたのである。(The New York Times, July 6, 2003)

 

ニジェールの話はイタリアの週刊誌パノラマの記者エリザベッタ・ブルバに電話が掛かるところから始まる。サダム・フセインとアフリカでのウラン購入を結びつける情報が存在すると電話の相手は話したのだ。その情報源はブルバが以前から知っている人物で、イタリアの情報機関と関係があると推測されていた。

 

書類を受け取ると、パノラマのカルロ・ロッセラ編集長はアメリカ大使館に持ち込むように指示。その書類はCIAローマ支局長を経由してワシントンに渡り、イラクを批判する材料として使われる。このイエローケーキに関する情報の発信源はイタリアの情報機関SISMIだと言われている。(Seymour M. Hersh, “The Stovepipe,” The New Yorker, October 27 2003)

 

この話は別ルートでも流れた。2001年秋、ニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された直後にこの話はCIAへ伝えられたのだが、CIAは信憑性がないと判断。当然の結論だったが、この情報はネオコンがプロパガンダのため、2002年に設置したOSPのルートに乗り、チェイニー副大統領の手に渡った。なお、OSPの室長に就任したエイブラム・シュルスキーはポール・ウォルフォウィッツと同じようにシカゴ大学で政治科学の博士号をレオ・ストラウス教授の下で取得している。(The New York Times, October 24, 2002)

 

一方、ブッシュ・ジュニア政権で国務長官を務めていたコリン・パウエルは2003年2月、国連でサダム・フセイン政権が間違いなく生物兵器を開発、生産能力もあると主張した。いうまでもなく嘘だが、パウエルの下にいたシャルロット・ビアーズに注目する人もいる。

 

この人物は「マディソン街の女王」と呼ばれ、ふたつの大手広告会社、オグルビー・アンド・メーザーとJ・ウォルター・トンプソンの会長兼CEOになっている。ビアーズの手法は単純化と浅薄化で、詳しく丁寧には説明しない。イラクへの先制攻撃をアメリカ政府は「イラクの自由作戦」と命名したが、これもビアーズのアドバイスに従っている。そうしたアドバイスをブッシュ大統領は自分流に解釈し、「この戦争は平和のため」と発言した。(Alexander Cockburn & Jeffrey St. Clair, “End Times”, CounterPunch, 2007)

 

実は、小泉純一郎も同じ手法を採用している。いわゆる「ワン・フレーズ・ポリティックス」だ。この手法をアドバイスしたのは電通だという(『週刊金曜日』取材班編著『電通の正体』金曜日、2018年)が、その電通はビアーズの手法を真似したのかもしれない。

 

こうしたアメリカやイギリスの宣伝にシラクやシュレーダーは惑わされなかったが、その後、フランスやドイツはネオコンの命令に従う人物がフランス大統領やドイツ首相の座についる。ドイツのフリードリヒ・メルツ首相はブラックロックの元幹部、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はロスチャイルド銀行の出身。そしてキア・スターマー首相がいるイギリスには金融資本の総本山とも言えるシティがある。こうした人びとが資金を投入しているウクライナではブラックロックやJPモルガンといった西側の巨大金融機関が資金の動きを管理している。

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※なお、本稿は「櫻井ジャーナル」https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/のテーマは「ウクライナでロシアに敗れたNATO諸国では経済が破綻、国民の怒りは爆発寸前 」2025.12.26XML)
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