【櫻井ジャーナル】2025.12.29XML :米国と露国を戦わせることで一発逆転を狙うヨーロッパのエリート層
国際政治【イラン大統領の発言】
イランのマスード・ペゼシュキアン大統領は12月27日、アメリカ、イスラエル、そしてヨーロッパはイランを屈服させるために戦争を仕掛けていると語った。この発言をしたのはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がアメリカでドナルド・トランプ大統領と会談する前。アメリカの有力メディアはイランがアメリカ、イスラエル、ヨーロッパに対して「全面戦争」を宣言したと書いていたが、事実とは違う。
【イランに勝てないイスラエルと米国】
イスラエルはイランとの戦争で勝てる見込みはない。今年6月13日未明にイスラエルはナタンズを含むイランの軍事施設や核施設を奇襲空爆した。その際にイラン軍のモハメド・バゲリ参謀総長やイラン革命防衛隊(IRGC)のホセイン・サラミ司令官やゴラム・アリ・ラシド中央司令部司令官を含む軍幹部、そして核科学者のモハンマド・メフディ・テランチやフェレイドゥーン・アッバシなど6名以上の核科学者を殺害している。この攻撃では親イスラエル派として知られているアメリカ中央軍のマイケル・E・クリラ司令官が重要な役割を果たしたとも推測されている。
イスラエル軍のエフィー・デフリン報道官によると、イスラエル軍は200機の戦闘機を用いて100以上の標的を攻撃したというが、要人の殺害にはテヘラン周辺に作られた秘密の基地から飛び立ったドローンが使われたという。
それに対し、イランは6月13日夜、イスラエルに対する報復攻撃を実施、テル・アビブやハイファに大きなダメージを与えた。モサドの司令部や軍情報部アマンの施設、イスラエルの核開発計画でも中心的な役割を果たしてきたワイツマン研究所も破壊されたている。
アメリカのドナルド・トランプ大統領は6月22日、イスラエルの要請に基づき、7機のB-2爆撃機でイランの核施設へ合計14発のGBU-57爆弾を投下した。大統領はイランの核開発を止めたと主張したのだが、アメリカのDIA(国防情報局)は計画を数カ月遅らせたに過ぎないと評価、その情報を有力メディアが伝えた。その情報漏洩に怒ったトランプ大統領はDIAの局長を務めていたジェフリー・クルーズ中将を8月22日に解任したが、DIAの分析は正しいと見られている。
また、6月23日にイラン軍はカタールのアル・ウデイド基地をミサイルで攻撃した。ここはアメリカ空軍の司令部として機能、中東におけるアメリカ軍の中心的な存在。1万人以上のアメリカ兵が駐留している。
その後、イランが攻撃を続けたならイスラエルやアメリカは対応できず、敗北したと見られているが、イランは攻撃を続けなかった。イスラエルやアメリカが攻撃をやめたからだ。イスラムの教えに従ったと言われている。
【露国に敗北したNATO】
イランとの戦い以上にアメリカはウクライナで苦しんでいる。戦況はロシア軍が圧倒的に優勢で、ウクライナ軍の崩壊を受けてNATO諸国は自国の軍人や情報機関のメンバーを投入しているが、ウクライナ側の要塞線は崩壊、ロシア軍の進撃スピードは速まっている。イギリスやフランスが対ロシア戦争の拠点にしているオデッサをロシア軍が制圧するのは時間の問題だと推測する人もいる。
イランを破壊したいイスラエル、ロシアを屈服させたいヨーロッパやアメリカのネオコンはアメリカ軍を引き込まなければならない。そうしなければロシアと戦うことができないからだが、そのアメリカはベネズエラを相手に始めた軍事作戦が行き詰まり、苦しんでいる。ロシア、中国、イランなどの支援を受けたベネズエラを攻めきれないでいるのだ。
【ネオコンの世界制覇戦争】
アメリカの軍事や外交を操っていたネオコンはソ連が消滅したことを受け、1992年2月にアメリカの国防総省ではDPG(国防計画指針)の草案として世界征服プロジェクトを作成した。当時、国防次官を務めていた大物ネオコンのポール・ウォルフォウィッツが中心になって書き上げられたことから「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。ソ連の消滅でアメリカが唯一の超大国になったと確信したネオコンは世界制覇戦争を始められると考えたようだ。
そのドクトリンの最重要事項は新たなライバルの出現を防ぐこと。西ヨーロッパ、東アジア、そしてエネルギー資源のある西南アジアが成長することを許さないということだが、東アジアには中国だけでなく日本も含まれている。1990年代から日本経済が停滞しているのは必然だ。
また、ドイツと日本をアメリカ主導の集団安全保障体制に統合し、民主的な「平和地帯」を創設するとも書かれている。要するにドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込み、アメリカの支配地域を広げるということだ。
しかし、当時の日本側はこうしたアメリカのプロジェクトを嫌がったようで、ネオコンのマイケル・グリーンとパトリック・クローニンは日本が独自の道を歩もうとしているとカート・キャンベル国防次官補(当時)に報告、1995年2月になると、ジョセイフ・ナイは「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」を発表した。アメリカの政策に従うように命令してきたのだ。
こうした中、1994年6月に長野県松本市で神経ガスのサリンがまかれ(松本サリン事件)、95年3月には帝都高速度交通営団(後に東京メトロへ改名)の車両内でサリンが散布された(地下鉄サリン事件)。松本サリン事件の翌月に警察庁長官は城内康光から國松孝次に交代、その國松は地下鉄サリン事件の直後に狙撃された。1995年8月にはアメリカ軍の準機関紙と言われているスターズ・アンド・ストライプ紙に85年8月12日に墜落した日本航空123便に関する記事が掲載された。1995年のこうした出来事は日本のエリートを揺るがしたはずだ。
2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されると、アメリカでは国内で憲法の規定が無効化され、国外では侵略戦争が本格化する。ウォルフォウィッツ・ドクトリンが起動したとも言えるのだが、そのドクトリンはソ連が消滅、ロシアを属国化させたということが前提になっている。その前提が21世紀に入って間もなく崩れた。ロシアが再独立したのだ。そうした動きの中心にはウラジミル・プーチンがいた。
2003年3月にジョージ・W・ブッシュ政権はアメリカ主導軍にイラクを攻撃させるが、計画通りには進まなかった。そこで同政権は2007年に方針を変更、ズビグネフ・ブレジンスキーのように、スンニ派の傭兵を利用することにする。
北京の夏季オリンピックに合わせ、2008年8月にジョージア軍が南オセチアを奇襲攻撃したが、この攻撃はイスラエルとアメリカが兵器など軍事物資を供給、将兵を訓練しただけでなく、イスラエルが作戦を立てたと言われている。その攻撃でジョージア軍はロシア軍に完敗した。アメリカとイスラエルがジョージア軍を使ってロシアを攻撃したのだが、失敗したのだ。2015年9月にシリア政府の要請で軍事介入したロシア軍は自分たちの戦闘能力が高く、ロシア製兵器の能力が高いことを世界に示している。
【破綻したネオコンの計画】
しかし、ネオコンはロシア蔑視の罠から抜け出せず、NATOを東へ拡大させてウクライナを制圧、そこからロシアを攻めるという作戦を実行しようとしてきた。かつてナチに支配されたドイツがソ連に対して仕掛けたバルバロッサ作戦を再現しようとしたのだ。結局、バルバロッサ作戦は失敗に終わり、攻め込んだドイツ軍は降伏しているが、その戦争でソ連は大きな損害を被った。このダメージをソ連は回復できないまま消滅している。NATO諸国は同じようにロシアを破壊しようとしているのだが、そうならなかった。
ジョージ・W・ブッシュ政権は2004から05年にかけてウクライナで「オレンジ革命」を仕掛けてビクトル・ヤヌコビッチ政権の樹立を阻止、バラク・オバマ政権は2013年11月から14年2月にかけてネオ・ナチのクーデターを実行してヤヌコビッチ政権を倒すことに成功したものの、ヤヌコビッチの支持基盤で歴史的にロシア圏に入っている東部と南部では住民がクーター体制を拒否する。そして東部のドンバスでは武装抵抗が始まり、内戦に発展したが、戦況は反クーデター軍が優勢。そこで西側は停戦を持ちかけ、ロシアは受け入れた。これが2014年のミンスク1と15年のミンスク2。これはクーデター政権の戦力を増強するための時間稼ぎにすぎなかった。これはアンゲラ・メルケル元独首相やフランソワ・オランド元仏大統領が認めている。
そして2022年2月からNATOとロシアはウクライナを舞台にして戦争を始めた。NATOがウクライナの完全制圧を目指す軍事作戦を始動させようとしたとき、ロシア軍がウクライナを攻撃した。NATO/ウクライナ軍はでばなを挫かれたのだ。しかもウクライナの東部や南部はロシアにとって「ホーム」である。ロシアの兵器を生産する能力が西側諸国の数倍と言われていることもあるが、ホームで戦っていることは大きい。
NATOはウクライナ人に対し、最後のひとりまでロシアと戦え、つまり「総玉砕」しろと命じているが、ロシアはソ連と違って疲弊していない。ロシア軍は死傷者をできるだけ出さないような戦い方をしている。
ウクライナでロシアに敗北、経済が破綻して社会が崩壊しつつあるヨーロッパ諸国は戦争を継続し、軍需産業で経済を立て直そうと目論んでいるようだが、事態はさらに悪くなるだろう。
【Sakurai’s Substack】
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