植草一秀【連載】知られざる真実/2025年12月29日 (月) 補助金バラまいて命綱を切る
社会・経済本年6月に新著を公刊した。
『財務省と日銀 日本を衰退させたカルトの正体』(ビジネス社)
日本の財政金融政策について論じたもの。
中央政治の役割は、1.法律の制定、2.予算の編成・執行、3.経済政策運営。
国は当初ベースで年間約90兆円の政策支出を行っている。
補正を含めれば100兆円を超える。
名目GDPは約600兆円。
100兆円がいかに巨額であるかが分かる。
その100兆円の資金配分を仕切っているのが財務省。
財務省の権限は予算編成権にとどまらない。
税制を決定する。
国家財産を管理する。
金融庁を含めて銀行、証券、保険の金融業界を管理する。
また、税の徴収を行い税務調査まで管轄する。
さらに、財政金融政策運営を仕切る。
巨大すぎる権限が財務省に集中している。
国家権力の中枢を握っているのが財務省。
その財務省が「日本の失われた30年」の主犯である。
日本銀行は金融政策を担う。
日銀の最大責務は「通貨価値の維持」。
物価安定と資産価格バブル回避が日銀の責務だ。
その日銀に対する強い影響力を持つのが内閣と財務省。
内閣と財務省が結託して日銀を支配してしまうと惨事が起こる。
第二次大戦でその惨事が現実化した。
戦後に通貨価値が暴落した。
日銀に強い独立性を付与しなければならないが、独立性付与は不完全になり、財務省による日銀支配が強まって、日本でインフレを再発させてしまった。
国政の第三の役割は経済政策運営。
1990年を境に日本経済は下り坂を辿り続けた。
90年代前半はバブル経済の余韻が残ったが90年代半ばを境に急激な下降線に転落して現在に至る。
この「失われた30年」をもたらした主犯が財務省である。
財務省は常に日銀を支配下に置こうとしてきた。
その弊害として、バブルを発生させ、バブル崩壊の混乱を拡大させてきた。
2013年以降は「アベノミクス」の名の下に「異次元金融緩和」が強行され、それが日本円暴落と20年代以降のインフレ亢進の背景になった。
財政政策運営の問題点は三つ。
第一は消費税に偏重する税収構造。
第二は「権利の財政」である「社会保障支出」の切りこみ。
第三は「利権バラマキ補助金」の拡大だ。
24年から26年にかけての財政支出政策の最重要論点の一つが「高額療養費制度大改悪」。
高額療養費制度は高額療養費が発生した際に国民負担に上限を設ける制度。
「国民の命綱」の意味を持つ。
国民負担上限が引き上げられれば負担に耐えられなくなる国民が続出する。
国民の命綱を断ち切るということ。
2025年度予算での大改悪提案に強い批判が発生した。
その結果、25年度の実施が断念された。
夏に参院選が控えていたことが最大の背景だった。
ところが、高市内閣が、凍結した制度大改悪を持ち出して26年度予算に組み込んだ。
制度大改悪により給付費は年間ベースで約1600億円減少するという。
高市内閣は18.3兆円もの補正予算を成立させた。
このお金があれば高額療養費制度大改悪を10年以上先送りできる。
利権補助金をバラまくという無駄遣いをしながら、国民の命綱を断ち切る政府を日本の主権者は支持するのか。
頭を冷やしてよく考える必要がある。
続きは本日の
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植草一秀
植草一秀(うえくさ かずひで) 1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。 経済金融情勢分析情報誌刊行業務の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」を発行。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門1位。『現代日本経済政策論』(岩波書店、石橋湛山賞受賞)、『日本の独立』(飛鳥新社)、『アベノリスク』(講談社)、『国家はいつも嘘をつく』(祥伝社新書)、『25%の人が政治を私物化する国』(詩想社新書)、『低金利時代、低迷経済を打破する最強資金運用術』(コスミック出版)、『出る杭の世直し白書』(共著、ビジネス社)、『日本経済の黒い霧』(ビジネス社)、『千載一遇の金融大波乱』(ビジネス社、2023年1月刊)など著書多数。 スリーネーションズリサーチ株式会社 http://www.uekusa-tri.co.jp/index.html メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」 http://foomii.com/00050


















