Featured Video Play Icon

レイチェル・クラーク:【米国がドイツを破綻させた】

レイチェル・クラーク

米国外交のレジェンド、キッシンジャーがかつて残した名言は、ドイツ首相官邸の入り口に刻まれておくべきでした。彼はこう言ったのです:「米国の敵になる事は危険だが、友人になる事は致命的である」と。

70年にわたりドイツは米国の最良の友人でした。ドイツは米国の模範的な僕(しもべ)でした。米軍基地を受け入れ、米国債も買い、米国の起こす戦争を支持し、ヨーロッパ史上最強の産業の中心を築き上げました。ところがそれが止まってしまったのです。大西洋の対岸の友人、つまり米国が決定的にドイツの未来の鍵を握っているのです。

今週ベルリンから発表された経済データを見ると、これは景気後退(リセッション)どころか、むしろ取り壊し作業(デモリッション)とでも言うようなものです。かつて世界が羨望したドイツ経済は縮小しています。第二次世界大戦以来ずっと創業してきた工場が今どんどん閉鎖されています。ドイツの技術力の高さの象徴であるフォルクスワーゲンは87年の歴史で初めて国内にある工場の閉鎖を準備しています。なのにワシントンはドイツに助けの手をさし伸ばしません。むしろ米国はそこから生まれる利益を計算高く期待しているのです。歴史上最も残念な地政学的裏切り行為が目の前で展開しているのです。米国はドルを守るために、側近の同盟国を事実上破産させたのです。

今日はどのようにして米国がたった2年でドイツ経済を破綻させたかを正確に分析してみます。

製造業の超大国を、鄙びた博物館に変えてしまったエネルギーの「罠」について検証すると、ドイツの崩壊が偶然ではない理由がお分かりになるでしょう。それは米国の新たな戦略の特徴です。

この「殺人事件」(米国の裏切り)を理解するためには、まずその「被害者」(ドイツ)を知らなければなりません。この30年におけるドイツの経済的な奇跡は単純な流通構造に裏付けされていました。ドイツはロシアから格安エネルギーを輸入して、高品質の自動車や機械を世界に輸出してきました。それは素晴らしいシステムでした。ロシアのガスはパイプラインを通じて非常に安い価格で流通し、ときには世界平均値の5分の1であったりもしました。この非常に安いエネルギーは、ドイツ企業、例えばBASFとかシーメンズとかメルセデスなど、に大きな競争力を持たらしました。(ロシア産の安定した価格のエネルギー供給は)それらの企業にとっては非常に大きな競争上の優位性をもたらしました。そのおかげで、ドイツの労働者には高い賃金を支払いながらも競合他社よりも安く製品を販売することが可能でした。

ところが米国はこのことを非常に嫌っていました。長年にわたりワシントンはドイツに対し、安全保障上のリスクがあるのでロシアからのガスの購入をやめるように警告し、ノルドストリーム2のガスパイプラインの代わりに米国のガスを買うよう要求していました。2020年にウクライナ戦争が始まったときに、米国の望みが叶いました。ホワイトハウスからの圧力で、ドイツは経済的な自殺を余儀なくされたのです。ベルリンは独自のエネルギー供給源に制裁を課したのです。彼らは工場用燃料の安いガスの供給を止めました。比喩的にも文字通りにも東への橋を爆破したのです。そしてその瞬間、ドイツ神話は崩れました。突然ドイツの工場はスポット市場でエネルギー源を購入しなければならなくなりました。そして売り手は米国でした。

ところがそこには落とし穴がありました。米国の液化天然ガスLNGは安くはなかったのです。それが大西洋を超えて、ヨーロッパで再ガス化されるまでに、そのコストは、ロシアのガスの4倍から5倍、ときには10倍にも跳ね上がりました。「友情」と言うにはあまりにも「致命的なやり方」でした。ドイツは米国の制裁に忠実に従い、その見返りとして米国は悪徳価格でエネルギーを売ったのです。このヨーロッパから米国への富の流出は、マーシャルプラン以来最大のスケールでした。

今回のお金の流れは間違った方向に向いていました。結果は即座に現れ、化学、鉄鋼、ガラス、アルミニウムといったエネルギー集約型産業は一夜にして採算が取れなくなりました。これらの企業の重役たちは、4倍の電気代を払いながらでは、中国や米国と競争することはできないと気づきました。そこで唯一の決断をしました。ドイツでの生産を中止したのです。これが「テクニカル不況」と西側メディアが呼んでいる現実です。

ですが、それは技術的なものではありません。それは構造的なものなのです。ドイツは同盟国によって産業を空洞化させられたのです。一国家の産業喪失は、一挙に起こるわけではありません。トップの役員室での冷徹な計算によって起こるのです。そして最も冷酷な計画が今まさにフォルクスワーゲンの本社があるフォルクスブルグで行われています。

フォルクスワーゲンは単なる自動車会社ではありません。それはドイツそのものなのです。同社は直接数十万人を雇用しており、さらにサプライチェーン全体で数百万人を雇用しています。何十年もの間そのシンプルなルールは強固に保たれていました。どれほど事態が悪化しても、フォルクスワーゲンがドイツの工場閉鎖をする事はありませんでした。それはある種の社会契約的な関係です。しかし先週その契約は破棄されました。フォルクスワーゲンのCEOはドイツ国内の複数の工場の閉鎖を検討していると発表しました。彼らは30年間続いた雇用安定供給協定を終了させようとしています。なぜならドイツでの自動車製造は計算上不可能になったからです。エネルギーコストが高すぎるのです。官僚機構(の対応)は遅すぎますし、インフラは崩壊しつつあります。

しかしここには別のストーリーがあります。フォルクスワーゲンと言う会社は倒産しないのです。彼らはただ消え去っていくのです。ドイツで従業員を解雇しているのと同時期に、合肥市(中国)への25億ユーロと言う巨額の投資と生産拡大をを発表しています。彼らは何千人もの中国人エンジニアを雇用し、研究開発センターを北京に移転しています。この皮肉にお気づきですか? 米国はドイツに対し中国からのリスク回避を求め、国家安全保障のため、北京との関係を断つよう警告しました。ところが米国のエネルギー制裁によりドイツ企業の競争力は著しく低下し、生存を賭けて中国に逃げ去るを得なくなったのです。フォルクスワーゲンだけではありません。世界最大の化学会社、Basfを見てみましょう。BASFはドイツ産業の中心で、歯磨き粉から戦車に至るまであらゆるものに使用される科学物質を製造しています。ルートヴィッヒスハーフェンにある同社の主要工場は、スイス全土と同量の天然ガスを消費しています。ロシアの安い天然ガスがなければあの工場はただの「金食い虫」になってしまいます。それでBasfがとった対策は恒久的人員削減です。アンモニア工場を閉鎖し、労働者を解雇しています。そして同時に彼らは中国の湛江に 100億ユーロ規模の巨大施設を建設しています。彼らは(ドイツの)工場をたたんで東へ進出しているのです。これを経済学者は空洞化と呼んでいます。ドイツは本社機構、マーケティング、博物館を維持しますが、実際の生産拠点、技術部門といった本当の利益を生み出す「手を汚す仕事」は(ドイツから)去っていきます。

それらの向かう先の一部は中国ですが、多くは米国に送られるのです。これはワシントン戦略の第二部です。まず米国はヨーロッパのエネルギーを非常に高くしました。その後インフレ抑制法が可決されました。この法律は、米国に工場を建設する企業に数千億ドルに上る巨額の補助金を提供するものです。これにより安価なエネルギー減税、そして環境に優しい技術のための助成金が創出されます。したがって、ドイツの経営トップの選択肢は明らかです:

A:ドイツに留まり、3倍のエネルギー料金を払い、その上政治家の説教を聞かされるのか、

B:テキサスがオハイオに移住して安いエネルギーを手に入れ、米国財務省から小切手を受け取るか。

その吸引力で、米国はヨーロッパから産業資本を吸い上げているのです。

フランスのマクロン大統領はこれを攻撃的だと非難しました。シュルツ首相は不公平だと不満を述べましたが、言葉だけではまかなえません。米国は事実上、同盟国を食い物にしています。成長が鈍化する社会では、自分の取り分を増やす唯一の方法は友人の分を(横取りして)食べることだと気づいています。そしてメインコースはドイツです。この産業流出は不可逆的です。一旦停止した高炉は、再稼働することはできません。化学工場は一度解体されたら永久に失われてしまいます。

エンジニアたちは家族を上海やヒューストンに移住させたら、二度と戻ってきません。ドイツはお金だけではなく未来も失っています。彼らはものを作る能力を失いつつあります。そして工場が閉鎖されると税収が消えてしまうため、これが次の危機につながります。そして税収がなくなると政府は破産します。つまり業界は去っていくのです。仕事がどんどん消えています。普通の国であればこの時こそ政府が介入する瞬間です。米国は危機に直面したときに何千ドルもの紙幣を印刷しました。中国は景気減退の危機に直面した際、融資を注ぎ込んだのです。ところがドイツは自らの生存を非合法化することを決定したのです。先月ドイツの憲法裁判所はエネルギー価格の高騰と同じ位ダメージを与える爆弾発言をしました。彼らは手付かずのパンデミック基金600億ユーロを、気候及び産業補助金に充てると言う政府の計画に違憲判断を下しました。一夜にしてドイツの予算に600億ユーロのブラックホールが開いたことになります。クリスチャン・リンドナー財務大臣は支出を凍結せざるを得なかったのです。事実上ドイツ国民に「残念ですがお金がありません」と言ったのです。

さて、この狂気の状況についてご説明します。一方で、米国は年間2兆ドルの赤字を出し、(米国に)移転できる企業の全てに補助金を出し、減税でドイツ企業を横取りしています。一方、ドイツは厳格な債務免除を実施しており、政府は借金をしてはならないと言う自主規制を設けています。それはボクシングの試合に例えると、対戦相手がマシンガンを持ち込むことを許されているのに、フェアプレーを信じて自ら両手を後ろで縛って参加するようなものです。その結果は緊縮財政です。ドイツの産業界がまさに生命性を必要としているとき、高騰するエネルギーコストを相殺するための補助金を必要としてるときに、政府は支出を削減しているのです。彼らは電気自動車の補助金も、太陽エネルギーへの投資も削減し、農家の税金を引き上げて、それに抗議して何千台ものトラクターがベルリンの通りを封鎖する事態になっています。これは財政拘束です。ドイツは自分の首を絞めているのです。なぜそのようなことをするかというと、金融市場を満足させて AAAの信用格付けを維持するためです。格付けできる経済が残っていない場合、AAAの信用格付けは役に立ちません。米国は戦争や経済戦争において「負債」は重要ではないことを知っています。重要なのは「生産」でありそれこそが死活問題なのです。しかしドイツの政治階級は1990年代のイデオロギーにまだとらわれています。彼らは依然として予算の均衡こそが道徳的美徳であると信じているのです。彼らは今の現実よりも過去のルールを優先しています。そしてこの弱点により、彼らはワシントンにとって格好の餌食となっているのです。米国はドイツが反撃しないこと、ベルリンが米国の液化天然ガスに関税を課さないことを知っています。ドイツが米国の助成金に対抗するために、自国の債務規則を破る事は無いと言うことも知っています。ワシントンはベルリンを属国と見ています。それは主に、貢物を収めるものの見返りを受けないことを意味します。それがまさに今日のドイツの立場です。ドイツは高価な米国製の兵器やF-35戦闘機を購入して高価な米国製のガソリンを購入し、ドイツの利益を損なっても米国の制裁に従うことで、貢物を払っているのです。

そこまでしてどのような保護を受けてますか? 米海軍はドイツのインフラの最も重要な部分であるノルドストリームパイプラインを守る事はありませんでした。実際ドイツでは、米国があれを破壊してほくそ笑んだのではないかと疑う人も多いです。米国政府はドイツの産業を守りません。彼らはインフレ抑制法でそれをターゲットにしています。これは一方的な関係です。ドイツは与え、米国が取る、そして政治的な影響が現れ始めています。

ドイツ国民は愚かではありません。彼らは暖房費が上がっていくのを実感しています。工場が閉鎖されるのを目の当たりにしています。彼らは自国政府がドイツ経済よりもウクライナの国境を優先していると見ています。これがドイツでAFD(Alternative für Deutschland ドイツのための選択肢)やBSW(Bündnis Sahra Wagenknechtザーラ・ワーゲンクネヒト同盟)といった新政党が台頭している理由です。中央は(政策の)失敗で崩壊しています。ドイツの有権者たちは、自国の指導者たちが外国勢力の利益のためにドイツ国家の衰退を企てていることに気づきつつあるのです。

彼らは単純な質問をしています。「なぜ私たちはワシントンのために破産しようとしてるのでしょうか?」そして今のところベルリンにはその答えがないのです。歴史上帝国は興亡を繰り返してきましたが、同盟国を喜ばせるためだけに、超大国が自主的にリアルタイムで解体すると言う事は稀なことです。

ドイツはヨーロッパの原動力でした。ギリシャ、イタリア、スペインを小切手外交で救済しました。ユーロを存続させたのはドイツの製造業でした。今日その心臓部であるドイツが心不全に陥っています。米国は爆弾ではなく友情によって、最大の産業競争相手のドイツを排除することに成功しました。ワシントンはドイツが窒息するまでしっかりと抱きしめたのです。

私たちが目撃しているこの産業の自殺は取り返しのつかないものです。フォルクスワーゲンがフォルクスブルクの工場を閉鎖し、合肥(中国)に工場を申請するとその生産能力が失われます。戦争が終わっても戻ってきません。ガソリン価格が下がっても元には戻りません。サプライチェーンはデリケートなもので、一度壊れると別の場所で再構築されます。ドイツは今博物館になる道を選んでいます。それは依然として美しい場所となるでしょう。観光客は今でも観光名所を見るためにやってきます。ミュンヘンでビールを飲み、電車が走っていれば、その効率性を賞賛するでしょう。ところが富を生み出す機械、高炉、組み立てライン、科学反応炉は消え去るでしょう。ドイツはサービス経済となり、米国金融と中国製造業の属国として、他人の親切に依存するようになるでしょう。キッシンジャーの例の引用は警告でした。「米国の友達になると言う事は致命的」と言う警告をドイツは無視したのです。彼らは生存よりも忠誠を選んだのです。そして今彼らはその代償を払っています。世界の他の国々、ブラジル、インド、日本にとって教訓は明らかです。廃墟と化したドイツの基幹産業を見て、自問してください。米国との同盟に価値があるのでしょうか? それとも自国の経済が次の標的になる前に防壁を築く時期なのでしょうか? ワシントンはその最良の友人を破産させました。彼らがあなたを破産させることを躊躇するだろうとは思わないでください。西側同盟の時代が終焉を迎えたのは、外敵のせいではなく、同盟のリーダーが共食いを選んだからなのです。

 

どうぞよろしくお願いします。

感謝を込めて、

レイチェル

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –

★ISF(独立言論フォーラム)「市民記者」募集のお知らせ:来たれ!真実探究&戦争廃絶の志のある仲間たち

※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
ISF会員登録のご案内

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」

レイチェル・クラーク レイチェル・クラーク

日系米国人、通訳・コンサルタント・国際コーディネイター ベテランズフォーピース(VFP) 終身会員 核のない世界のためのマンハッタンプロジェクト メンバー 2016年以来、毎年VFP ピース・スピーキングツアーをコーディネイトし、「戦争のリアル」を米国退役軍人が日本に伝える事によって、平和・反核・環境保護活動につなげている。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ