【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2026.01.04XML : 米軍がベネズエラを空爆、特殊部隊がマドゥロ大統領夫妻を拉致との情報

櫻井春彦

 アメリカ軍は1月3日、ベネズエラを空爆した。首都カラカス周辺の軍事基地だけでなく民間人の居住地域などで爆発が報告されている。攻撃の最中、ドナルド・トランプ米大統領はベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領夫妻を拉致したと発表、デルシー・ロドリゲス副大統領は大統領夫妻の所在を把握していないと語っている。同副大統領は「マドゥーロ大統領とフローレス夫人の生存を証明する証拠を直ちに提示する」ように求めた。アメリカの大手メディアによると、拉致したのはアメリカ陸軍の特殊部隊デルタフォースだという。

 

アメリカ政府は11月16日に空母ジェラルド・R・フォードを含む艦船をカリブ海へ派遣すると同時に、閉鎖されていたプエルトリコの海軍基地を修復して使えるようにしている。この基地へマドゥロ大統領夫妻を運んだとも言われているが、確かなことはわからない。

 

艦隊がカリブ海へ入る前、10月下旬にロシアのアヴィアコン・ジトトランス所属のIl-76TD輸送機がベネズエラに飛来していた。何らかの軍事物資や傭兵会社ワグナーの戦闘員を運び込んだと言われた。すぐにでもベネズエラへ軍事侵攻すると言われていたアメリカ軍の動きが急速に弱まったのはそのためだと推測する人もいた。

 

11月上旬には2機のB-52爆撃機をベネズエラへ向けて飛行したが、この時、B-52は陸地から約100キロメートルの地点でロシア製防空システムであるS-300に照準を合わされ、基地へ引き返した。ベネズエラはそのほか、中低高度の防空システムであるブークM2e、シリアで有効性が証明された近距離対空防御システムのパンツィリ-S1も配備したとされている。

 

本ブログでも書いたことだが、マージョリー・テイラー・グリーン下院議員はトランプ大統領のベネズエラに対する軍事的な恫喝とイスラエルの関係を指摘している。ベネズエラへの軍事侵攻を求めている反体制活動家でノーベル平和賞受賞者、つまりアメリカ政府の手先であるマリア・コロナ・マチャドはイスラエルのハマスに対する姿勢を支持しているが、これもそうした関係が反映されているのかもしれない。マチャドは12月中旬、ベネズエラに対するアメリカの戦略を全面的に支持するとCBSニュースに対して語っている。

 

トランプ政権の中でベネズエラ侵略を最も強く望んでいる人物は国務長官のマルコ・ルビオだと見られている。彼はネオコン、つまり親イスラエル派で、彼の両親は1956年にキューバからアメリカへ渡ってきた。ベネズエラの現体制を倒した後、キューバの体制も転覆させようとしている。

 

トランプ政権に限らず、アメリカ政府はベネズエラの体制転覆を目論んできた。その始まりは1998年。この年にベネズエラでは選挙が実施され、アメリカへの従属を拒否するウゴ・チャベスが勝利した。チャベスは1999年2月から大統領を務め、アメリカが支配する仕組みを壊してしまうが、その時代に副大統領を務めた人物がニコラス・マドゥロにほかならない。

 

2001年にアメリカ大統領となったジョージ・W・ブッシュは、その翌年からチャベス政権を倒すための秘密工作を開始。その中心にはイラン・コントラ事件に登場したエリオット・エイブラムズ、キューバ系アメリカ人で1986年から89年にかけてベネズエラ駐在大使を務めたオットー・ライヒ、そして1981年から85年までのホンジュラス駐在大使を務め、2001年から04年までは国連大使、04年から05年にかけてイラク大使を務めたジョン・ネグロポンテがいた。

 

ホンジュラス駐在大使時代、ネグロポンテはニカラグアの革命政権に対するCIAの秘密工作に協力、死の部隊(アメリカの巨大企業にとって都合の悪い人たちを暗殺する組織)にも関係している。クーデターが試みられた際、アメリカ海軍の艦船がベネズエラ沖に待機していた。ウィキリークスが公表したアメリカの外交文書によると、2006年にもベネズエラではクーデターが計画された。

 

アメリカの支配層はベネズエラの体制を転覆させるため、2007年に「2007年世代」を創設、09年には挑発的な反政府運動を行った。こうしたベネズエラの反政府組織に対し、NEDやUSAIDといったCIAの資金を流す組織は毎年40004万ドルから5000万ドルを提供していた。

 

その2年前、つまり2005年にアメリカの支配層は配下のベネズエラ人学生5名をセルビアへ送り込んでいる。そこにはCIAから資金の提供を受けているCANVASと呼ばれる組織が存在、そこで学生は体制転覆の訓練を受けている。このCANVASを生み出したのは1998年に組織されたオトポール!なる運動だ。

 

この運動の背後にはCIAの別働隊であるIRIが存在した。このIRIは20名ほどのリーダーをブダペストのヒルトン・ホテルへ集め、レクチャーする。講師の中心的な存在だったのは元DIA(国防情報局)分析官のロバート・ヘルビー大佐だ。

 

抗議活動はヒット・エンド・ラン方式が採用された。アメリカの政府機関がGPS衛星を使って対象国の治安部隊がどのように動いているかを監視、その情報を配下の活動家へ伝えている。このとき、アメリカは情報の収集や伝達などでIT技術を使う戦術をテスト、その後の「カラー革命」におけるSNSの利用にもつながった。(F. William Engdahl, “Manifest Destiny,” mine.Books, 2018)

 

体制転覆の企てが成功しなかった理由のひとつはチャベスのカリスマ性にあったが、そのチャベスが2013年3月、58歳の若さで死亡する。その後継者が現大統領のニコラス・マドゥロだ。

 

ベネズエラの確認石油埋蔵量は世界最大だと言われている。その石油は自分のものだとトランプは主張しているが、ほかのアメリカ大統領も同じように考えていたのだろう。その石油を手に入れると同時に、自立の道を歩いていたラテン・アメリカ諸国を再び植民地化することもアメリカ政府の目的だと考えられている。

 

しかし、ベネズエラを空爆して大統領を拉致すればベネズエラの現体制は瓦解し、再植民地化するとアメリカ政府は考えているのかもしれないが、それほど容易ではないだろう。

 

ウクライナでNATO軍はロシア軍に圧倒されているが、戦乱を世界へ広げることで戦況を逆転できると考えているのかもしれない。

【​Sakurai’s Substack​】
※なお、本稿は「櫻井ジャーナル」https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/のテーマは「 ウクライナ国内で活動するNATO諸国の顧問団をロシア軍は標的にする可能性大 」(2026.01.02XML)
からの転載であることをお断りします。

https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202601040000/

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