登校拒否新聞30号:メタバース

藤井良彦(市民記者)

メタバースを用いたフリースクールが増えている。こどもとITというサイトが精力的に報じてきた。その動向を掴むために時系列で可能な限り並べてみる。

2022年8月30日、不登校や引きこもりの子どもたちが学びつながる、オンラインフリースクール「CLULU」発表。

2022年10月11日、不登校の中学生向け、バーチャル空間「WIALISオンラインフリースクール」が11月1日開校。

2022年11月8日、富士ソフト、バーチャル教育空間「FAMcampus」が不登校対策の実証事業に採択。

2023年1月11日、学研WILL学園、メタバース空間でオンライン説明会、1月14日開催。

2023年1月11日、相模原市、バーチャル空間で「チャレンジ教室」を初開催。

2023年2月2日、メタバースを使って全国から「通塾」できる総合型選抜専門の学習塾が開校。

2023年8月7日、不登校の児童生徒が全教科学べる、オンラインフリースクール「NIJINアカデミー」が9月1日開校。

2023年8月15日、不登校生の「出席扱い制度」、オンライン説明会を8月26日に実施。

2023年9月25日、レノボとDNP、不登校や日本語の指導が必要な児童・生徒に3Dメタバースで居場所と学びの場を提供。

2023年10月13日、実践型オンラインフリースクール「SOZOW SCHOOL小中等部」が11月1日正式開校。高等部も2024年4月開校予定。

2023年11月24日、NTT東日本とNTTスマートコネクト、不登校児童生徒に対する「3D教育メタバース」活用実証をさいたま市で開始。

2023年11月28日、LearnMore、oViceの二次元メタバース空間による教育環境づくりをスタート。

2024年1月4日、N/S高、文部科学省でのメタバース実証調査を実施。

2024年6月24日、不登校対策に!GIGA端末で動く「レノボ・メタバース・スクール」オンライン支援員も常駐。「EDIX東京2024」レポート。

2024年8月5日、不登校オルタナティブスクール「NIJINアカデミー」、全国展開へ。

新たな学びの場として1000校のリアル教室開校を目指す。

2024年8月19日、通信制サポート校の学研WILL学園、無料体験を8月26日から開催。不登校や発達障がい、グレーゾーンの児童生徒が対象。

2024年9月4日、講師は全員Vtuber!推しが教えるバーチャル学習塾「Wish」、2025年3月に開校。

2024年10月7日、メタバース×デジタルドリル、NIJINアカデミーとTOPPANが不登校支援の実証研究を開始。

2024年10月23日、小中学生の不登校支援にメタバースを活用、広島県福山市とNIJINが教育効果を検証。

2024年10月25日、メタバースで不登校支援「しながわオンラインスクール」に国際交流プログラムとおしゃべり会を追加。

2024年10月29日、静岡県、不登校支援のバーチャルスクールで試行運用に児童生徒を募集。

2025年2月20日、不登校の生徒向け「ベネッセ高等学院」、仲間と一緒に学べるバーチャルキャンパスが完成。

2025年3月18日、対面での学びが難しい子供向け「中等部メタバース校」を提供。

2025年3月24日、「徒歩0秒」のバーチャル校を3月24日に開校、類塾プラス。

2025年4月7日、姫路市と連携、中学生が自発的に学べるメタバース環境を提供。

2025年6月18日、不登校支援で教育メタバースを活用、富士ソフトのFAMcampusを活用した支援パッケージを神奈川県が採択。

2025年7月9日、ベネッセが中学生向けフリースクールを10月に開校、リアル校舎とバーチャルキャンパスを展開。

2025年7月25日、広島県福山市とNIJINアカデミーが連携、不登校支援にメタバース校舎を活用。

2025年9月3日、10月開校のフリースクール「ベネッセ高等学院中等部」が募集定員を拡大。

2025年9月18日、名古屋市の子供に“つながる居場所”を 教育メタバース「FAMcampus」2年目の挑戦。

2025年10月2日、富士ソフトが文科省の実証事業に4年連続で採択、メタバースと教育データで不登校支援を拡大。

2025年11月4日、学研が中学生向けフリースクール「Gakken高等学院中等部」を新設、全国7キャンパスに展開。

2025年11月11日、VTuber講師が中学5教科を指導「バーチャル学習塾Wish」を導入費用0円で法人向けに提供。

2025年11月25日、熊本県が不登校支援にメタバースを活用、DNPとレノボが支援。

2025年12月4日、ベネッセ、中学生向けフリースクール「中等部」を全国27拠点に拡大。

2025年12月12日、不登校支援×メタバースの先進事例、NIJINがソーシャルイノベーション賞を獲得。

以上、全部ではないかもしれないが、できるだけ関係のありそうな記事を並べてみた。URLはタイトルで検索すれば見つけられる。VTuberが教えるバーチャル学習塾などもあるようで、さまざまなオンライン学校のあることがわかる。

形態としては「ベネッセ高等学院」が通信制サポート校。「バーチャルキャンパス」を擁する中等部をフリースクールとして併設している。「AOI総合型選抜専門学習塾」「Wish」「類塾プラス」は塾。NIJINアカデミーは「リアル校」なる教室を全国に用意しているメタバース通学が可能な小中一貫制のオルタナティブ学校。「ニジ高」なる高等部は通信制サポート校として設置されている。学研WILL学園は中等部がフリースクールで、高等部が通信制サポート校。N/S高は私立通信制高等学校。「中等部メタバース校」とあるのは「EuLa通信制中等部」で、明蓬館高校の中等部という扱いらしい。この高校は構造改革特別区域法に基づいて設立された準学校法人で、株式会社が運営する広域通信制高校である。中等部というのはおそらくフリースクールという扱いになる。校長の日野公三氏には『インターネット教育革命「eスクール」が学級崩壊、不登校をなくす!』(1999年)という本がある。1997年4月に開校した「インターネットハイスクール」の設立に携わっている。本を読む限り、卒業資格を出せるようにするために本校をアメリカの通信制高校としたというからサポート校という感じか。

以上、傾向としては、フリースクールにサポート校をつないだ一貫校が増えていると言えそうだ。ことにベネッセのような企業がそれに乗り出していることが注目される。オンラインフリースクール「WIALIS」には進学実績の一つとして「ベネッセ高等学院」が挙げられている。フリースクールとサポート校が連携して、そのバックボーンとして通信制の独立校があるというイメージだ。同じオンラインフリースクールでも「CLULU」は進学実績というのは出していない。スタンスが異なるということだろう。「WIALIS」は株式会社が運営。「CLULU」はNPOキリンこども応援団が運営している。

自治体としてはメタバースを利用する傾向が多いようである。「しながわオンラインスクール」は品川区オンライン教育支援センターである。「マイスクール」という教育支援センターが五反田、浜川、八潮、西大井に設置されている。それのオンライン版だ。

メタバースというのはオンラインのプラットフォームである。というよりも明確な定義があるものではない。SF小説に出てきた言葉なので、メタバース自体が商標登録されているわけではないし、技術的な規格があるわけでもない。オンラインゲームの「フォートナイト」(エピックゲーム社)「マインクラフト」(ロブロックス社)「ポケモンGO」(ナイマンティック社)というようにオンラインゲームとして実用化されているものが代表例である。もちろん「セカンドライフ」(リンデン・ラボ社)のようなゲームではない仮想空間として実用化されたものもある。この場合、金銭的なやり取りが発生するなど、現実の社会に近いものとして構想されている。いずれにせよ、特定の会社が用意したプラットフォームであるから、相互に行き来できるものではない。

この相互運用性というのは加藤直人氏の著書『メタバース:さよならアトムの時代』(2022年)にメタバースの条件として挙げられている9点のうちの1つだ。オンラインスクールに当てはめて考えてみれば、それぞれが一つの閉じられた空間となっている。ゲームはプログラムされた世界なのだから当然だ。その点、加藤氏は自己組織化をメタバースの条件の1つに挙げている。これは科学者のイリヤ・プリゴジンが提唱したものであるが、この場合はユーザーによる自己発展性という意味で使われている。つまり、氏はゲームをあまりメタバースとは認めたくないのである。ある程度はユーザーの意志で運用され、アバターなどを他のサイトとも共有でき、金銭的なやり取りなど現実社会と同様の社会性がある世界をメタバースとすれば、たしかにゲームの世界は閉じられた空間でしかない。

では、自治体が主として採用しているメタバースとはどのようなものか?

上の記事にある「Gakken高等学院中等部」はフリースクールであるが「FAMcampus」(ファムキャンパス)を利用したバーチャルキャンパスも併設している。これについては「富士ソフトが文科省の実証事業に4年連続で採択、メタバースと教育データで不登校支援を拡大」という記事に詳しい。執筆者は大塚雷太氏。

富士ソフト株式会社は、文部科学省が進める「令和7年度 次世代の学校・教育現場を見据えた先端技術・教育データの利活用推進(最先端技術及び教育データ利活用に関する実証事業)」に、4年連続で採択されたことを発表した。2025年は、東京学芸大学教授の加藤直樹氏協力のもと、東京都小金井市・三鷹市・武蔵野市の小中学校で不登校となっている児童生徒を対象として、教育メタバース「FAMcampus」と教育データ、非言語コミュニケーションを活用した支援モデルを検証する予定だ。具体的には、包括的な不登校支援とともに、非言語コミュニケーションによる心理状態改善の検証を実施。行政や支援組織、学校の教員などのオフライン支援関係者と連携し、不登校児童生徒の学校居心地感尺度、自己肯定感尺度、KINDLQOL(キンドル・キューオーエル)尺度の改善を図る。KINDLQOL尺度とは、子供の健康関連QOL(生活の質)を多面的に評価するために開発された国際的な指標で、身体的健康・精神的健康・自尊感情・家族・友だち・学校生活についての満足度を測定する6領域で構成されている。富士ソフトはこれまでの取り組みで得た知見をもとに、学びの場となる「メタバース」のほか、カリキュラム、講師、不登校支援専門員の4つを組み合わせた「不登校支援パッケージ」を展開。人的リソースや専門知識が不足している自治体に対し、企画立案から体制構築、日々の運営支援までを支援している。

https://edu.watch.impress.co.jp/docs/news/2051791.html

支援というか研究である。大学教授が研究業績を上げるために不登校児童生徒が「学校居心地感尺度」「自己肯定感尺度」「KINDLQOL尺度」を計測され、その改善が図られる。あとは、それぞれの改善が見られたというグラフを示されて、実証的な研究となるわけである。その研究成果に基づき、企業が「不登校支援パッケージ」を開発する。これぞ「不登校ビジネス」じゃありませんか?

ヤフーニュースのコメント欄についたコメントは4件と少ない。そこで、今回は忖度を入れずにすべて紹介する。いつものように再配信の記事は削除されることが多い。すでにリンク切れになっているので、URLは省く。

富士ソフトというと、教科書会社の教育出版社と太いパイプでつながっている会社。先日は同じく教科書会社の最大大手の東京書籍が文科省と提携を結びました。やはり大手教科書会社の啓林館と光村図書は指をくわえて見ているだけですか。次期教科書改訂に向けて、大手教科書会社は文科省との親密関係を結ぶことで採択増を確実なものにしているようです。教科書会社も大手数社に集約されるようです。(a)

文科省は新しいことばかり増やしてないで、教員不足の根本的解決をしなさい。新しい学びは大切だが、仕事ばかり増やして残業だらけになり、若者がなりたくない職業になりました。残業代ゼロ、土日もゼロ。ブラック企業が魅力発信しても意味ないですよ。教育現場は崩壊を続けています。(Tree)

「メタバース」と言うのが恥ずかしくなりそうなぐらいの画面なんだけど、これいくらかけて作ったんだろう?まさかメタバースって流行り(だった)言葉を使って、さも凄いことしてそうな雰囲気だけ出してガッツリ金取ってるなんて無いよね。(sh********)

教育現場の質をあげないと不登校支援にはならないのでは?(h_f********)

いずれも、もっともな意見である。気になるのは「富士ソフトというと、教科書会社の教育出版社と太いパイプでつながっている会社」という最初のコメントだ。同社が開発したメタバースが普及すれば、相互運用性が高まるわけである。採用する自治体が増えれば、相互に行き来するようなことが可能になる。会社としてはシェアを広げたいところだろう。そうは言っても「恥ずかしくなりそうなぐらいの画面」と評されるような出来具合だ。所詮、子どもたちがゲームで遊んでいるメタバースとは違う。

行きつけのカフェの店主がホームページ作成のサービスを提供していた話を思い出した。カフェは町おこしの予算を使って開いたらしい。形態としてはインターネットカフェである。と同時にジャズカフェというコンセプトで、定期的にローカルなミュージシャンによるライブも開く。そこの店主が市の仕事を請け負った。ホームページの作成である。市の施策で開業したお店だから、まずは相談に来たのだろう。店主さんは予算はいくらかと聞いた。こうして、予算の上限でもって仕事を請け負うことに成功したのである。

ウェブアクセシビリティという概念がある。ユーザーの中には視覚障害や識字障害の人もいるわけで、文字の大きさや画面の色を変えるなどして見やすくできるサイトかどうか。あるいは使いやすいサイトかどうか、と工夫が必要だ。このアクセシビリティが低い見本とされるのが行政のホームページだ。例えば、図書館のページが使いにくい。よくあるのが「戻る」ボタンの位置が右と左とクリックするたびに変わることだ。こういうボタンはどのページでも同じ位置にあるほうがわかりやすい。つまりアクセシビリティが高いわけである。大阪市の図書館のページでは借りたい本をカートに入れて、予約の手続きを終えるまでに3回もポップアップが出る。カウンターで手続きするにしても予約票を印刷できる端末とできない端末がある。大阪府の図書館のページでは、予約カートに本を入れて、いざ手続きをしようとすると「予約できない本です」と表示される。貸出できない「禁帯出」の本だからである。では、なぜ予約カートに入れることができるのか?借りた本にしてもデフォルトでは返却期限ではなく貸出日の順に並ぶ仕様である。ユーザーが知りたいのは借りた日ではなく返す日のはずだ。

民間のウェブサイトの場合、ウェブアクセシビリティが低いというのは致命的な欠陥であることは言うまでもない。これはゲームでも同じことだ。実際にプレイしてみて、例えばバランスの悪いゲームがある。昔のファミコンなんかではぜったいにクリアできないゲームが存在した。今になってようやくクリアしたという動画がYouTubeに上がっていて、みんなそれを見て往時の苦い記憶を思い出しているくらいだ。であるから、ゲーム会社では発売前に実際にプレイしてみてゲームバランスを調整するのだ。最近では販売してからアップデートする形で修正することも多いらしい。それだけセンシティブなことなのだ。

行政と大学と企業によって運営される「教育メタバース」が子どもたちにとって居心地のいい空間であるとは思えない。「居場所」とはならないだろう。

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藤井良彦(市民記者) 藤井良彦(市民記者)

1984年生。文学博士。中学不就学・通信高卒。学校哲学専攻。 著書に『メンデルスゾーンの形而上学:また一つの哲学史』(2017年)『不登校とは何であったか?:心因性登校拒否、その社会病理化の論理』(2017年)『戦後教育闘争史:法の精神と主体の意識』(2021年)『盟休入りした子どもたち:学校ヲ休ミニスル』 (2022年)『治安維持法下のマルクス主義』(2025年)など。共著に『在野学の冒険:知と経験の織りなす想像力の空間へ』(2016年)がある。 ISFの市民記者でもある。

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