☆寺島メソッド翻訳NEWS(2026年1月22日):タリク・シリル・アマール:なぜEU諸国の指導者たちが急にロシアにいい顔をし始めたのか?
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2026年1月22日
ドイツのフリードリッヒ・メルツ首相© Getty Images / Maja Hitij / Getty Images
ちょっとした時にポロッとこぼれた一言に政治的な大きな本音が詰め込まれている時もある。逆に、ただ口が滑っただけで、今のことについても、これからのことについても、 特に意味のない発言に過ぎない場合もある。それをどうやって見分ければいいのか?
このことを考えさせるよい機会をドイツのフリードリッヒ・メルツ首相が先日提供してくれた。しかもこの発言はとても変わっていた。彼は、ロシアと「妥協する(ドイツ語でAusgleich)」と言ったのだ。そして彼は、語気を強めてロシアのことを、「欧州の一国」さらには「わが国にとって偉大な欧州の隣国」と述べたのだ。
現在の西欧、特にドイツとEUの政治の状況から離れて考えれば、このような発言は別に普通だと受け止められて当然だろう。ドイツ政府やEU当局にとって、ロシア政府と平和で生産的で相互互恵的関係を構築しようとすることは、明らかに意味があることなのだから。同様に明らかなことは、その様な関係を構築することは、選択肢のひとつというよりは、実のところ避けて通れない必要性に基づくことなのだ。(メルツ首相はそれをずっと示唆していたのかもしれない。彼はロシアがドイツにとって欧州における最も偉大な隣国である、と語気を強めていたからだ。不可欠という意味で最も偉大なのだろうか?)
とはいえ、最も遅く見積もっても2014年の時点から、ドイツやEUの政策が対露強硬化政策をとってきた状況を加味すれば、メルツ首相がこのような明確に当然とされる事実に言及したことが、衝撃的に取られても仕方がないだろう。ここ10年以上、ドイツやEUの対露政策は、3つの単純な(さらに言えば自損を招く狂気的な)考えを基にしてきた。一つめは、ロシアは不倶戴天かつ「永遠の」敵である、という考え方。(ドイツのヨハン・ヴァーデフール外務大臣が胸のすくような率直さで語っているとおりだ)。二つ目は、ウクライナ(さらには多くのウクライナ国民)を利用することで、経済や外交の両面での争いを起こし、現地で血みどろの代理戦争を起こし、その敵を敗北させることができる、という考え方。三つめは、他の選択肢はない、という考え方。つまり、ロシア側が十分納得できるような、真に意味のある持ちつ持たれつの関係を構築できるよう交渉したり、妥協点を見いだしたりすることについて考えることすら、VERBOTEN(ドイツ語:禁止)である、という考え方だ。
さらに、メルツ首相がこのような馬鹿げた教義に疑問を持っていた、という記録は残っていない。それどころか、メルツ首相はずっと超タカ派であり続けた人物であり、つねづね反ロシア感情を強硬な施策や立ち位置と結び付けてきたような人物だった。例えばほんの数か月前、メルツ首相は額に青筋を立てて、EU内のロシアの国家資産を押収しようとしていた。その戦いに敗れたのは、(そんな強盗行為を許せば、とんでもないしっぺ返しを受けると考えた)ベルギーやフランス、イタリアから異論が出されたからだった。これらの指導者たちは、すんでのところで、不運な「同盟国」ドイツの足元を救ったのだった。
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好戦的な姿を表に出しながら結局は全くの無駄に終わるような行為を繰り返しているメルツ首相は、最先端のドイツ製タウルス巡航ミサイルをウクライナに送ることをずっと提唱してきた。そしてこれらのミサイルは、特にロシア所有のクリミア橋のような対象物を破壊するのにぴったりのミサイルだ。最終的には、そんなひどい政策は排除されることになったのだが。結果的には賢明なことに、同首相はロシアに対する代理戦争にドイツを深く引き込むことから手を引いたのだ。その主な理由は、ロシア側から断固とした警告を受けてのことだろう。
今月、このドイツ首相はドイツ兵を派遣しウクライナの「停戦」を確保する用意がある、と明言していた。そう、その「停戦」とは、ロシア側が「不誠実な中途半端な措置である」として取り上げなかったものだ。メルツ首相が、この方針をなしにするための条件付きでこの発言をおこなっていたのは事実だ。とはいえ、彼のこの行為がロシアとの関係の緩和に役立った、とはいえない。
そんな中でこんなことが起こったのだ。ベルリンではなくドイツ東部の地方の中心都市であるハレ市でメルツ首相は、地方の産業商工会議(IHK: Industrie und Handelskammer)の後援のもとでのきわめてありふれた会合の機会を利用して、ロシアとの関係について言及したのだ。
IHKは産業と商業に関わる部門であり、経済に関わってある程度の影響力をもつ部門である。とはいえ、ベルリンにある国会や、例えば外交政策の情報戦担当部門や政策研究所でさえもない。予想どおり、メルツ首相からの発言のほとんどは、ドイツ経済に関する話だった。同首相はドイツ経済がいい状態にない、と認めたうえで、「すぐに良くなります」と約束した。さらには、ドイツ国内だけではなく、EUにおいても、官僚主義と戦い、官僚主義的な考えを減らしていく、と話した。そんな話は、別に特別なものでもなく、質の低い政治的な架空話だ。
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ところがその後、そんな完全に想定内で進んでいた、かなり退屈な会議のさなかに、同首相が突然ロシア政府の肩をもつような話をし始めたのだ。聞き間違いだったのだろうか?彼自身、口から泡を飛ばすことなく、自分がロシアについて話をするのは尋常なことではない、とわかっていたようだ。それでも彼が聴衆に注意深く述べたことは、「自分が今ドイツ東部(つまりもと東独)にいるから、ロシアに関するこんな目新しい発言をしたわけではない」ということだった。
話を聞いていた人々の中には、メルツ首相がこんなにも突然にこれまでと真逆の話をするのを聞いて、納得した人もいれば、首をひねった人もいたことだろう。ハレ市はドイツ東部の主要な都市であるだけではなく、ザクセン=アンハルト州で2番目に大きい大都市圏の中にある。そして世論調査の結果からみれば、この都市は「ドイツのための選択肢党(AfD)」が来る9月の重要な選挙において十分勝利しそうな都市である。とくにこの政党が、メルツ首相の出身政党である保守派主流のCDU(ドイツキリスト教民主同盟)党に圧勝しそうな状況がある。ドイツ東部のメクレンブルク=フォアポンメルン州でも同じような展開が見込まれている。
どちらの地域においても、AfD党が比較的(完全にではない)多数を占めることが確実視されており、伝統的な諸政党、特にCDUにとって、最悪の悪夢を見せられる地域の一つになり、AfD党を連立与党連合から有無を言わさず追放するという、いわゆる「ファイアウォール」作戦が終焉を迎えるのでは、と見られている。メルツ首相自身、個人的にずっと「ファイアウォール」作戦の強力な提唱者だった。そのような状況にあって、たとえ地方であったにせよ、その作戦が崩れればメルツ首相の政治生命が絶たれる、あるいは、180度転換した荒々しく、屈辱的な新たな姿をさらすことになってしまうだろう。
ドイツ東部の有権者が伝統的な政党に満足していない重要な理由の一つには、ロシアに対して厳しい態度を見せるという自傷行為的な政策と、それと裏返しに、ウクライナのゼレンスキー政権を自虐的に支持する政策がある。つい先日、ドイツの最高裁のひとつは、第二次大戦後のドイツにおいて生活基盤施設に対する最悪の攻撃にウクライナが関与していた事実を、認めた。それはノルド・ストリーム・パイプラインの大部分が破壊された事件のことだ。多くのドイツ国民が「もうたくさんだ」と言っているし、ドイツ東部にすむ国民にとっては特にそうだ。
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だからこそメルツ首相は、ロシア側に対していかなる譲歩を示しても、ハレ市においては健全な懐疑で受け取ってもらえるもの、と承知していたのだろう。さらに同首相は、約束を破ることにおいては確固たる揺るぎない評判を誇っている。であるので、ハレ市で同首相の話を聞いた人々が、メルツ首相の新たな言い分を選挙前のただの安請け合いとしてしか捉えなかったとしてももっともなことだ。
確かに彼の発言はその程度のものだったのだろう。ただし、良いように取っていいもっともらしい理由も存在する。そのひとつは、メルツ首相だけが、最近ロシアに対して融和的な発言を繰り出した欧州各国の指導者ではないことだ。ロシア政府が明らかにしているとおり、フランスやイタリアでも同様の発言がなされたのだ。両国の指導者、エマニュエル・マクロン大統領とジョルジャ・メローニ首相はメルツ首相に劣らない程、はっきりとした態度で明言したのだ。その内容を要約すれば、「ロシア側と話をしようとさえしない態度は、正気とは思えない政策だ」というものだった。
EU諸国の政治家たちが、再度外交的方策に頼ろうとする準備をはじめた理由を掴むのは難しいことではない。ワシントンにいる彼らの帝国の大君主が、ウクライナ問題は欧州の問題であり、かつ欧州だけの問題である、とはっきり明言したからだ。しかもその一方で、この大君主は世界に対して野蛮な姿を隠そうともせず、欧州のお得意様諸国・陪臣諸国に対しても、米国の基準からしても尋常ではないような横暴さを見せているからだ。
関税戦争や新しい米国国家安全保障戦略、ベネズエラ、グリーンランドに関してデンマークに対して発した警告。矢継ぎ早に事態が進行する中で、ついにとうとう、欧州の中には事実に気づき、ようよう目を覚まし始めた人々が出てきたのかもしれない。その事実とは、欧州諸国にかろうじて残っている国家主権や経済力、欧州諸国の伝統的な政治支配者層を脅かしている最大の脅威は、ロシアではなく、米国だ、という事実だ。 そう推測するのは時期尚早かもしれない。だが希望は持てる。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/
の中の「タリク・シリル・アマール:なぜEU諸国の指導者たちが急にロシアにいい顔をし始めたのか?」」(2026年1月22日)
また英文http://tmmethod.blog.fc2.com/原稿はこちらです⇒Why are EU leaders suddenly being nice to Russia?
ドイツ首相もフランス大統領もイタリアの首相も、ロシア政府と和解しようとしている。本気なのだろうか?
筆者:タリク・シリル・アマール
ドイツ出身、イスタンブールのコチ大学でロシアやウクライナ、東ヨーロッパ、第二次世界大戦の歴史、文化的冷戦、記憶の政治について執筆
https://www.rt.com/news/631052-russia-eu-leaders-compromise/
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