第42回 「警察の常識は社会の非常識」知られざる科捜研の世界
メディア批評&事件検証今市事件で被害女児の頭部から見つかった布製粘着テープのDNA型鑑定で、犯人とみられる女性のDNA型が開示されてないことを、2人の法医学者が独自に検証して明らかにした。
その一人で、徳島県警科捜研に31年間在籍した徳島文理大学大学院の藤田義彦元教授に栃木県警のデータ未開示をどう見るのか、警察組織における科捜研の存在はどのようなものか探った。読者の皆様には科捜研関係者としては極めて珍しく貴重な発言に注目してほしい。
梶山:粘着テープの検証結果をどう見るか?
藤田元教授:今市事件の粘着テープを検証すると、被害女児とは違う女性のDNA型が確実に検出されていることはDNAの鑑定データが示している。被害女児以外の女性の型の存在可能性を科捜研研究員が捜査側に具申して、法廷で明らかにしておれば、また違った判決になる可能性がある。
梶山:一審では、検察が汚染(コンタミネーション)問題を挙げて、検査をした科捜研の男性技官2人の汚染があり、犯人追及ができないと説明したが?
藤田元教授:このコンタミの問題でも警察の方に都合が悪ければ、今回の今市事件のDNA型鑑定でも、そうだが、コンタミで証拠価値がないという。しかし、容疑者が出たらコンタミでも証拠価値があるということがこれまでに多々あった。
あまりにもその時々で都合のいいような解釈をしており、一言で矛盾している。今回、梶山さんから頂いた粘着テープの解析資料などを詳細に分析してみると、エルクトロフェログラムの元のピークの高さを見てみると、やはり粘着テープの表には、男性が入っているというY型が出てない。
X型のみで、被害女児以外の型が出ているということは女性である可能性は大である。だからもっと、詳細に検討しなければいけない。ただコンタミだから証拠価値がないと切り捨てるのではおかしい。
コンタミでも丁寧にDNA型を見つけて引き算すれば答えは出る。無期懲役となった勝又拓哉受刑者のDNA型が検出されていない。そうなると、この結果は勝又受刑者が犯人であるという裏付けの証拠にはならない。結果がきちんと出ていて、たまたま犯人のDNA型が検出されないこともあり得るというのは、サイエンスではない。
今の裁判というのは、検察側にとって都合のいいデータは出して、都合の悪いものは出さない。より真実に近づけるのであれば、関係資料は全部提出して、精査し判断してもらうというのが裁判のあり方だと思う。検察の言い分だけでなく,その反証のデータも精査して真実を追究するのが裁判所の使命である。
独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。