編集後記:割烹店夫妻とキジバトの交流4年
編集局便り警戒心の強いキジバトのつがいが、栃木県日光市下鉢石町で60年以上続く湯葉料理の割烹店「与多呂」を営む布施英明さん(59)/恵さん(60)夫妻との交流が庭先で、もう4年も続いている。
毎日、「ポーちゃん、御飯だよ」。米粒を与える時には、必ずそう呼びかける。「ハトポッポ」から2羽の名前を付けた。その声が聞こえると、どこからか、つがいが姿を現し、夫妻の掌にちょこんと乗ったり、目の前で寝そべったり、ほのぼのした光景が来客の心を癒してくれる。
キジバトは、成鳥だと体長約30㌢で樹上に巣を作る。公園などに群れるドバトとは違う種類のハトだ。夫妻とキジバトの出会いは2018年1月。かつて店先には、井戸があり、その水で商いをしていたこともあって、月初めには米粒と塩を供えていた。ところが米粒だけがあっという間になくなっていることに気づいた。スズメかカラスか食べているのではと注意して見ていると、キジバトのつがいとばったりと出くわした。
1羽は驚いて電線に飛び乗ったが、もう1羽はその場に棒立ち。瞬間、恵さんと目が合った。「おなかがすいていて、食べさせてほしい」と懇願しているように見えた。3人の子どもは独り立ちし、夫妻はちょうど寂しさを募らせていた時期だった。恵さんから報告を受けた英明さんは喜び、その日から米粒を店先にそっと置いて、遠くから見守ることにした。
夫妻とつがいの距離は日に日に近づき、2羽を見分けることもできるようになった。尾に白い羽があるのが、臆病者。もう1羽は社交家で、毎日勝手口の前で店先に夫妻が出てくるのを、腰を落として待っている。
エサをついばむつがいの上をカラスが旋回していることもある。そんな時は心配でたまらない。つがいが姿を見せない時には何かあったのでは、と不安になる。もう、すっかり家族のようなものだ。
それから翌年の4月だった。店の敷地内のツバキの木に巣を作り、卵を温め2羽のヒナを産んだ。親鳥に近い体つきに成長していたが、まだ飛行がうまくできなかった。自然界で生き抜くことの厳しさを思い知らされた。サルか野良猫に襲われたらしい。
必死に悲しみをこらえる夫妻の姿に慰めの言葉を探す自分がいた。あれから3年。梶山が夫妻に連絡したら恵さんが出た。弾んだ声だった。今、キジバトは数匹になったと開口一番に私の心に響いた。
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独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。