ウクライナ戦争を仕掛けたのは誰か?(後)
国際VIII. 今次戦争の帰結は何か。
❶ロシアは制裁に耐えて、欧米の資源植民地とはならない決意を示した。いわゆるロシア制裁はロシア経済を窒息死させるどころか、反転して資源や部品の供給網を寸断して、グローバル経済を混乱に陥れ、世界的なインフレを招いている(ちなみに、ロシアのエネルギーを無視してドイツ経済圏は成立しえない。ドイツはノルドストリーム再開への交渉を急ぐ)。
❷中国は対ウクライナ、対ロシア関係のバランスを堅持しつつ、戦後の世界での地位を益々固めつつある。
❸最も危ういのは日本だ。ウクライナ戦争前後から特に<G7との価値観共有>が強調される。いまあえて<先進国(=旧帝国主義諸国)の一員>を強調するのは、旧帝国主義の一員として、<アジアで孤立する日本>の居心地の悪さの逆証明ではないか。衰弱するG7との協調ではなく、むしろG20との協調による経済発展が肝要なのだ。日本政治は空騒ぎに踊った挙句、日本沈没の速度をいよいよ早めつつある。
憂慮すべきはヨーロッパの戦争よりは、日本の安全保障無策ではないか。紛争当事国の一方を国会でオンライン講演を許しながら、他方で対ロシア制裁の是非を問う声は一切許さない。無定見にウクライナを無条件に支持して、対ロシア制裁に加わることは、日本の安全保障にとって危険性が極めて高い。
中国もロシアも第2 次世界大戦の戦勝国として、核兵器保有を国連で認められた大国だ。この二つの核大国と敵対する時、日米安保はまったく役立たない。東アジアにおいては、軍事的に劣勢であるばかりでなく、米国経済はその軍事力を支える経済力を欠いている。
ウクライナ・ロシア戦争はヨーロッパに戦線をもつ戦争だが、日本の地政学から見ると、東部ロシア(シベリア)は一衣帯水の隣国であり、しかも国境線引きは未解決だ。漁業資源の交渉であれ、エネルギーの輸入交渉であれ、隣国との友好関係の維持が不可欠なときに、安易な人権外交に踊らされて国益を危うくすることは許されない。
2月1日の衆院決議で中国非難の新・暴支膺懲決議を行い、中国を敵国扱いし、今回の対ロシア制裁でロシアを敵国に回した。このような日本政府と国会の暴走は、いまだかつてない事態だ。速やかに是正しなければ、日本は危うい。
繰り返す。❶日本はNATO加盟国ではない。❷日米安保の極東条項にウクライナが含まれないのは明らかだ。にもかかわらず、❸戦争の一方の当事者にオンライン国会演説を許し、❹他方さまざまの懸案を抱えたロシア外交官を一方的に追放し、プーチン大統領からサハリンⅡの警告を受けて慌てる姿は、安全保障のイロハを忘れた醜態と評するほかはない。
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1938年生まれ。東大経済学部卒業。在学中、駒場寮総代会議長を務め、ブントには中国革命の評価をめぐる対立から参加しなかったものの、西部邁らは親友。安保闘争で亡くなった樺美智子とその盟友林紘義とは終生不即不離の関係を保つ。東洋経済新報記者、アジア経済研究所研究員、横浜市大教授などを歴任。著書に『文化大革命』、『毛沢東と周恩来』(以上、講談社現代新書)、『鄧小平』(講談社学術文庫)など。著作選『チャイナウオッチ(全5巻)』を年内に刊行予定。