【特集】統一教会と国葬問題

自民党を支える「宗教」―カルトに浸食された右派と「神社界」の惨状―

青山みつお

・安倍暗殺で炎上した保守論壇の面々

2022年7月8日、奈良市内で参院選応援演説中の安倍晋三元首相が狙撃され、落命した。殺人未遂容疑で現行犯逮捕された山上徹也容疑者の犯行動機は、世界平和統一家庭連合(以下、統一教会)への怨恨と報道され、皮肉にも安倍氏をはじめとする政治家とカルト宗教とのズブズブの関係に注目が集まった。

Concept of where Religion and Politics intersect.

 

一方、アベ政治を支持してきた右派論壇は、殺害の原因となった教団との癒着をできるだけ矮小化すべく躍起になっており、その様は滑稽なほどだ。

とりわけネット民に笑われていたのが、投開票当日にニコニコ生放送で配信された参院選特番だ。評論家の東浩紀氏、国際政治学者の三浦瑠麗氏、元毎日新聞記者の石戸諭氏らが、福島瑞穂・社会民主党党首の発言に過剰反応した件だ。

三浦氏から事件に対するコメントを求められた福島党首が、「もし統一教会を応援しているということが問題とされたのであれば、まさに自民党が統一教会によって大きく影響を受けている、ということも日本の政治の中で、これは問題になりうると思っているのですね」と、事件への感想を述べたことに対し、東氏が「『自民党は統一教会と関係しているからこのようなテロを招いた』と言った」と非難し、三浦氏は「ほぼそれに近い」と同調。

以下、東「これは大変な発言ですよね」。石戸「だから福島さんというか、社民党は小さくなるんですよ」。東「こんなの許されないに決まってるでしょ」。三浦「これはもうニュースになってしまいます。しかし申し訳ないけど私の責任ではないと思います。一度、牽制球を投げましたからね」。

ところが、福島党首の問題発言として紹介された動画には、「統一教会を擁護する気か」と、東氏らへの非難が殺到することになった。
左派やリベラル系に批判的なニコニコ動画の視聴者や自民党支持者でも、旧統一教会と自民党との関係を苦々しい思いで見ていた人が多く、暗殺事件をきっかけに、かねてからわだかまっていた鬱憤が爆発したのだ。

この騒動のきっかけをつくり、統一教会の訴訟代理人だった高村正彦・自民党憲法改正実現本部最高顧問と『国家の矛盾』(新潮新書)なる共著を持つ三浦氏は、退陣表明後の2020年9月2日、その功績を紹介するコメントに「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の写真をつけてツイート。これを山上容疑者が「内容に関係ないが、写真が統一教会の大会そのもの。どこまで入り込んでいるのか…」とリツイートしていたことから、「安倍暗殺のきっかけは三浦瑠麗」と揶揄される始末だった。

とはいえ、彼らはまだマシな方だ。ホンモノの右派言論界では、旧統一教会の名を出すことすらタブーとされた。

・旧統一教会に頬かむりする右派言論人

統一教会に配慮する右派の典型が、7月15日配信の「第508回・櫻LIVE」。放送時点で、安倍氏と統一教会の関係が山上容疑者の犯行動機であることは明らかだったが、司会の櫻井よしこ氏をはじめ、出演者一同、統一教会に全く言及していない。

岡部俊哉元陸上幕僚長は、銃撃の様子を撮影した動画のひとつを紹介。撮影の仕方が冷静で、エクアドルの放送局経由で拡散されたと指摘したうえで、同国には各国の情報機関が集まっていると解説。山上容疑者に何らかの背後関係や、暗殺に海外情報機関の関与があった可能性を示唆した。

なお、エクアドルは、2017年まで反米政権だった。中国の援助を受けて監視システム「ECU911」を構築して反体制派の監視を行なっていた国だ。国民監視システム「PRISM」を暴露し、スパイ容疑で訴追されたエドワード・スノーデン氏の亡命候補地として報道されたこともある。

The flag of Ecuador pinned on the map. Horizontal orientation. Macro photography.

 

しかし、その後明らかになったことを見るに、今回のテロに海外情報機関の関与の形跡は皆無である。右派言論人が暗殺の背後に陰謀があると想像するのは、統一教会と右派政治家の関係を話題にされたくないからだ。

山上容疑者の犯行に背後関係がないのは、犯罪捜査の鉄則の“誰が犯行によって利益を得たか”を考えれば自ずとわかることだ。

安倍暗殺でもっとも得をしたのは、国内では岸田文雄首相と林芳正外相、海外では中国の習近平国家主席であろう。とりわけ、山口県における安倍派と林派の確執は、先代の林義郎氏、安倍晋太郎氏の時代からだ。

安倍元首相よりも2年政界デビューが遅い林芳正氏は、本来の地盤であった衆議院山口4区に安倍氏がいたため、参議院から出馬した。だが、総理大臣になるには衆議院の議席が必要だ。昨年の総選挙では、自民党公認で山口3区に鞍替え出馬、当選後に外務大臣に就任した。この岸田首相の人事に激怒したのが、安倍氏だった。

林芳正外相

 

ジャーナリストの新恭氏は、安倍氏が激怒した親中派・林氏の外相就任の黒幕を、麻生太郎元首相だと解説している。

アメリカの中国包囲網に積極的に参画し、その支持の下で改憲を行ないたい安倍氏にとって、外交政策の転換に加え、親の代からの宿敵だった林氏が首相候補に浮上してきたのだ。そこで安倍氏は、高市早苗政調会長を総理総裁にすると決意したという。

安倍氏にとって好都合なことに、山口4区と同3区は、次期総選挙から統合される見込みだった。次の総選挙に安倍氏が出馬し、林氏との直接対決に勝利すれば、林氏の総理総裁の目が消えるばかりか、議席を失って政治生命さえ危うくなる。

林氏を落選させて、4区と統合後の山口3区を安倍・岸家によって永久支配する。そして、高市氏を総理総裁にする。これは安倍氏の妄執であり、自民党内にも核兵器の国内配備を主張するなど、暴走気味だった安倍氏に困惑していた国会議員が少なからずいた。

この妄執を実現する布石として、次期総選挙まで政界に影響力を維持するべく、安倍氏は精力的に今回の参院選の遊説に駆け回っていた。しかし、奇しくも自分の後継者と考えた高市氏の地元で命を落とすことになった。

・右派が吹聴する〝計画的テロ〞

山上容疑者の犯行を、用意周到に練られた計画的テロのように解説する右派コメンテーターがいるが、そもそも今回の事件は、普通なら成功するはずのないものだった。

安倍氏殺害のために山上容疑者が最初に動いたのが事件前日の岡山県の演説会だが、場所は室内、しかも周囲にSPがいたので何もできずに引き返している。ところが翌8日に自宅近くの大和西大寺駅前に来ると知り、前日用意したのとは別の手製の銃で決行した。

こんな行き当たりばったりの“計画的テロ”はない。奇跡的偶然が積み重なってマグレで成功したのだ。太平洋戦争のレイテ海戦で、栗田艦隊が反転せずにレイテ湾に突入したら、思いもよらぬ僥倖に恵まれて米軍上陸部隊を壊滅させ、マッカーサーを討ち取ってしまったような出来事だろう。

先の岡部氏のように、山上容疑者をテロ組織に指示された暗殺者と疑う者もいるが、正確に作動するのかも怪しい手製銃で要人暗殺を計画するテロ組織は存在しない。

また山上容疑者とは別のスナイパーが、狙撃銃で安倍氏を撃ったという説もあるが、大勢の目撃者と各方面からの映像を見る限りでは考えにくい。山上容疑者は確かに2発を放ち、その2発目が致命傷となっている。SPが一発目の銃声に反応し、安倍氏を伏せさせなかったのは、ただの失態だと見るべきだろう。

山上容疑者の犯行動機が、統一教会による被害の実態に注目を集めることだったとすれば、その目的はいくつもの偶然が積み重なったことで、完璧なまでに果たされた。

今回の参院選では、安倍氏の元秘書官だった井上義行氏が、自民党の比例候補として出馬し、結果、統一教会の支援を受けて前回の倍近い約17万もの得票で当選するも、暗殺事件によって大きな注目が集まっている。

さらに偶然にもサンクチュアリ教会の文亨進氏が来日中だった。サンクチュアリ教会は、統一教会の教祖である故・文鮮明氏の七男の亨進氏が、統一教会から分派させた教団だ。半自動小銃AR-15を神聖視し、信者は老いも若きも、ウエディングドレスの花嫁も自動小銃を手にする。

教祖の亨進氏は、頭に弾帯を巻いた奇抜な格好がトレードマーク。本部のあるアメリカでは2021年1月の議事堂襲撃事件を支援する一方、今年2月にウクライナに侵攻したプーチン露大統領が、ネオナチと呼んだウクライナ民間武装組織アゾフ連隊も支援する。世界中で右派の暴力革命を使嗾する危険思想教団といえるもので、日本にも複数の支部がある。

これほど完璧なシチュエーションを用意するのは、人知では不可能だろう。

 

1 2
青山みつお 青山みつお

海外メディア勤務を経て、フリーライターとして活躍中。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ