【特集】統一教会と国葬問題

自民党を支える「宗教」―カルトに浸食された右派と「神社界」の惨状―

青山みつお

・自民党がLGBT差別を容認した理由

暗殺事件当日の7月8日の夜9時に配信の「第507回・櫻LIVE」では、「月刊HANADA」の花田紀凱編集長が、「(犯人は)神道政治連盟の安倍さんの考え方に不満を持っていたと本人が言っているらしい」と語った。

この段階では、山上容疑者の恨みの対象は「特定宗教団体」と報道され、統一教会の名は出ていない。花田氏は、公式発表より2時間半早く、安倍氏の死亡をSNSで伝えた官邸べったり記者の山口敬之氏と親しいことから、信じた視聴者もいた。恥ずかしながら筆者もその一人だ。

A news headline that says “religion” in Japanese

 

奇しくも同じ日に山口氏は、中村格警察庁長官が逮捕を中止させた準強姦事件における民事訴訟の上告を最高裁に却下され、332万円の賠償を命じる判決が確定している。

花田氏が言うように、暗殺事件が神道政治連盟の安倍元首相の考えに不満を持つ者の犯行なら、LGBT差別が理由だろうと推測された。

冒頭に紹介したニコニコ動画のインタビューで、福島党首は「ジェンダー平等や様々なLGBTQの問題、その他様々な人権問題の法律改正を自民党が阻んできた理由が、もしも仮に統一教会等の影響が大きいためだったとすれば、日本の政治の問題として明らかにされるべき」とも語っている。福島氏の発言はもっともだった。

昨年の東京オリンピック・パラリンピック前に、オリンピック憲章にあるマイノリティ差別廃止を目的としたLGBTQに寛容な社会を目指す「理解増進法案」の提出が審議された。野党も賛成する法案だったので、提出されれば成立は確実だった。ところが、自民党内で強硬に反対する議員がいて、提出が見送られている。

同様の主張で話題になったのが、今年6月13日に神道政治連盟国会議員懇談会の会合で配布された「LGBTは精神障害や依存症の類」「LGBTの自殺率が高いのは社会的な差別が原因ではない」等とするパンフレットだ。

もともと神道には、同性愛への禁忌はなかった。戦国大名の間では、衆道(男色)が流行っていた。信玄や信長の男色はとみに有名である。江戸時代には陰間と呼ばれた茶屋などで男色を売る男娼もいた。明治期になって公序良俗に反すると排斥されたのは、欧米の倫理観に迎合したからだ。

Simple Touch Male Couple Illustration

 

ユダヤ・キリスト教やイスラム文化圏では、同性愛はソドミー法によって死罪にもなる重罪だった。一方、日本社会は、同性愛に極めて寛容だった。オネエ言葉のタレントがテレビに出演すれば、テレビ局に爆破予告が送りつけられかねない国だってある。

その点、日本の神道は、多神教だからか、本来は性に対して大らかな宗教といえる。ところが、近年の神道政治連盟や、その母体である神社本庁は、キリスト教に宗旨替えしたかのように、LGBTを目の敵にしている。

その理由が統一教会の影響ではないか、といわれる。かつての統一教会は、神社をサタンのいる場所として、信者に足を踏み入れるなと教えていた。

・神社界がカルトに汚染された理由

ところが、自民党が野党に転落した2009年以降、統一教会は神社界との提携を模索。第2次安倍政権成立後の2013年には、統一教会の関連団体が、靖国神社で営まれた「戦没者と東日本大震災犠牲者の慰霊祭」に参加している。

神社界には悩みがあった。潜在的信者数は、文化庁『宗教年鑑』令和3年(2021年)版に、神道系8792万4087人と登録されるが、信仰心のある人はごくわずかで、選挙の集票や献金に結びつかない。潜在的信者から献金や票を集めるにはマンパワーが不足していた。創価学会女性部のような、宗教的信念で手足となって働いてくれる人間がいないのだ。

そこに統一教会が付け入ったといわれる。表向きは、環境保護運動や平和運動に取り組むNPO法人を名乗りながら、神社に玉串料を納め、奉納してくれる氏子を訪問し、選挙の投票依頼や改憲賛同署名、募金活動を行なっているという。

いわば創価学会のフレンド作戦(友人・知人への集票活動)と同じだ。その結果、徐々に神社界が統一教会の影響を受けていったと指摘されている。

また、組織の綻びも表れている。現在、全国の神社を包括する宗教法人の神社本庁には、総長が二人いる。神社本庁の代表者である統理が指名した総長人事に不満な理事たちが、役員会の議決で前総長の再任を決めて分裂状態なのだ。神社本庁に詳しいジャーナリストが説明する。

「前総長の田中恆清(つねきよ)氏は、2018年に職員宿舎売却を巡る背任疑惑を追及され、いったんは辞任する意向を示した。ところが、事務局の説得で田中総長が辞任を撤回したことで鷹司尚武統理との関係がギクシャクし、今日の内紛となった。

田中総長は、事務局のアドバイスで北海道旭川地裁に地位確認の仮処分を申請。奇しくも安倍氏が死去した7月8日に、旭川地裁は新総長就任の一時保留を命ずる『仮処分決定』を出している。神社本庁の事務局には、統一教会の隠れ信者がいると噂される。彼らの教義からすれば、サタンの宗教である神道を分裂させることは理にかなっている」。

また、神社本庁も推進派である改憲問題については、こんな見解を述べる政治記者もいる。

「改憲勢力は、憲法9条を改定して集団自衛権や領土外における交戦権を容認するつもりです。これは米軍の補助兵力として自衛隊が海外で戦闘することを意味する。一方で安倍さんは核武装も主張していたが、アメリカが認めるはずがない。つまり改憲の結果、日本は海外でアメリカの戦争に参戦させられる一方、米軍の核の傘への依存はますます強まる。日本の安全保障にとって最悪の状況です」。

旧統一教会は、日本では右派政治家に取り入ることで宗教法人資格を得て、政治に大きな影響力を持つようになった。今回の不幸な暗殺事件を契機に、その対策を真剣に考えなくてはならない。

それにしても、拉致問題も日ロ平和条約も憲法改正も口先だけに終わった安倍晋三元内閣総理大臣だが、神社本庁と日本会議、統一教会と自民党の深層をあぶり出した功績は評価したい。やはり、国葬に相応しい歴史上の人物といえるのではないか。

(月刊「紙の爆弾」2022年9月号より)

 

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青山みつお 青山みつお

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