自民党を支える「宗教」―旧統一教会との関係と酷似、創価学会と岸・安倍家―
政治・「政教分離」で廃止された国葬令
参院選遊説中の7月8日に銃撃を受けて死去した安倍晋三元首相の葬儀を国葬(国葬儀)とすることを、岸田文雄首相が14日の記者会見で表明。公明党もこの「首相の決断を評価」(山口那津男代表)し、9月27日に日本武道館で実施することを7月22日に閣議決定した。
理由として岸田首相と山口那津男公明党代表は、「①安倍氏の首相在任期間が歴代最長、②内政・外交で大きな成果を生んできた、③国際社会からも幅広い弔意が示されている、④民主主義の重要性を改めて国民とともに確認する」の4点を挙げているが、内政・外交ともに失政だらけで格差と分断を助長し、議会制民主主義を蔑ろにして法治国家の根幹を揺るがせたアベ政治には、怨嗟と批判の声が満ち満ちており、首相らの理屈は説得力に欠ける。
それだけに各種メディアでも国葬に対する疑問や批判が噴出しており、たとえば岸田首相の地元の広島県や安倍元首相の地元である山口県をカバーするブロック紙の中国新聞は、7月19日付「社説」で「安倍元首相の『国葬』 決定の理由、説明足りぬ」と題して、次のように疑問を呈している。
〈安倍氏の衝撃的な死を悼む声が多く寄せられているのは確かだ。一方、功績の過大評価には異論も多い。例えばアベノミクス。東京一極集中や格差拡大には歯止めをかけられなかった。(中略)
影の面にも目を向けねばならない。加計学園問題をはじめ政権の私物化と、官僚の「忖度(そんたく)」といった「1強」のおごりや長期政権による緩みも目立った。とりわけ森友問題では、財務省による公文書改ざんまで起き、職員が自殺に追い込まれた。
国会での論戦を避けて数で押し切る手法で、国民の分断を招いた。集団的自衛権の限定的行使を容認する憲法解釈の転換や安全保障法制などである。沖縄に関しては、米軍基地新設に何度も「ノー」の民意を示したのに、十分耳を貸さなかった。
首相は国葬にすることで「民主主義を断固として守り抜くという決意を示す」と述べた。しかし実際は、安倍氏が民主主義の原則を軽んじた面があったことを忘れてはならない〉。
さらに「社説」は、「そもそも国葬にする法的根拠が曖昧だ」として、国葬には法治国家として根本的な疑問があると次のように指摘する。
〈戦前は、皇族や「国家に偉功ある者」など対象者を定めた「国葬令」があったものの、戦後廃止された。今は、国葬の対象者や実施要領を明文化した法令は存在しない。
岸田首相は、国の儀式を所掌するとした内閣府設置法があり、閣議決定により国葬は可能だと説明する。しかし国葬にする基準もないのに、行政府だけの判断でいいのか、疑問だ〉。
ここで指摘しているように、「国葬令」は政教分離を定める現行憲法の制定により廃止されており、国葬に関する法的根拠はない。安倍元首相の大叔父にあたり、日本人初のノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作元首相の国葬を政府・自民党が断念し、国民葬としたのは法的根拠を欠いていたからにほかならない。
にもかかわらず全額を国費で賄う国葬を強行しようというのは、〈安倍氏を『非業の死を遂げた偉大な指導者』と持ち上げ、国葬を営むことで負の側面にふたをする意図〉(神戸新聞7月20日付「社説」)と見て、まず間違いなかろう。
・岸信介元首相が送った文鮮明教祖釈放の嘆願書
だがそうした岸田首相や自公両党の思惑とは裏腹に、安倍元首相射殺事件は、政治と宗教の闇、ことに安倍元首相や自民党と、霊感商法や合同結婚式、さらには高額献金などで深刻な被害を出し続けてきた旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との濃密な関係をクローズアップすることとなった。
イギリスの経済誌『フィナンシャルタイムス』は、事件を「安倍晋三殺害で政治家たちと統一教会のつながりに注目が集まる」との見出しで、安倍元首相や自民党と旧統一教会の関係は、「祖父・岸信介の時代から、日本の支配者層とメディアが見て見ぬふりをしてきた公然の秘密だった」と指摘しているが、そのとおりである。
そのことは、久保木修己元日本統一教会会長が、1996年に旧統一教会系のメディア世界日報社から出版した『愛天 愛国 愛人―母性国家、日本のゆくえ―』と題する回顧録からも読み取れる。そこには岸元首相と旧統一教会の関係が次のように書かれている。
〈そのころ(注・60年代)、統一教会の本部は渋谷区南平台にあって、実は岸先生のお宅の隣でした。(中略)岸先生は、しばしば統一教会の本部や勝共連合の本部に足を運んでくださいました。隣同士のよしみということもあったのかもしれません。しかし、それはあくまできっかけに過ぎません。日本の現状を憂うる気持ちと日本の将来に対する夢において、先生と私たちには共有できる精神的連帯感がありました(中略)。
岸先生に懇意にしていただいたことが、勝共運動を飛躍させる大きなきっかけになったことは間違いありません。国内においても国外においてもそれは言えることです〉。
ここで久保木元会長は、「岸先生に懇意にしていただいたことが、勝共運動を飛躍させる大きなきっかけになった」と書いているが、それは反共的な政治活動にとどまらず、本業の宗教活動においても発揮されたはずだ。その意味で、岸元首相こそ韓国発祥の旧統一教会を日本に根付かせ、勢力を拡大する上で後見的役割を果たした“恩人”なのである。
そのことは84年に文鮮明教祖が、アメリカにおいて脱税容疑で逮捕・拘束された際に、「日本国元総理」として、時のレーガン大統領に文氏釈放の「嘆願書」を送ったことからも確認できる。岸元首相の「嘆願書」には、次のようにある。
〈300万人近い人々の宗教指導者で国際的にも認められている人物が、このような状況下で米国の刑務所に投獄されていることは私たちにとって非常に気がかりです。大統領閣下、私たちは「宗教の自由」および「言論の自由」を保障した米国憲法修正第1条に基づいて、閣下が直ちに過ちを是正する行動を取るようお勧めするものであります。
文師を引続き投獄しておくことは、国家にとっても何ら利益になりません。私たちは閣下がこの問題に注意を向けてくださるようお願いするものであります〉。
この岸元首相と旧統一教会との関係は、そのまま女婿の安倍晋太郎元外相を経て、孫の晋三元首相へと引き継がれた。旧統一教会が、裁判所から相次いで霊感商法や高額献金などの反社会的行為を厳しく断罪されていたにもかかわらず、安倍元首相が旧統一教会やその関連団体のイベントや合同結婚式にメッセージや祝辞を送り続けた背景の一端がここにある。
そして旧統一教会は、7月の参院選で当選した、安倍元首相の側近秘書官だった井上義行自民党参院議員(比例)を熱烈に支援したように、安倍元首相の側近議員らをはじめ多くの自民党国会議員を支援してきた事実がある。
ジャーナリスト。世界の宗教に精通し、政治とカルト問題にも踏み込む。