【連載】横田一の直撃取材レポート

銃撃事件が参院選に与えた影響、最後まで批判を無視した安倍元首相

横田一

・郷原信郎弁護士が語った〝追悼翼賛報道〞への疑問

銃撃事件の捉え方について疑問を呈示したのは、元検察官の郷原信郎弁護士。「安倍元首相殺害事件は、『一つの刑事事件』として真相を見極めるべき」と題する7月9日のニュースレターで次のような指摘をしたのだ。

「今回の事件の発生直後から、『言論を暴力で封じ込める行為』『自由な民主主義体制を破壊する行為』などの言葉が使われていることには違和感を覚えます」「犯罪の動機が、選挙運動の妨害などの政治的目的であったとする根拠は、今のところありません。選挙期間中の街頭演説中の犯行だったことだけで、犯行の政治性や、選挙との関連性を決めつけた見方をすることは、逆に、選挙や政治に不当な影響を与えることになりかねません」。

そして郷原氏は、銃撃事件の動機・目的に関する山上容疑者の供述報道内容「(安倍元首相が)団体とつながりがあると思った」「母親が(この宗教団体の)信者で、多額の寄付をして破産したので、絶対に成敗しないといけないと思っていた」を引用したうえで、こう続けていた。

「そう(報道の通り)であるとすると、政治的目的はなく、個人的な恨みを動機とする犯行を行なうにあたって、それが可能だと考えた現場が、たまたま選挙演説の場だったことになります」。

さらに郷原氏は、安倍元首相と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)を結びつける「公開抗議文」を紹介。「2021年9月17日に、全国の弁護士300名からなる『全国霊感商法対策弁護士連絡会』が、特定の宗教団体について、信者の人権を抑圧し、霊感商法による金銭的搾取と家庭の破壊等の深刻な被害をもたらしてきた問題について、国会議員や地方議員が特定の宗教団体やそのフロント組織の集会・式典などに出席し祝辞を述べ、祝電を打つという行為が目立っており、宗教団体に、自分たちの活動が社会的に承認されており、問題のない団体であるという『お墨付き』として利用されているとして、安倍晋三衆院議員宛てに公開抗議文を送付していた」という事実に注目した。

全国霊感商法対策弁護士連絡会は7月12日に記者会見。この公開抗議文は安倍元首相に受け取りを拒まれたとも説明していた。念のために私が「抗議文に対して安倍元首相から回答はあったのか」と確認すると、「議員会館に出したものは受け取り拒否で、山口の安倍さんの事務所に行ったものは回答なし」との答えだった。

私はこの時、銃撃事件は「アベ友優遇政治が生んだ悲劇」との思いを強くした。

諸悪の根源は、家庭崩壊を招く霊感商法(高額献金による金銭的搾取)を野放しにし、祝電などでお墨付きを与えてきた政治家なのではないか。ちなみに、この公開抗議文は、安倍元首相が旧統一教会関連団体のイベントで挨拶した直後の昨年9月に送付されたもので、反社会的霊感商法の説明も加えていた。

もし安倍元首相がこの抗議を真摯に受け止め、霊感商法の実態把握や規制強化に動いていれば、銃撃事件は起きることはなかったのではないか。きつい表現かもしれないが、「自業自得」「因果応報」「身から出た錆」という言葉が浮かんでくるのである。

・旧統一教会関連集会を盛り上げた元安倍秘書官

自民党への選挙支援が、旧統一教会の霊感商法への規制の甘さと交換条件となっていた可能性もある。7月6日、旧統一教会の関連集会「神日本第一地区 責任者出発式」がさいたま市文化センターで開かれていた。3階席まである大ホールはほぼ満席状態で、しかも異様な熱気に包まれていた。

第1次安倍政権で首相秘書官を務めた井上義行候補(自民党全国比例)が、幹部から「井上先生はもうすでに食口(しっく。信徒)になりました」と紹介されると、参加者から大きな拍手と歓声が送られた。さらに幹部が「私は大好きになりました。必ず勝たなければいけない。勝ちこそが善であり、負けは悪でございます」などと訴えるごとに、会場中が沸いた。

続いて落選中だった井上候補が挨拶。「総理秘書官になって非難をされました」「国会議員になって安保法制を通して前回は落選運動を起こされました」と振り返った後、自分はオブラートに包んで話すことが苦手で「普通の政治家と違う」と強調。いまLGBT差別発言と批判されていることについて、次のように訴えたのだ。

「(『同性婚反対』と言ったことで)今、トレンド入りしました。そして私が演説しようとすると『差別するな』というプラカードを持って(抗議が)始まりましたよ。まるで安倍元総理のようになってきましたよ(笑)。でも、またさらに大炎上になるかもしれないけれど、私は同性婚反対を、信念を持って言っていますから!」。

そして、再び会場内は熱気で包まれたのである。井上候補を取材したのは、街宣でLGBT差別発言を繰り返していたためだが、この日はSNS上に日程が発表されていなかったため、事務所に問い合わせて集会の時間と場所を確認。現地に駆けつけると、旧統一教会関連の責任者(幹部)集会が催されていた。国政選挙で旧統一教会が自民党候補の強力な〝支援部隊〟になるに違いないことを確認できたのである。

集会後、同性婚反対を貫くと宣言した井上候補を直撃。「差別ではないか」と聞いたが、「あなた方がねじ曲げている」と反論、しかし具体的回答が返って来ることはなかった。

「秘書やスタッフを出してくれる有力支持団体」という話は以前から聞いていたが、今でも旧統一教会が自民党の集票マシーンの一つであることは確実だ。安倍元首相が先の公開抗議文を受け取り拒否したのは、選挙で支援してくれる友好団体(アベ友)だからではないか。「モリカケ桜」とも共通する「アベ友優遇政治」と重なり合うのだ。

安倍家3代にわたる関係もあった。母方の祖父の岸信介元首相と旧統一教会の文鮮明教祖(故人) とのツーショット写真を掲載した写真集も存在。先の弁護士連絡会の会見では、山口広弁護士がその写真集を広げた。

衝立を隔てて顔を出さない状態で質疑応答をした元信者は、こう語った。

「(旧ソ連の)ゴルバチョフや(北朝鮮の)金日成と会った文教祖の写真とか、見せられたことがあります。そして、やはり、『そういう大物政治家と通じているのだ、イコールやっぱりこの人(教祖)はすごいのだ。この人はメシアなのだ』という一つの動機付けにはなると思います」「(岸元首相ら日本の政治家についても)そういうものを見せられると、『やはりすごいのだ。メシアなのだ』という気持ちにさせられてしまうのがあると思います」。

お墨付きを与える役割を、岸元首相も果たしていたのだ。その孫である安倍元首相についても、こんな補足説明が会見でなされていった。

「(第2次)安倍政権になってから若手の政治家たちが統一教会のさまざまなイベントに平気で出席するようになった。それまでは政治家が参加しても伏せていた」。

「最近は若手の政治家が大手を振って参加してコメントをするようになった。なぜかというと、統一教会と近いということをわれわれさえも知るようになった」。

そして、霊感商法による高額献金問題への旧統一教会の姿勢は「事態を是正するのではなく、政界への働きかけが不十分だったとして、政治家との関係強化を進める」(司会の渡辺博弁護士)ことだったとも明かす。

霊感商法を放置する“アベ友教団政治”が続いていたことが、今回の銃撃事件を招いた可能性は十分にある。銃撃事件の真相解明とともに、旧統一教会への規制強化(カルト規制法制定など)が進むのかが注目される。

(月刊「紙の爆弾」2022年9月号より)

 

※ご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。

https://isfweb.org/2790-2/

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」の動画を作成しました!

1 2
横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ