第45回 身柄拘束を利用した自白調書は証拠能力なし
メディア批評&事件検証2020年6月1日、警察庁長官官房長名で懲戒無処分の指針の改正について(通達)が発せられている。たとえば、職務遂行上の行為として規律違反行為の態様、懲戒処分の種類、関連刑罰法令等が記されている。
その懲戒処分を今市事件捜査で見てみることをしてみよう。該当する懲戒処分があった。
たとえば、松沼刑事の勝又受刑者に対する暴行などは、規律違反行為の態様では、被疑者その他の者に対して暴行又は陵虐の行為をすること(重大なもの)に該当する。なぜなら怪我をして治療を受けている。懲戒処分の種類は、免職または停職。関連刑罰法令等は、刑法195条(特別公務員暴行陵虐)で7年以下の懲役又は禁錮。
被害女児の頭から押収された布製の粘着テープのDNA型鑑定結果である犯人とみられる女性のDNA型が検出されていたことを隠ぺいした件も、そのことを指示した県警幹部や鑑定人は処分されるはずである。
これは、規律違反行為の態様は、調書、被害届若しくは捜査報告書又は証拠物件を偽造・変造(重大なもの)に該当するとみられる。懲戒処分の種類は免職又は停職。関連刑罰法令等は刑法第104条(証拠隠滅等)で3年以下の懲役又は30万円の以下の罰金。
勝又受刑者が宇都宮地検で検事による取り調べを受けていた際、看守が同席していたことも違反行為である。そして、勝又受刑者が母にあてた手紙を書き換えさせたことも明らかに違法だ。これらの処分はどうなっているのか。これらの違法行為に対する県警本部の措置はどうなっているのか。国民が注視するほかない。
今市事件裁判の判決に対する批判は、木谷元裁判官だけじゃない。ロス疑惑事件の控訴審で訴因変更を行い証拠が不十分として被告を逆転無罪にし、「世紀のドリームチーム」と讃えられた門野博元裁判官、福崎伸一郎元裁判官らも判例時報に痛烈な批判を寄せるなどかつてない事が起きている。一層目が離せない。
連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)
https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/
(梶山天)
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独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。