ロバート・ケネディ・ジュニア著『“アメリカの国医”・アンソニー・ファウチの真相ービル・ゲイツ~大手製薬会社~民主主義と公衆衛生に対する地球規模の戦争』
映画・書籍の紹介・批評上記の書名は英文原書『The Real Anthony Fauci — Bill Gates, Big Pharma, and the Global War on Democracy and Public Health(November 16, 2021)』の仮の邦文タイトルであり、邦訳はまだない。“アメリカの国医 (America’s Doctor)” は、The New Yorker がファウチに送った名前である。
著者のロバート・F・ケネディ・ジュニアは、ケネディ元大統領の実弟で元司法長官・ロバート・ケネディ氏を父に持つ超著名人。ケネディ元大統領も著者の父親も悲劇の死を遂げたことは周知の通りだ。
彼は環境保護を手掛ける弁護士として活動する一方、子どもへの予防接種に懐疑的な主張を繰り広げているが、米メディアでは「反ワクチン運動家」として扱われ、英文Wikipediaでも、反ワクチンのプロパガンダと陰謀論を広めている人物として冒頭に紹介されている。さらに彼はケネディー家に連なる他の親族からも批判を受けているが、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏と彼の行動と主張に対する否定的見解は、大概、政府側または大手メディアの論調である。
本書の内容はどうか。ダストカバーのフラップに曰く:
「製薬会社に資金提供されたマスメディアが数百万人の米国人たちを、ドクター・ファウチが英雄であることを信じ込ませてきた。彼はまったく違う。・・・ファウチは資金力を思うがままに使って、病院・大学・定期刊行物そして、数千人に及ぶ医師と科学者たちに異常なまでの影響力を行使している。彼らの職歴と研究機関を潰し、発展させ、賞罰を与える権力をファウチは持っているのだ。・・・」
そして本書の序文の冒頭にジョン・アブラムソン博士(ハーバード大学医学大学院)の衝撃的コメントをのせる:
「まず初めに、“近代医学の研究の基本的な目的は、米国人の健康を最も効果的かつ効率的に改善することである”という幻想を捨てることである。私の見るところ、商業的に資金を提供された研究の基本的な目的は、健康ではなく、投資に対する財務収益を最大化することにある」。
そして著者ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏の本文が始まる。
「本書執筆の目的は米国人、そして世界の市民が2020年に始まった理解困難な混沌とした大激変の歴史的
根拠を理解する一助となることである。・・・」
本書はこの「大激変」の内容を公開情報を駆使して綿密に明らかにしてゆく。
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本書は全12章で構成され、序文(11ページ)に本書の概要が述べられ、各章は、章題・各章の内容の序論となる様々な啓発的な引用文・本文、そして詳細な注(典拠)からなる。
第12章(57ページ)の標題は細菌戦(GERM GAMES)であることから、本書が、現在のコロナ禍問題が医学上の問題を超えて、米国政治の深層に迫り、さらにこれからやってくるであろう世界の大変革(Great Reset)に迫る記述となっている。
各章が興味あるテーマを扱っているが、例えば第7章は、二重人格者を描いたスチーブンソンの小説、『ジキル博士とハイド氏(Dr. Jekyll and Mr. Hyde)』になぞらえた「ファウチ博士とハイド氏:国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の野蛮かつ不法な幼児に対する人体実験(Dr.Fauci and Mr.Hyde: NIAID’s Barbaric and Illegal Expriments on Children)」であり、背筋が寒くなるような内容だ。一体、人権と法治の国家を代表している米国は、どこにあるのか。
最終の第12章は3人の言葉の引用で始まる。
「ささやかな仮初めの安全を買うために必須の自由(liberty)を放棄するような人々は、自由も安全も受けるに
値しない」(ベンジャミン・フランクリン)。
「我々の多くは事態がいつ正常に戻るかをあれこれと考えている。簡単な答えは、絶対ない、だ。現在の危機以前に行き渡っていた “破断された” 意味の正常な状態に戻るものなどなにもない。その理由は、コロナウイルスのパンデミックは、我々の地球的軌道における根本的屈折点を示しているからだ」(クラウス・シュワブ)。
The Great Reset(July 2020)。シュワブのドイツ人らしい観念的表現の文章であるが、トランスヒューマニストと言われるシュワブは、周知の通り、世界経済フォーラム・ダボス会議の中心人物である。
そして最後は、WHOのテドロスの言葉。
「みなさんにズバリ率直に言いたい:予見できる未来において、これまでのような正常な状況に戻ることはないだろう」。
第12章では、オーウェル的世界の展開が予想されるような複雑な要素が編み上げられており、中国との関わりにも暗に触れている。
ダストカバーの裏面には著名な推薦者6名の簡潔な推薦文があるが、その一人による本書の簡潔な推薦文を紹介したい。
「嘘は一回言えば嘘にとどまるが、千回言えば真実となる、とゲッペルスは書いた。人類にとって悲劇的なことに、あまりに多い虚偽がファウチと彼の手先たちから滲み出てきている。ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、数十年に及ぶ虚偽を暴いている」(リュック・モンタニエ(ノーベル生理学・医学賞:2008))。
大方、長身の米政府の要人たちに混じって、小柄で温厚な語り口のファウチという人物・”アメリカの国医”の本質は一体なにか。
投資銀行家でジョージ・H.W.ブッシュ政権で要職についていたキャサリン・オースチン・フィッツ(Catherine Austin Fitts)は本書の書評を書いているが、彼女はファウチという人物を辛辣に批判をする。
「アンソニー・ファウチはハンナ・アーレントが言うところの “机上の殺人者”(“schreibtischtäter”,or “desk-killer”; 犯罪には直接関わらず犯罪の代理業務を組織的に計画する首謀者;ISF読書子・注)だ。
ベトナム戦争やシリア戦争の発端の真相が明らかになっている現在、コロナ禍問題についても、本当に大手メディアや米国政府の言い分が正当なのであろうか、冷静に、多角的に評価すべき時であろう。
武蔵野大学客員教授、東京仏教学院講師、光輪寺住職。