【連載】福島第一原発事故とは何であったのか(小出裕章)

第1回 原発事故の根本原因

小出裕章

・原発は巨大な危険を内包する機械

2016年5月27日、バラク・オバマ当時の米国大統領が被爆地・広島を訪問した。そして、黒人として初めて米国の大統領になった彼は語った「Seventy-one years ago, on a bright cloudless morning, death fell from the sky and the world was changed. 」。たしかに、よく晴れた1945年8月6日朝、広島の人たち、ほとんどが子どもや老人など非戦闘員が殺された。でも、彼らの死は空から降って来たのではない。原爆の殺戮効果を知るために米国が用意周到に広島の町を温存し、たくさんの非戦闘員が生きていた町に原爆を落としたのである。

約5か月前、1945年3月10日には、米国は空前絶後の東京大空襲を行った。そこでも非戦闘員の子どもと老人を中心に10万人が焼き殺された。その時に飛来したB29大型爆撃機は約340機であった。そして落とした爆弾の総量はTNT火薬換算で約1800トンであった。しかし、米国が広島に落とした1発の原爆の爆発力はTNT換算で1万6000トンであった。その時に核分裂したウランの重量は800gであった。たしかに世界は変わった。人類は圧倒的な破壊兵器を手にしてしまったのである。

広島原爆の材料は火薬ではなく、ウランであった。火薬が原子の結合力の差を利用することでエネルギーを作り出しているのに対して、ウランは原子の構成要素である原子核を分裂させることによってエネルギーを解放した。まさに桁違いのエネルギーを扱うことになり、世界は変わった。それを知った私は原爆を心から憎んだ。でも、原爆が示した巨大なエネルギーを、人類平和のために役立てたいと思うようになった。私は原子力発電に夢をかけ、原子力の場に脚を踏み入れた。しかし、私が夢をかけた原子力発電を行おうとすると、今日標準となった100万㌗の原子力発電所(以下、「原発」と記す)の場合、それを1年間運転するためには1トンのウランを核分裂させなければならない。広島原爆が核分裂させたウランの優に1000倍を超える(図1参照)。

核分裂させるウランの重量の比較

1基ずつの原発がこれほど大量にウランを必要とするなら、大方の誤解とは違って、ウランなど化石燃料が枯渇する前になくなってしまう。

でも、問題はさらに深刻である。何故なら、1トンのウランを核分裂させるということは、1トンの核分裂生成物、死の灰を生み出すことを意味する。原発とはそれが1年運転するごとに広島原爆1000発分を優に超える死の灰を生み出して、それを原子炉内にため込んでいく機械だった。

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小出裕章 小出裕章

1949年生まれで、京都大学原子炉実験所助教を2015年に定年退職。その後、信州松本市に移住。主著書は、『原発のウソ』(扶桑社新書)、『原発はいらない』『この国は原発事故から何を学んだのか』『原発ゼロ』(いずれも幻冬舎ルネッサンス新書)、『騙されたあなたにも責任がある』『脱原発の真実』(幻冬舎)、『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』(毎日新聞出版)、『原発事故は終わっていない』(毎日新聞出版)など多数。

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