【連載】福島第一原発事故とは何であったのか(小出裕章)

第1回 原発事故の根本原因

小出裕章

・願いは叶わない時がある

願いは、それが願いであるが故に、叶わないことがある。原発の大事故など、誰だって願わない。原子力を推進してきた人々だって、願っていなかった。でも、事故とは常に人智を超えて起きるからこそ、事故と呼ばれる。

100万㌗の原発の場合、炉心と呼ばれる場所には、約100トンのウランが存在している。そのウランが運転に伴って核分裂反応を起こし、エネルギーを放出するとともに、核分裂生成物(いわゆる死の灰)を生み出し、蓄積していく。その死の灰は、すでに記したように崩壊熱を発している。仮に何らかのトラブルが起き、ウランの核分裂反応を停止できたとしても、崩壊熱を冷やし続けることができなければ、炉心は熔けてしまう。

崩壊熱を冷やすためにはまず冷却材としての水が必要であるし、必要な量の冷却水が炉心に送られなければならない。それができなくなる事故を冷却材喪失事故(LOCA: Loss Of Coolant Accident)と呼び、原子炉が破局的事故に至る最大の要因と考えられてきた。LOCAに至る原因もさまざまである。配管が破れて水が流出してしまうこともあるだろう。

ポンプの不具合で冷却水が流れなくなれば、原子炉内の圧力が上がり、その圧を下げるために弁が開いて冷却水を意図的に放出するが、一度開いた弁が閉まらなければ、そのまま冷却水がなくなってしまう。

もちろん原子力を推進してきた人たちも、そうした事故が起きた場合の安全装置を考案していた。それが緊急炉心冷却装置(ECCS: Emergency Core Cooling System)であった。ECCSにも様々なものがあるが、基本的にはポンプと弁を使って炉心に水を送る装置である。でも、それらもみな人工的な機械である。機械は時に壊れる。そして神ではない人間の考えには、常に落とし穴がある。ポンプを動かすためには電気が必要である。

弁だって、それを開閉するためには電気がいる。しかし、例えば、地震が起きて原子炉が停止した場合には、自分で発電する力は失われている。その場合は、外部の送電線から電力を得る計画だった。それもできない場合には、所内にある非常用発電機が動いて、電気を供給する計画になっていた。それらすべてが失敗して電気が得られなければ、全所停電(ブラックアウト)になる。しかし、原子力を推進してきた人たちは30分以内にはブラックアウトから復帰できると考えた。そして30分以上もブラックアウトが続くような事故は考える必要がない、想定不適当だとして無視することにした。しかし、福島原発事故は、停電が何日間も続くことがあることを事実として示した。

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小出裕章 小出裕章

1949年生まれで、京都大学原子炉実験所助教を2015年に定年退職。その後、信州松本市に移住。主著書は、『原発のウソ』(扶桑社新書)、『原発はいらない』『この国は原発事故から何を学んだのか』『原発ゼロ』(いずれも幻冬舎ルネッサンス新書)、『騙されたあなたにも責任がある』『脱原発の真実』(幻冬舎)、『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』(毎日新聞出版)、『原発事故は終わっていない』(毎日新聞出版)など多数。

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