憲法・国会無視、NATO首脳会議で岸田首相「日本軍事化」約束

足立昌勝

・NATOの「新戦略概念」

前述の通り、NATO首脳会議は、新たな戦略概念を採択した。その概要は次の6点である。

(1)ロシアは同盟国の安全保障や欧州・大西洋地域の平和と安定に対する最大かつ直接の脅威。

(2)ロシアは強制や破壊活動、侵略、併合を通じて(周辺地域で)直接的支配を確立しようとしている。

(3)中国はわれわれの利益、安全保障、価値に挑み、法に基づく国際秩序を壊そうと努めている。中国とロシアの戦略的協力関係の深化はわれわれの価値と利益に反する。

(4)中国と建設的な関係を築くための扉は開かれている。われわれは中国が欧米の安全保障に突き付ける体制上の挑戦に対応し、同盟国の防衛と安全を保障するNATOの能力を確保すべく、責任を持って取り組む。

(5)インド太平洋地域の発展は欧州・大西洋地域の安全保障に直接影響を及ぼしうるため、NATOにとって重要。

(6)われわれは地域をまたぐ課題や安全保障上の共通の関心事に取り組むため、インド太平洋地域の新規および既存のパートナーとの対話や協力を強化する。

前回改定の2010年当時は、NATOはロシアをパートナーと位置づけたが、「(もはや)パートナーとは見なせない」と明言し、「最大かつ直接的な脅威」と定義した。そして、NATO加盟国の主権や領土の一体性に攻撃を加える可能性を「低く見積もってはならない」と述べている。中国については、「威圧的な政策」で欧米各国が重んじる民主主義の価値や安全保障に挑んでいるとの警戒感を示した。

さらに、ロシアと中国が戦略的な関係を深め、法の支配に基づく国際秩序を揺るがそうと協力しあっているとして、海上航行の自由の確保も含めて中国に立ち向かう決意を示した。そのうえで、インド太平洋地域で問題が起きると、欧州・北大西洋にも影響を及ぼしうるとし、日本を含むパートナー国との連携強化を打ち出した。

この新戦略概念に基づき、今後、NATOは活動することになる。先に述べたロシアと中国に対する封鎖・締め付けであるとともに、NATOによる北半球の軍事的支配を容認するものであり、異端を認めず、他者を排除する非常に危険な兆候を含んでいる。

もはや「北大西洋条約機構」ではなく、「北半球条約機構」で、北半球の支配者になったことを意味している。

このような時代が今後到来するとすれば、われわれはどのように対応すればよいのであろうか。

・インド太平洋地域へのNATO拡大

2014年5月6日、安倍晋三首相は、ベルギーのブリュッセルでアナス・フォー・ラスムセンNATO事務総長(ともに当時)と会談し、NATOと「国別パートナーシップ協力計画」を締結することに合意した。それは、2018年7月19日、2020年6月26日に改定され、現在に至っている。

この「協力計画」は、日本をNATOに接近させ、協力させるための第一歩であった。

「政治的文脈及び原則」では、このコミットメントは「国際協調主義に基づく『積極的平和主義』を具体化した日本の『国家安全保障戦略』やパートナーとの協力を通じた国際安全保障の促進に同盟国がコミットしたNATOの『2010年戦略概念』を含む日本とNATOのそれぞれの主要な政策文書の共通性に基づくものである」ことを確認し、「NATOはインド太平洋地域における日本の演習へのアセットの参加を検討し得る。NATO科学技術機構(STO)における日本との強い連携に基づき、新たな協力の可能性を探求する」ことを宣言、NATOのインド太平洋地域への拡大を容認した。

さらに日本は、欧州連合軍(EU)最高司令部及びNATO海上司令部への日本の連絡官の任命、NATOサイバー防衛協力センター、東アジア情勢の意見交換に関する会合への日本の専門家の派遣を含む協力を進展させることを約束していた。

このような流れのなかで、今年の首脳会議にあわせてNATOのアジア太平洋パートナーである日本・オーストラリア・ニュージーランド・韓国の4カ国が首脳会合を行なった。主催は岸田首相で、アンソニー・アルバニージー・オーストラリア連邦首相、ジャシンダ・アーダーン・ニュージーランド首相、尹錫悦韓国大統領が出席した。

4カ国の首脳は、インド太平洋地域から見たウクライナ情勢と国際社会への影響について認識の摺り合わせを行ない、岸田首相は、ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがす暴挙であり断じて許されない、力による一方的な現状変更は世界のどこであっても認められない等の旨を述べたとされる。

4カ国は、インド太平洋と欧州の安全保障は不可分であるとの認識に基づき、緊密に連携しつつ、各国の特性を活かしたうえでNATOのパートナーとして協力を進めていくことなどで認識を一致させた。また、インド太平洋地域の平和と安定のため、引き続き4カ国で緊密に意思疎通を図っていくことで合意したという。

・日本国憲法を根本から改悪する暴挙

すでに述べたように、NATO首脳会議への内閣総理大臣の出席は、まったく異例なことであり、その本旨をつかむことはできない。軍事同盟であるNATOの首脳会議に、国を代表する総理大臣が出席すること自体、看過できるものではない。新戦略概念の策定やインド太平洋地域への勢力拡大を容認した会議に出席し、それに同意すること自体、本来であれば、国民にその是非を問われなければならない。

さらに問題とすべきは、首相が国会を無視してどこまで発言することができるのか、ということである。岸田首相は今回、首脳会議で憲法九条にも絡む、かなり踏み込んだ発言をした。その限界はどこにあるのであろうか。

今回の、岸田首相のNATO首脳会議への出席とその発言は、日本国憲法の平和主義や第9条の精神に、とうてい合致しているとは思えない。

しかし、日本国内のメディアにこうしたことへの問題意識はほとんど見られない。7月1日付の朝日新聞の「NATOと日本『安定』に資する連携を」と題する社説も、次のように、軍事同盟への協力を意義のあることと認めてこう書いた。

〈ユーラシア大陸の西では、ロシアによるウクライナ侵略が続く。東では、経済力と軍事力を蓄えた中国が、強引な海洋進出や台湾への威嚇などで、既存の国際秩序に挑む。こうしたなか、日本が日米同盟に加え、欧州諸国とも安全保障面の連携を深めることには意義がある。ただ、中国に対抗する姿勢ばかりが前面に出れば、かえって緊張を高める結果になりかねない。対話の努力を同時に進めねばならない〉。

それでも、同社説は最後に〈ただ、NATOは加盟国の集団防衛を最大の任務とする軍事同盟である。具体的な協力策を定めるにあたっては、日本の安全保障政策の原則から逸脱することのないよう、注意が必要だ〉〈『主権の尊重』を軸とする『法の支配』を共通項に協力を広げ、地域の平和と安定に貢献することが日本の役割だ〉と締めている。この部分だけを主張し、憲法の平和主義のもとでの非軍事化の姿勢を鮮明にした社説であれば、多くの同意が得られたことだろう。

A news headline that says “Siege Net” in Japanese.

 

(月刊「紙の爆弾」2022年9月号より)

 

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足立昌勝 足立昌勝

「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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