春の歌
編集局便り出会いと別れの春。この季節になると、知らずしらずのうちに口づさんでいる歌がある。「ショッピングモールの歌姫」と呼ばれるシンガー・ソングライターの半崎美子さん(41)の「明日へ向かう人」。初めて耳にした時、なぜか、温かく励まされているような歌詞とメロディーの美しさが心に響いた。どうして涙が出るんだろう。素朴な疑問に答えるようにこの歌の誕生には、ドラマがあった。
栃木県鹿沼市で2011年4月、登校中の小学生の列にてんかんの発作を起こした男性運転手のクレーン車が突っ込み、児童6人が亡くなった。事故から8年目の19年に犠牲となった伊原大芽(いはらたいが・当時9歳)君の両親を訪ねた。サッカー少年だった息子の写真があちこちに貼られ、「最高の笑顔」が家中にあふれていた。
事故を起こした運転手は、持病で何度も事故を起こし、医師から注意を受けていたことがわかり、両親らは事故直後から生きる意味さえ失い、家にこもってしまった。そんな家族に14年1月、転機が訪れる。大芽君より2歳年上で、事故時に難を逃れた長女の芽衣香(めいか)さんが母親の加奈子(かなこ)さんを宇都宮市のショッピングモールに誘いだした。偶然にもそこのイベント会場で歌っていたのが半崎さんだった。癒されるような半崎さんの歌声に感動し、事故のこと、つらい日々のことを記した手紙を送った。しばらくして半崎さんから温かい返事が届いた。翌年の5月、加奈子さんは半崎さんが再びモールに来ることを知り、芽衣香さんと一緒に駆けつけた。
すると、ステージの半崎さんが「1年半前にここで出会ったお母さんから手紙をいただき、それがきっかけでこの曲を作りました」と歌いだした。
ボクも2、3年前、職場の仲間のお父様の訃報に接し、とっさにメールで送ったのはこの歌のフレーズだ。
遠い空に光る細 先を急ぐあなたを照らせ
立ち向かうその背中を優しく讃えるように
前を向くそれだけで辛いことが時にはある
それでも進むことを諦めないで 諦めないで
独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。