「台湾政策法」は米中の次の爆弾―台湾を同盟国化し外交待遇を付与―(下)

岡田充

このほか、「2022年台湾政策法案」の注目すべき条項を列記する。

●中国の情報戦への対応策として、台湾の民間と公共部門が、中国による偽情報、サイバー攻撃、プロパガンダに対応する能力構築と、台湾と志を同じくする国とのデータと実践を共有するのを支援(301条)

●台湾を支持する国家に対する中国の経済的強制に対抗する戦略を立案(302条)

●台湾の国際機関参入の具体策として、米州開発銀行(IADB)への参加を促し、台湾のラテンアメリカ・カリブ海諸国経済の発展への継続的貢献を促進(402条)

●中国の国連における合法的権利を回復した1971年10月25日の「アルバニア決議」の明確化(405条)

●台湾との自由貿易協定(貿易投資枠組み協定)の調印と、インド太平洋経済枠組みへの編入(502条)

●台湾、新疆ウイグル自治区、チベットに関連する権力操作と検閲に対抗(703条)

●台湾に敵対行動をとる中国の金融機関への制裁発動(804条)

そして最後に登場する901条は、これらの規定が「台湾との外交関係の回復や、台湾の国際的地位に関する米国政府の立場の変更と解釈されないよう再確認する」などと締めくくっている。しかしこれまで検討してきた条文をみれば、この文言がいかに空々しい強弁なのか分かるだろう。

2022年9月からの議会での法案修正の最大のポイントは、①台湾の同盟国化、②台湾代表機関の名称変更と外交待遇の付与の2点である。名称変更については、台湾の蔡英文総統が2021年3月にバイデン政権に求めていた。

英『フィナンシャル・タイムズ』紙も21年9月11日付(電子版)で、バイデン・習近平電話会談(21年9月10日)の直後、バイデン政権が改名を検討と報じた(注2)。しかしバイデン大統領はそれまで判断を停止していたので、懸案事項になっている。

緊張をはらむ新たなレッドライン

一方、バルト3国のリトアニアが「台湾代表処」の名称を使用したことに中国側が抗議し、外交関係を格下げして経済制裁を課す外交問題に発展した。米政府が名称変更にゴーサインを出せば、その影響は日本を含め世界に広がりかねない。

この「2022年台湾政策法案」がもし成立した場合、中国はどんな対応に出るだろうか。『人民日報』系の『環球時報』は2021年9月12日付(電子版)で、米政権が改名に踏み切った場合の中国側の対応として「駐米大使召還は最低限の対応」とした上、武力行使を法的に認める条件を定めた「反国家分裂法」(2005年施行)の「レッドラインを越えた」と認定し、「必要な経済・軍事措置を講じる」と警告している(注3)。

Concept TAIWAN-AMERICAN RELATIONS
For the Inspector. When I created this photo, I used the public domain map
http://www.freemapviewer.com/en/map/Map-China_60.html

 

具体的には、台湾への経済封鎖と空軍機の台湾本島上空の飛行を挙げた。8月のペロシ訪台に対する「大軍事演習」を超える規模と内容になるのは確実で、台湾海峡は「武力行使」寸前の状況に陥るだろう。

バイデン政権で、アジア政策を統括する国家安全保障会議インド太平洋調整官兼大統領副補佐官のカート・キャンベル氏は8月12日、ホワイトハウスでオンライン記者会見し、バイデン政権の「一つの中国」政策に変更はないことを改めて確認した(注4)。

キャンベル氏は、7月28日の米中電話首脳協議でも、対面会談の可能性を探ることで合意したと明らかにした。米中共に衝突を回避し、対話を継続する必要性を認識していることが分かる。

だが、地政学的リスク分析を専門とするコンサルティング会社・ユーラシアグループの社長で、米中関係に詳しいイアン・ブレマー氏は『日本経済新聞』の8月24日付(電子版)の「ペロシ氏訪台が示した新常態」と題した記事で、「米国の台湾政策は表向きには『一つの中国』しかないが、裏では中国政府が武力行使によって『一つの中国』を実現するのを阻止するため、軍事的関与の可能性を残している」と報じた。

さらに「台湾について新たなレッドライン(越えてはならない一線)を引く公算も大きくなった。このレッドラインを試そうとする米政府高官がいずれ現れるだろう」と、不気味な予言をしている(注5)。

米国にとっては当面、「2022年台湾政策法案」こそ、レッドラインを踏むことにとなる。

(注)米国上院外交委員会は9月15日、「2022年台湾政策法案」を17対5で可決した。法案が議会で可決された場合、バイデン大統領が署名するかどうかは現段階で不明とされる。(編集部)

(注1)「U.S. Troops Have Been Deployed in Taiwan for at Least a Year」(URL:https://www.wsj.com/articles/u-s-troops-have-been-deployed-in-taiwan-for-at-least-a-year-11633614043).

(注2)「Washington risks Beijing ire over proposal to rename Taiwan’s US」(URL:https://www.ft.com/content/07810ece-b35b-47e7-a6d2-c876b7b40444).岡田著、『東洋経済』オンライン「『台湾』への改名でジレンマに陥るバイデン政権」(URL:https://toyokeizai.net/articles/-/457258)参照。

(注3)「社评:美台敢“改名”,一定让他们付出沉重代价」(URL:https://opinion.huanqiu.com/article/44k3twGoFQh)。

(注4)The White House 「On-the-Record Press Call by Kurt Campbell, Deputy Assistant to the President and Coordinator for the Indo-Pacific」(URL:https://www.whitehouse.gov/briefing-room/press-briefings/2022/08/12/on-the-record-press-call-by-kurt-campbell-deputy-assistant-to-the-president-and-coordinator-for-the-indo-pacific/).

(注5)日本経済新聞(2022年8月24日)「ペロシ氏訪台が示した新常態 イアン・ブレマー氏、米ユーラシア・グループ社長」(URL:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD1525U0V10C22A8000000/

 

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岡田充 岡田充

共同通信客員論説委員。1972年共同通信社入社、香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員などを経て、拓殖大客員教授、桜美林大非常勤講師などを歴任。専門は東アジア国際政治。著書に「中国と台湾 対立と共存の両岸関係」「尖閣諸島問題 領土ナショナリズムの魔力」「米中冷戦の落とし穴」など。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/index.html を連載中。

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