【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第47回 粘着テープの誤算

梶山天

科捜研の実態に精通する藤田元教授にこの由々しき事態はどうして起きたのか、率直に聞いた。

藤田元教授:「1、捜査側が初めから勝又受刑者が犯人だと見立てて、犯人ありきであったけれども、その勝又受刑者のDNA型が検出されなかった。しかし、捜査側の都合のいいことに科捜研鑑定人のDNA型が検出されたものが混じっていたことにより、鑑定時の汚染(コンタミネーション)を理由として、鑑定資料としての価値がないと排除した可能性がある。

2、その理由により、当該のエレクトロフェログラム(解析データ)は精査されず、結果として汚染とそれ以外のピークの型番号と高さなども比較検討しなかったことにより、女性由来の型が明らかに混じっているとしなければ、説明できない事実を見落とした可能性がある。

3、鑑定資料としての価値がないと排除した捜査側の意向が、鑑定人に伝わったかどうかは不明であるが、捜査側の方針を鑑定人が読み取り、あるいは気づき、鑑定データの分析を積極的に意見を具申しなかったかもしれない。これが科捜研が捜査機関の一部になっていることの欠陥である。

栃木県警がこの鑑定は重要だと認識していたことは、科捜研の鑑定後に神奈川歯科大学大学院の山田良広教授に嘱託していることでもわかる。ならば、資料はことのほか、大事に扱うはずなのに、汚染には細心の注意を払うように教育されている、当の鑑定人がなぜ汚染などさせてしまったのか。

資料の汚染は実は鑑定隠しのためのカモフラージュで、汚染の解釈は自作自演なのではないか、とも勘ぐりたくなる。どうしても勝又受刑者のDNA型を出したかったのに出せなかったことによる苦肉の作ではないかと言わざるを得ない」。

この事件で物的証拠が全くないということはあり得なかった。粘着テープは、警察官による検視、そして本田元教授による解剖でもテープが剥がされた跡が残っており、鼻付近から頭までぐるぐる巻きにされていた事は明らかである。

被害女児の鼻などを塞いでいたとされる粘着テープの痕

 

犯人が街灯一つない暗闇の山林で、遺体を捨てる際に剥がし損ねたことは間違いない。だとすると、殺害者が複数犯であっても単独犯であっても、必ず被害者の型に混じって犯人のDNA型は検出されるはずである。

DNAは個人特有のもので、一卵性双生児以外に同一のDNAを持つ人間はいない。子供には父親と母親のDNA型が半分ずつ受け継ぐが、その組み合わせは多数存在する。親子ではDNAの配列は全く同一ではないが、必ず半分は共有する。

DNAは嘘をつかない。嘘をつくのは、そのDNA型を鑑定する人間なのだ。警察や検察には犯人は逮捕されている被疑者に違いない、という先入観を捨て去り、鑑定結果を客観的に見てもらいたいものだ。

 

連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/

(梶山天)

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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