改めて検証するウクライナ問題の本質:XVI NATOの秘密作戦Stay-behind の影(その4)
国際ウクライナの「民主革命」というフェイクニュース
いずれにせよ、パイアット米国大使がパルビィ氏と会ったのは、おそらくありもしない「好意を失う」などという「心配」からではあるまい。
パイアット米国大使との電話の盗聴で暴露されたヴィクトリア・ヌーランド国務次官補(当時)によるあの「Fuck the EU!」という罵声は、あくまで表向き政治解決に重点を置いていた独仏の思惑に向けられていたように、米国はヤヌコビッチ政権の打倒を目指していた。
そのためには混乱は望むところで、米国が「銃器」の行方を「心配」せねばならなかった必然性は薄い。会談の時刻は不明だが、おそらく締結が近づいていた政治休戦の協定を無効に持ち込み、あくまでヤヌコビッチ大統領(当時)を追い落とす最後の詰めについて密談していた可能性が高い。
だからこそパルビィ氏は人目を避ける格好で出向いたのであって、こうした関係は銃撃事件の背後に何が存在するのかを暗示している。
実際、前述のヤキメンコ元SBU長官はパルビィ氏について「米国の諜報機関の関係者からの影響を強く受けたグループの一人」と断言しながら、「パルビィ氏らこのグループは、指導者である米国から言われたことをすべて実行する勢力だった」(注6)と述べている。
ちなみに、『ニューヨーク・タイムズ』のこの記事を執筆した1人であるアンドリュー・ヒギンズ氏は、あのジュディス・ミラー氏と組んで2003年のイラク戦争前における「フセイン政権の大量破壊兵器疑惑」という一連の「プロパガンダ」記事を仕組んだ「記者」だ。
「影のCIA」と呼ばれる米国のインテリジェンス企業・ストラトフォーを率いていたジョージ・フリードマン氏は、ロシア紙『コメルサント』の2014年12月19日付のインタビューで、ヤヌコビッチ大統領(当時)の追い落としは「歴史上最も露骨極まるクーデターだった」(注7)と述べたが、『ニューヨーク・タイムズ』を始め『ワシントン・ポスト』といった主要メディアは、イラク戦争時の「大量破壊兵器」と同様、クーデターではなく勝手にヤヌコビッチ大統領が自壊したという「ウクライナの民主革命」を強弁するフェイクニュースを流し続けている。
そもそもパルビィ氏が何者なのかについて一切触れず(あるいは触れることができず)、銃撃事件の真相もスルーして「ロシアのプロパガンダ」も何もないだろうが、「武装暴動」の闇の深さは、ヤキメンコ元SBU長官が指摘した「狙撃手」を追っていくと実感する。
「味方が味方を撃った」という構図である限り、現場で警官との乱闘騒ぎを繰り広げている極右・ネオナチを中心としたメンバーが知らない「狙撃手」が組織されたはずだが、現在まで特に警官隊を射殺した実行犯の素性を明るみに出した例は、著者が知る限り無いに等しい。だが「狙撃手」の情報はいくつか残されており、クーデターの背後にいた勢力を暗示している。
狙撃手に外国の傭兵がいた
ヤキメンコ元SBU長官によれば、「旧ユーゴスラビアの連中という情報があり、外国の傭兵という情報もあった」(注8)という。また、前項で触れたヤヌコビッチ政権のミコラ・アザロフ首相も「(2017年2月21日に)自身のFacebookで、証拠写真を含む詳細な投稿で爆弾発言をした。
『今日、我々とキエフの捜査官は、マイダンでの殺人がフランスとドイツの指導者のもと、ジョージアやバルト諸国、ポーランドからの狙撃手の特別グループによって実行されたという事実について信頼できる情報を持っている』と書いている」(注9)という。
アザロフ元首相のFacebookは現在閉鎖されており、また「こうした情報」を他で入手する方法はなく、その真偽のほどを確かめるのは困難だ。ただアザロフ元首相によれば、「10人からなるジョージア人グループが、(マイダン広場を見下ろす)建物に配置されていた」という。さらに「そのうちの3人の身元は、ウクライナ治安部隊が撮影した写真で確認され、ジョージア国籍であることが確定している」(注10)と証言している。
同じく、旧ヤヌコビッチ政権のヴィタリー・ザハルチェンコ内相も「挑発目的で呼ばれた外国人傭兵」の存在を認め、「バルト諸国と米国人、ベラルーシの過激派グループ、ポーランド人がいた」(注11)と指摘している。
さらにアンドリー・クリューイェフ元大統領府長官も2014年10月15日、クーデターでの銃撃について「ジョージアの別動隊がマイダンで狙撃兵を組織した。バルト三国からの狙撃兵もいた」と、「ウクライナで起きた出来事をクーデターと認めるよう求めたモスクワでの裁判」(注12)で証言している。
しかもクリューイェフ元大統領府長官の証言では、「『右派セクター』が、市民や警察隊を狙撃するジョージアのスナイパーを捕らえた」という。このスナイパーは尋問されて「ウラジミール・ダフナゼ」と名乗り、「小遣いを稼ぐためにキエフに来た」(注13)と認めたが、パルビィ氏の一派の有力幹部が連れ去ってしまったとされる
この裁判ではヤキメンコ元SBU長官も出廷しており、「クーデター開始前からSBUはウクライナとバルト三国、ジョージア、ポーランドで多くの過激派が訓練を受けているという情報に接していた。またジョージア、バルト三国、ポーランドの狙撃手や爆弾専門家がマイダンで活動し、フランスやドイツからも指導者が来ていた」と証言している(注14)。
ポーランドが暴動のためにネオナチを訓練
このうちポーランドについては、ヤキメンコ元SBU長官の証言を裏付けるような情報が存在する。
2014年4月18日に刊行された同国の反政府系とされている雑誌『Nie』は「国家の秘密、マイダンの秘密」と題した記事を掲載したが、それによるとポーランド外務省はヤヌコビッチ政権時代の2013年9月、「右派セクター」を始めとする「マイダンの戦闘員86人」を、ワルシャワ北部のレギオノヴォの警察訓練センターに招致。
「刺激性ガスに対する保護」や「バリケードの構築」、「射撃」、「建物への襲撃」などの25日間に及ぶ戦闘訓練を「ポーランド人の教官」が彼らに施したという。また、「ポーランドの愛国主義的団体とのミーティング」もセットされた。
「口実は、ワルシャワ工科大学とキエフの国立工科大学の協力関係の開始だったはずだ。だがウクライナ側が高卒で40代であったのは問題にならなかった。
外務省報道室は、この『学生交流』に関する質問に理由も告げず回答を拒否した。何十人ものネオ・ファシストをポーランドに呼んで、ウクライナの正当な政府を転覆させる方法を教えたのかどうか、明らかにしようとしないのだ」(注15)。
なお、「右派セクター」側も戦闘訓練についての回答を拒否。さらにポーランド西部ヴロツワフの第4軍用臨床病院には14年3月段階で、マイダンでの乱闘で負傷した「ウクライナ戦闘員」が多数入院し、「彼らの胴体や筋肉質な足には、ハーケンクロイツや剣、鷲など、紛れもない(ナチスの)意味を持つ刺青が誇らしげに彫られていた。ポーランド人医師は、嫌々ながら包帯で処置していた」とされる。
この報道だけでは、銃撃事件の中にポーランドの「狙撃手」が含まれていたかどうかは不明だが、東欧で最も米国に忠実で、ウクライナの戦争でNATO(北大西洋条約機構)のロジスティックの最大拠点となっているポーランドが、単独で14年2月のクーデターに関わっていたとは考えにくい。
おそらくこれまでの旧ヤヌコビッチ政権の元高官らの証言から、ポーランドのみならず他の諸国も加わった米国を中心とするNATOの軍事・諜報網が銃撃事件と何らかの形で関連していたと考えられる。
だとすれば、「味方が味方を撃つ」クーデターでの偽装作戦は、かつてNATOが展開した血なまぐさいStay-behind(あるいはGladio) が、冷戦期だけの悪夢ではないという可能性を示唆しているのかもしれない。
(この項続く)
(注1)March 13,2014「Mercenaries took part in Maidan violence – Ex-Ukraine security chief」(URL: https://www.rt.com/op-ed/mercenaries-at-maidan-ukraine-558/).
(注2)(注1)と同。
(注3)(注1)と同。
(注4)April 2022「Question Answered: Who Was Behind the 2014 Maidan Massacre?」(URL:http://www.internationalist.org/who-was-behind-2014-maidan-massacre-2204.html).
(注5)January 3,2015「Ukraine Leader Was Defeated Even Before He Was Ousted」(URL:https://www.nytimes.com/2015/01/04/world/europe/ukraine-leader-was-defeated-even-before-he-was-ousted.html?_r=0).
(注6) March 13,2014「Kiev snipers shooting from bldg controlled by Maidan forces – Ex-Ukraine security chief」(URL:https://www.rt.com/news/ukraine-snipers-security-chief-438/)
(注7)December 20,2014「Head Of Stratfor, ‘Private CIA’, Says Overthrow Of Yanukovych Was ‘The Most Blatant Coup In History」(URL:https://www.countercurrents.org/zuesse201214.htm)
(注8)(注4)と同。
(注9) February 22,2017「Azarov’s Bombshell: Ukrainian Ex-PM Reveals Who Was Behind Maidan Sniper Deaths」(URL: https://sputniknews.com/20170222/azarov-maidan-sniper-deaths-investigation-1050940444.html)
(注10)(注8)と同。
(注11) November 28,2017「Official Maidan Story Plagued With Inconsistencies and Omission of Foreign Mercenaries in Kiev」(URL:https://www.vesti.ru/article/1654499)
(注12)December 16.2016「Georgian, Baltics Citizens Involved in Maidan Deaths – Top Ukrainian Ex-Official」(URL: https://sputniknews.com/20161216/maidan-deaths-georgia-baltics-1048641563.html)
(注13)December 16.2016「Former Head of the Presidential Administration Named the Organizers of the Coup In Ukraine」(URL:https://www.stalkerzone.org/former-head-presidential-administration-named-organizers-coup-ukraine/)
(注14)(注13)と同。
(注15)「Tajemnica stanu tajemnica Majdanu」(URL:https://archive.ph/arSIW#selection-805.0-809.17)
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https://isfweb.org/recommended/page-4879/
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1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。