【特集】統一教会と国葬問題

旧統一教会はいかにして政治力を持ったのか、日米の「宗教右派」を分析する

青山みつお

・内閣改造でも政権支持率が急落

8月10日にスタートした第2次岸田改造内閣は、世界平和統一家庭連合(以下、統一教会)と閣僚との関係がさっそく明るみになり、さらに岸田文雄首相の後援会長まで統一教会との関与が“文春砲”で明らかとなって、支持率はさらなる低下を続けている。

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当初、岸田首相にとって安倍派の弱体化は、自民党内の勢力均衡の面で望ましいと思われたが、73人の政務三役(大臣・副大臣・政務官)のうち、4割に及ぶ31人が、統一教会と何らかの接点があったことを認めた。野党からは、岸田内閣は「統一教会隠ぺい内閣」だと非難されている。

岸田首相は改造内閣の人事について「当該団体との関係を点検し、その結果を踏まえて厳正に見直す」としてきたが、故・安倍晋三元首相に近い萩生田光一・杉田水脈・高市早苗といった、すでに統一教会との接点が取り沙汰された議員をあえて起用したのは、安倍派を敵にしたくない、安倍氏を支持する岩盤保守層を失いたくない、といった岸田首相の思惑からだった。

だが、岸田流バランス人事は、長らく見過ごされてきた統一教会と政治家との関わりに対する国民の怒りと失望の大きさを見誤っている。

安倍氏の国葬が9月27日に予定されているなか、茂木敏充自民党幹事長は、「野党の国葬反対は、国民の声や認識とズレている」と言う。だが、現実に国葬反対の世論は高まりつつあり、野党は世論を追い風に倒閣運動に発展させる勢いだ。

News headlines. It is written as “criticism” in Japanese.

 

岸田首相が「反日カルト」と決別したことを目に見える形で示さないと、黄金の3年どころか、政権維持すら覚束ない。

なぜ、信者数10万人未満ともいわれる統一教会が、ここまで政治に大きな影響力を持つようになってしまったのか。その理由を探り、安倍氏の横死によって明らかになった、カルト教団と政治との関係を、与野党問わずに超党派で、どう対処すべきかを考えたい。

・ブッシュ再選の原動力となった「宗教右派」

2006年に製作された『ジーザス・キャンプ~アメリカを動かすキリスト教原理主義~』は、キリスト教系の新宗教「キリスト教福音宣教会」が主催する子どものサマーキャンプを追ったドキュメンタリー映画だ。

そこで見られるのは、カルトそのもの光景だった。子どもたちに、聖書に書かれたことは全て真実だと説き、進化論を否定。音楽や踊りでトランス状態になった子どもたちが、妊娠中絶反対を叫び、同性愛(LGBT)は神に背くと罵倒し、大統領のジョージ・ブッシュに忠誠を誓う。

2001年の9・11同時多発テロ発生後に、ブッシュはテロとの戦いを宣言。10月のアフガニスタン侵攻に続き、2003年3月にはイラクにも侵攻した。だが、戦争は長期化。侵攻の口実だった大量破壊兵器は見つからなかった。

a postcard in the style of papercut in honor of the date of September 11. patriot day

 

それゆえ、2004年米大統領選挙でブッシュの再選はないと思われた。ところが、僅差で再選を果たす。その原動力が、『ジーザス・キャンプ』に描かれたキリスト教福音派やキリスト教右派と呼ばれる人々であり、その数はアメリカ人の4人に1人、実に8000万人を超えるとされる。

こうした宗教右派は、妊娠中絶、銃規制、同性愛婚等に反対する政治家に投票する。2008年の米大統領選挙で共和党のジョン・マケイン候補がバラク・オバマに敗れたのは、マケインが保守派の中では穏健派で、妊娠中絶に基本的には反対だが、レイプや母体に危険な場合には例外も認めるべきだ、といった柔軟な態度をとったために、宗教右派に支持されなかったからだといわれる。

結果として、保守派の候補者は、中絶・銃規制・同性婚に反対しないと選挙に勝てないのだと知らしめることとなった。

Close up church and American flag

 

逆に宗教右派を利用して支持を広げたのが、ドナルド・トランプ前大統領だ。トランプはどう贔屓目に見ても信仰心のある人物には見えないが、宗教右派の主張を取り込み、彼らの熱烈な支持を集めた。

トランプ支持層は、2020年の大統領選挙では不正が行なわれ、正当な大統領は、バイデンでなくトランプだと信じる。彼らは昨年1月、統一協会から分派したサンクチュアリ協会の文亨進氏も参加した、アメリカ連邦議会議事堂襲撃事件を起こすなど過激化しており、アメリカを分裂させかねないと見られている。

・日本より深刻なアメリカの宗教事情

アメリカは宗教国家といわれる。メイフラワー号に乗ったピルグリム・ファーザーズが、信仰の自由を求めて北米のニューイングランドに上陸したのが、アメリカ史の始まりであり、建国神話になっている。

このアメリカ人の敬虔な信仰心が、ついにはアメリカを支配して、アメリカのもう一つの国是である「自由」を失わせることになると、20世紀初頭に警鐘を鳴らした作家がいる。『ハックルベリー・フィン』などで知られる童話作家のマーク・トウェインだ。

Antique portrait of famous men: Mark Twain

 

トウェインが警戒したのは、当時のアメリカで燎原の火のごとく広がりを見せたクリスチャン・サイエンス運動だった。教祖のメリー・ベーカー・エディは、「汝の信仰、汝を癒せり」と聖書にある通り、信仰心さえあれば病気など存在しないと主張。精神療法を施して信者を集めた。

Antique portrait of famous people: Mary Baker Glover Eddy

 

トウェインの未完のSF小説『世界帝国エディパス秘史』は、世界帝国となった近未来のアメリカ合衆国が、エディを神と崇める宗教国家になっているという風刺作品だ。トウェインは、「彼らは、今のところ聖書と友好関係を装っているが、半世紀内に聖書を後方へと押しやり、自ら先頭へと踊り出て、世界を支配することになるだろう」と予告していた。

だが、トウェインの憂慮は杞憂に終わった。信仰心さえあれば、病気にもならないし、死ぬこともないと言っていた教祖のエディが死んだからだ。

ちなみに、改憲の先鋒役を務めるジャーナリストの櫻井よしこ氏は、クリスチャン・サイエンスの機関誌の記者だった。

アメリカにおける宗教右派の影響力は、日本よりさらに深刻だ。トランプが連邦最高裁判事の構成を保守派優位に替えた結果、最高裁は6月24日、1973年に中絶の権利を認めたこれまでの最高裁判決を破棄、人工中絶権の合憲性を否定する判決を下した。

A gavel rests on top of an open law book with the U.S. Supreme Court building in the background.

 

また、多発する銃乱射事件の対策として、連邦議会が6月23日に銃規制を強化する超党派の法案を可決した同じ日に、銃を持ち歩く権利を制限したニューヨーク州法に対して違憲判決を出した。立法府と司法の判断が、はっきりと分裂しているのだ。

アメリカにおける宗教右派運動は、冷戦期にはCIAが支援していた。この頃はニューライト運動として知られ、反共団体ジョン・バーチ協会等が有名である。

冷戦終結後にCIAのニューライト運動への支援は減っている。ところが、彼らは勝手に増殖をはじめ、大きな政治運動となった。こうした宗教右派の活動を支えたのが、実は統一教会だったとされる。

もともとキリスト教福音派は個人の信仰心を重視しており、まとまりはなかった。そこに、統一教会が彼らに組織作りを教え、資金を援助してきたというのだ。

元来、文鮮明をイエス・キリストと同じ神(真のお父様)とする統一教会の教義が、キリスト教徒のアメリカ人に受け入れられ難いことは明らかだったが、宗教右派を支援することで、彼らを通じて政治に影響力を及ぼすことが可能になったのだ。

11月に中間選挙、2年後の24年は大統領選挙がある。ここでも宗教右派の動向が選挙結果を左右しそうだ。トランプや、 マイク・ポンペオ元CIA長官の出馬もあるかもしれない。

もし、彼らが民主党候補を破り次の大統領になれば、日本の政界は統一教会を排除しづらくなりかねない。統一教会が、彼らの力を誇示するかのように世界各国の首脳クラスや宗教指導者を集めて式典を開催し、安倍氏晋三の追悼式を行ない、日本のメディア報道を宗教弾圧として非難するデモを実施する強気の姿勢を見せているのは、次のアメリカ大統領選挙の結果に期待していることも理由と思われる。

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青山みつお 青山みつお

海外メディア勤務を経て、フリーライターとして活躍中。

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