第4回 長崎被爆体験者に人権の光を!正当な処遇を!
核・原発問題・被爆体験者地域と訴訟
長崎被爆地域(下図の赤)は南方に約12km、東西北方向には4~7kmと歪んで指定されているのですが、被爆体験者の該当地域は半径12kmの円を描き、円内の下図の黄色い地域です。
現在の被爆者援護施策の実態は、①被爆者と②特例受診者(第1種または第2種健診受診者)に分かれていますが、被爆体験者は第2種健康診断受診者です。なお、第1種の地域は図中の青と緑の区域の住民です。
広島高裁判決は広範囲に放射能が分布されたのは「水平に広がる原子雲である」と水平原子雲の存在を黒い雨が放射能を帯びていた科学的証拠と認めましたが、長崎の半径12kmはこの水平原子雲の半径とほぼ一致するのです。マンハッタン調査団等の残留放射能の測定結果はこの水平に広がる原子雲なくしては説明が付かないのです。
・放射線被曝を精神の病とされること
特徴は「第一種」と異なり、被爆者健康手帳への切り替え制度はないことともう一つ、重大な「国家による偏見差別」があることです。
(医療費給付)について次のような規定です。
(長崎市HPより):「第二種健康診断受診者証をお持ちのかたは、被爆体験による精神的要因に基づく健康影響に関連する特定の精神疾患(これに合併する身体化症状や心身症を含む)が認められる場合、医療費の給付が受けられる制度の対象となります」。
・過酷な国家差別
第二種健診受診者の医療手当資格には「精神神経科あるいは心療内科の受診証明」が必要なのです。
これは「ハンセン氏病」に対する国差別が法制化されていたことと同様な、国による偏見差別の法制化です。被爆体験者は「国家が謝罪すべき不当な偏見を強制されてきた人々です。
・人道に反する取り扱い
さらに、第2種健康診断受診者(被爆体験者)の治療費支給対象となる疾病群からは「がん」が排除されているため(第1種健康診断受診者に対しては上記11種疾病が適用され明確にがんが含まれている)、被爆体験者にがんが発生すれば、その個人が今まで支給されてきた医療費支給が停止される、という極めて残酷な取り扱いを受けるのです。
・被爆体験者訴訟
被爆体験者訴訟は、2007年以来第1陣と2陣に別れ合計650人が被爆者認定を求めました。いずれも最高裁まで行き、ひどい敗訴を喫しています。広島の裁判所と長崎/福岡の裁判所の大きな差異があります。それは本来の法の趣旨に沿って人道的に「何が真実であるか」を探究する姿勢があるかどうかの違いです。
例えば、矢ヶ﨑は双方の裁判に関わり同じような意見を提出しているのですが、広島「黒い雨」控訴審判決(最終判決)では、私の主張にたいする国側の反論を「矢ヶ﨑意見は、一般的な機序として不合理な点のないものであり、相応の科学的根拠に基づく有力な仮説の一つと認めるのが相当である」と断じ、国の矢ヶ﨑批判を「失当」としました。
真理の探究がきちっとされている判決で,誇るべき司法の独立という背骨があります。これに対して、長崎被爆体験者訴訟では、第2陣の長崎高裁の判決文には「矢ヶ﨑は徹底した反ICRP派である」とレッテル張りがなされ、意見内容を検討せず封殺するものでした。
しかし、被爆体験者は不屈の精神を示し、今『2回目訴訟』を立ち上げています。
・広島黒い雨判決
2021年7月14日、広島高等裁判所 (西井和徒裁判長)は、原告ら全員について被爆者健康手帳の交付等を命じた広島地裁判決を維持しました。
判決は被爆者援護の人道的意味合いと科学性を強く持つ優れた判決でした。
(1)被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能 の影響を受けるような事情の下にあった者」の意義は, 「原爆の放射能により 健康被害が生ずる可能性がある事情の下に置かれていた者」と解するのが相当であり、ここでいう「可能性がある」という趣旨をより明確にして換言すれば、「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができない事情の下に置かれていた者」と解され、これに該当すると認められるためには、その者が特定の放射線の曝露態様の下にあったこと、そして当該曝露態様が「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができないものであったこと」を立証することで足りると解されると判示しました。
(2)さらに、「広島原爆の投下後の黒い雨に遭った」という曝露態様は、黒い雨 に放射性降下物が含まれていた可能性があったことから、黒い雨に直接打たれた者は無論のこと、たとえ黒い雨に打たれていなくても、空気中に滞留する放射性微粒子を吸引したり、地上に到達した放射性微粒子が混入した飲料水・井戸水を飲んだり、地上に到達した放射性微粒子が付着した野菜を摂取したりし て、放射性微粒子を体内に取り込むことで、内部被曝による健康被害を受ける可能性があるものであったから、「原爆の放射能により健康被害が生ずること を否定することができないものであったこと」が認められるとし、広島地裁判決で示された「黒い雨」による被爆類型に関する法解釈を更に強化する判決を言い渡しました。地裁判決は法的に認知されている11種の疾病に罹患していることを認定条件としましたが、その疾病罹患条項を否定したのです。
・しかし国は最終判決に従っていない:三権分立に反する指針を強行
判決後、厚労省が示した「指針」は広島高裁判決を無視しています。①地裁レベルの認定された11疾病の罹患要件に従うことと、②黒い雨に遭った者に限定するなどと、判決を無視し、新たな差別を導入しました。
三権分立という立憲民主主義を建前にする国として、司法判断に従わなければならないのにも拘わらず,それに従おうとしていないのです。
残念ながら、長崎県、市と厚労省の実務者協議では、「過去の裁判例との整合性などの課題を整理する」として広島地裁・高裁、長崎地裁・福岡高裁の判決の事実認定で用いられた書証についての分析をするといいます。
きちんと民主主義原則に襟を正そうとしていないのです。国は被爆体験者2回目訴訟に於いても上記同様な不当な見解を示しています。
・内部被曝隠ぺい
米軍の日本占領以来、原爆維持のための世論操作で放射性降下物による被曝/「内部被曝」を徹底的に隠ぺいし、拒否してきました(『知られざる核戦争』)。
「残留被曝は無いとしてきました。自由な原爆調査/研究を拒否し、プレスコードを引き、科学的にも情報的にも虚偽の世界を作ったのです。「被曝線量体系:DS86」第6章は内部被曝隠ぺいのために任務付けされた「後追い”証明“」でした。
用いられたデータは全て枕崎台風大洪水の後のデータです。
1943年出生、長野県松本育ち。祖国復帰運動に感銘を受け「教育研究の基盤整備で協力できるかもしれない」と琉球大学に職を求めた(1974年)。専門は物性物理学。連れ合いの沖本八重美は広島原爆の「胎内被爆者」であり、「一人一人が大切にされる社会」を目指して生涯奮闘したが、「NO MORE被爆者」が原点。沖本の生き様に共鳴し2003年以来「原爆症認定集団訴訟」支援等の放射線被曝分野の調査研究に当る。著書に「放射線被曝の隠蔽と科学」(緑風出版、2021)等。