それは「安倍ゴルフ」から始まった、米下院議長「横田入国」の国辱を是正せよ!
政治・下院議長までが「裏玄関」入国
米国のナンシー・ペロシ連邦下院議長が8月上旬、台湾・韓国・日本などを歴訪した。日本には4日夜に到着、翌日に岸田文雄首相との朝食会に出席した後、米国大使館で記者会見を開き、「中国が台湾を孤立化させることは許さない。米国と台湾の友好関係は強固だ」などと語った。
中国軍が4日、台湾周辺で軍事演習を行なうなか、NHKニュースなどは「中国 ペロシ議長の台湾訪問に猛反発 いったいなぜ?」などととぼけたが、“中国煽り”こそペロシ氏の目的であることは明らかだ。
問題は、わが国への“入国方法”である。ペロシ氏は首都・東京に存在する在日米軍横田基地から入国。小田原潔外務副大臣らが出迎えた。
当たり前のことだが、米国を除くいかなる国の要人も、日本には国際空港の羽田・成田などから、正規の手続きをとって入国する。しかし、米国だけは、横田基地という「裏玄関」から入ってくることが常態化している。そのことを政府に糺す議員はいない。
こうした米国要人の横田入国は、安倍晋三政権の時代、ドナルド・トランプ大統領から露骨になった。それまでも歴代大統領がアジア歴訪後に給油のために横田基地に立ち寄ることはあった。ところが平成29(2017)年11月に初来日したトランプ大統領は、到着した横田基地で演説を行なうと、そのまま埼玉県の「霞ヶ関カンツリー倶楽部」で首相とゴルフに興じた。
万歩譲ってこれを、安倍・トランプ政権の良好な関係のなかで、当時の安倍首相が許したと理解したとしよう。しかし両国の政権が代わっても、今年5月にジョー・バイデン大統領がやはり横田基地から入国。そして今回、大統領ですらない下院議長が、堂々と横田基地から入国したのである。米国からどのような申し入れがあり、日本側の誰がそれを許したのか、政府は明らかにすべきだ。
在日米軍基地は米国主権下にあり日本の法律が及ばない。そこからの入国がなし崩しに常態化したことは、日本が米国の属国だと世界に見せつけている。国辱以外の何ものでもないが、日本政府は嬉々として出迎えた。
さらに、横田基地には、いまだ終戦していない朝鮮戦争のために、朝鮮国連軍の後方司令部が現在も置かれている。朝鮮半島を含め、アジアで有事があった場合には、横田ほか全国の在日米軍基地から自衛隊とともに“日米一体”として乗り込み、戦うことを宣言するも同じことなのだ。
韓国では、もともと米国要人は在韓米軍基地(烏山・オサン)に到着するのが慣例になっている。しかし今回、同国政府はペロシ氏に対して出迎えなどせず、尹錫悦大統領は夏季休暇中だとして電話協議にとどめた。韓米同盟があろうとも、あえて米国にへりくだることはないという韓国人の矜持を示したものだろう。
しかし、日本の一部メディアは韓国の対応を「出迎えなし」「中国に気を遣っている」などと論じた。日本人にもはやプライドはないのか。
・横田空域の密約を暴け
横田基地について考えるとき、避けて通れないのが「横田空域」の問題である。国際線の増便を図る羽田空港は、米軍と交渉して同空域の一部を利用する予定だという。わが国の領空を通るのに、米国の許可を求めるのが異常とされないことこそ異常である。
対象空域は「横田基地周辺」とされるが、北は新潟県から長野・静岡・福島県まで一都九県にまたがり、高さ約3700~7000メートル。そこでは日本の航空法が適用されず、民間航空機はこの広大な空域を避けて飛行している。
同空域に日本の主権が及ばない、その法的根拠とは何か。
昭和43年、横田空域について国会で質問を受けた政府は「米軍が進入管制業務を事実行為として行なうことを日米間で定めている空域にすぎない」と答弁した。米国による占領の時代、日本の領空は米軍が管制していた。その後、日本側に管制業務を移管してきたが、横田空域だけは、米国は手放さなかった。そのことを「事実行為にすぎない」と説明したのである。
一方、朝まで生テレビで何回か討論したことのある日本共産党の穀田恵二衆院議員が令和元年、横田空域の法的根拠について、良い質問をしている。その際、河野太郎外相(当時)が、昭和50年に日米地位協定第25条に規定の、両国の高官で構成される「日米合同委員会」で合意したと明かした。
日米合同委員会の議事録は非公表とされており、それゆえに「密約製造マシン」と呼ばれているという。そのなかで、同年の合意について公表されている一部は、次のような内容だ。
〈日本政府は、米国政府が地位協定に基づきその使用を認められている飛行場及びその周辺において引き続き管制業務を認める〉。
この先に、横田空域を米軍の管制とする日米の“密約”が存在する。「米軍航空機の行動に関する情報の不公開について」(昭和50年4月30日付)という文書には、「航空交通管制に関する合意」も含まれていた。
この合意=密約の詳細は不明である。しかし外務官僚の裏マニュアルとされる『日米地位協定の考え方』によれば、
〈米軍による管制は、厳密な航空法の解釈としては航空法上の意味がないので、わが国民はこれに従う法的義務はないものと考えられる。すなわち、航空法第150条11項の管制指示違反に対する罰則の適用はない〉とある。
結局、横田空域に法的根拠はなく、ただ日米合同委員会によって米軍の支配を許しているということである。対米従属を脱し、日米地位協定を改定することでしか、この問題は解決しない。
・日本と世界を席巻する排除と同調圧力
凶弾に斃れた安倍氏の負の遺産として、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の問題やモリカケ桜が挙げられる。日本が米国の属国扱いであることを、もはや隠さなくなった米国要人の「横田入国常態化」もその一つだ。
この状況を変えなければならない。そのためには、日米合同委員会で何が話し合われているのか情報公開させる必要がある。そして、日米地位協定を対等なものに改定、せめてドイツ・イタリア並みにしなければならない。
もちろん沖縄をはじめ、在日米軍基地の問題は日本中にまたがっている。また密約は、横田空域に限らないだろう。日米合同委員会の議事開示がまず必要であり、空域問題では、首都・東京から手をつけるべきだと私は考えている。それは、沖縄に危険を押し付けてきたヤマトの責任ともいえる。
世界を見渡せば、米国軍需産業がさまざまな仕掛けを現在も続けている。西ではNATOの東方拡大挑発によってロシアを戦争に駆り立てた。東では「自由の領域」挑発できな臭さを生んでいる。まさにペロシ氏のアジア歴訪により台湾有事が煽られている。
アラブでは7月31日、アルカイーダ指導者の一人・アイマン・ザワヒリ氏が、アフガンのカブールで米軍の無人機攻撃によって殺害された。本来なら拘束して裁判にかけるのが筋だ。米国はIS含め、イスラム急進派の指導者を拘束せず暗殺している。これは、米国の歴史に刻まれた先住民族への殺害と同じで、無法傲慢主義である。
この国際情勢のなかで日本が自主独立・民族自決の立場を主張することは、安保利権マフィアとの対決を意味する。彼らの考えるシナリオは、日米一体の安保法制の下、集団自衛権を行使させ、日本を徹底利用することだ。
すでに日本の富は米製兵器の購入で吸い上げられ続けている。それら兵器は無用の長物であるどころか、メンテナンス費を含めてさらなるカネが米国に流出、軍産複合体の体制維持に利用されている。
しかし日本国内は、米国の意向に従い、似非保守勢力が策動を続けている。旧統一教会や勝共連合も、その背後を支えてきたひとつだった。日本に自主防衛は必要でも、敵地攻撃能力など必要ない。アジア近隣諸国との交流を前提とした自主外交を展開していくことが真の安全保障であることは、本誌でも元駐レバノン大使・天木直人氏との対談などで主張してきたとおりだ。
8月6日には、「台湾有事シュミュレーション」などといって、小野寺五典元防衛相らが、「2027年に中国軍が台湾を侵攻した場合を想定する」などという茶番を晒した。もし本当に有事を想定するなら、非公開のマニュアルを作るべきである。わざわざ公表するのは、中国に対する日本国民の危機意識を煽るのが狙いにほかならない。
一方、マスコミでは反ロシアのプロパガンダが垂れ流され続けている。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは8月4日、ウクライナ軍が学校や病院に陣地を設営し、民間人を危険な目に遭わせていると非難する報告書を公表した。キヤノングローバル戦略研究所の小手川大助研究主幹は、ウクライナ側に、欧米プロパガンダを広める140以上の戦争広告代理店の存在を指摘している。
8月4日には、ミハイル・ガルージン駐日ロシア大使が広島市を訪れ、被爆者に弔意を捧げた。その後、われわれ一水会と軍縮に関するシンポジウムを共催し、有識者・地方議員らと意見交換した。
広島市は6日の平和祈念式典に、核を唯一使用した米国を招きながら、使っていないロシアを排除した。同式典は平和の祈りの場であり、弔意に政争を持ち込むべきではなかった。
排除と同調圧力が、わが国をますます危機に追いやっている。「横田入国常態化」の国辱に向き合い、日米地位協定改定を目指すことこそ、対米従属の現況を打開する第一歩ではないか。
(月刊「紙の爆弾」2022年10月号より)
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民族派団体・一水会代表。月刊『レコンキスタ』発行人。慶應義塾大学法学部政治学科卒。「対米自立・戦後体制打破」を訴え、「国際的な公正、公平な法秩序は存在しない」と唱えている。著書に『対米自立』(花伝社)など。