目的は〝旧統一教会隠し〞だけではない、岸田内閣改造人事の真相

山田厚俊

・支持率急落を避けられなかった内閣改造

「してやったり」か、それとも「焦った果ての悪手」だったのか―。

8月10日、岸田文雄首相は第2次改造内閣を発足させた。岸田首相は「数十年に一度ともいわれる難局を突破するため、経験と実力に富んだ政権」と会見で胸を張り、「有事に対応する政策断行内閣」だと強調した。

 

岸田首相いわく「骨格を維持しながら」という松野博一官房長官・林芳正外相・鈴木俊一財務相・斉藤鉄夫国交相・山際大志郎経済再生担当相の5人を留任させたものの、全19閣僚のうち14ポストを入れ替えた大幅な改造人事。このうち、斉藤国交相については“公明党の指定席”であることから、実質的な「骨格」は4ポストといえるだろう。

 

しかし、参院選終了後から、内閣改造は9月あたまをメドに行なわれると見られていた。それが急転直下のお盆前に断行されたのである。
その理由を全国紙政治部記者が、こう解説する。

「参院選直前に起きた安倍晋三元首相銃撃事件以降、連日、旧統一教会と政治とのつながりが報じられた。とりわけ、旧統一教会は自民党と深くつながっていたことが日に日に明らかになっていった。その中で、閣僚の中にもつながりがある者が判明したため、早く旧統一教会問題から抜け出したい思いが官邸にはあった」。

7月8日、凶弾に倒れた安倍元首相。現行犯逮捕された山上徹也容疑者の犯行の動機となった旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合、以下、統一教会)は、「勝共連合」とともに自民党に食い込み、選挙戦で人手を送り込んでいた実態が明らかになった。また、支援を受けた議員は教会の集会で挨拶をするなど“広告塔”の役割を果たしていた。

第1次岸田内閣では、岸信夫防衛相・萩生田光一経産相・末松信介文科相・小林鷹之経済安全保障担当相・野田聖子地方創生担当相・山口壮環境相・二之湯智国家公安委員長の七人が教会との関与を明らかにしていた。

岸氏は選挙支援を受け、二之湯氏は関連団体のイベントの実行委員長を務めていた。萩生田氏と小林氏は関連団体のイベントで挨拶し、野田氏と山口氏は祝電を送ったことがあった。末松氏は、統一教会関係者が自身のパーティ券を購入していたことを明らかにした。

政治家と統一教会の蜜月ぶりが明るみになることで危機感を募らせた岸田首相は、この7閣僚を外した組閣を急いだのである。

しかし、改造後の8月16・17日に行なわれた世論調査(毎日新聞・社会調査研究センター)で内閣支持率は52%、不支持率は37%。ここから20・21日の調査では、支持率は16ポイントも急落して36%。不支持率は17ポイント上昇して54%を記録、他媒体の内閣支持率も軒並み下落している。

参院選で圧勝したにもかかわらず、降ってわいた危機に “統一教会払拭改造人事”を急ぐも失敗。タイミングを見誤ったというのが大筋の見立てだ。

ただし、これだけでは今回の内閣改造の全貌を捉えたことにはならない。“別の目的”があったという意見がささやかれているのだ。

・岸田首相をとりまく党内事情

以下、今回の内閣改造に至るまでの経緯を振り返ってみたい。

参院選前まで、自民党内で囁かれていたのは「小幅改造があり得る」というものだった。健康状態に不安を抱える岸氏は交代するにしても、改造は必要最小限に抑えるだろう、という見方だ。自民党関係者は語る。

「参院選で改選議席を維持できれば岸田内閣は安泰だというのが、永田町の一致した見方だった。しかし、岸田派(宏池会)は第4派閥で、党内の基盤が必ずしも強いわけではない。最大派閥の安倍派(清和会)をはじめ、各派閥の顔色をうかがいながら政権運営を強いられる立場。なので、早いタイミングで衆院を解散して総選挙に打って出ることが視野に入っていた」。

岸田首相はたしかに先の参院選後、国政選挙のない“黄金の3年”を手に入れた。しかし、それは砂上の楼閣の上に成り立っているとの指摘だ。とはいえ、年内の政治日程をみるとすでに国内外のスケジュールが入っており、来年4月には統一地方選が控えている。どのタイミングでやるかが焦点になっていた。

「年明けの通常国会の冒頭解散説がまことしやかに党内の一部で囁かれていた。ただし、そのためには、改造人事は小幅であることが肝要だと見られていた」(前出の自民党関係者)。

大幅な改造だと、衆院選後の改造人事が取りざたされるため、小幅に留めておいた方がいいという目論見である。ところが、時期を早め、大幅改造に踏み切ったのだ。

「8月5日に『改造は10日』との報道が出始め、マスコミ各社は慌てふためいた。岸田首相は、してやったりと思ったでしょう」(同前)。

改造人事は各派閥に配慮したもので、とりわけ注目したいのは、“ポスト岸田”の最有力候補とされる林外相を留任させ、統一教会とのつながりが深い萩生田氏を内閣から外す一方、党四役の一角である政調会長に就任させたことだ。

萩生田氏は安倍派に所属している。安倍派は、会長代理の下村博文元文科相と塩谷立元文科相の二人による“共同指導体制”になっているが、世代交代を促すかのような人事を行なったのである。

さらに、麻生派の次期リーダーと目される河野太郎元行政改革担当相をデジタル相・消費者担当相に任命した。一方で茂木派の領袖、茂木敏光幹事長は留任させたのである。

河野氏の起用は、ポスト岸田の一翼を担う人材として登用するとともに、派閥の領袖である麻生太郎副総理の力を減退させる目的も垣間見える。同時に、次期首相の座を虎視眈々と狙う茂木氏は、反旗を翻さないよう留任させた。

つまり、各派閥に配慮しながら世代交代を促し、麻生氏をはじめとした長老たちの力を削ぎ落す狙いが見えてくる。言い換えれば、岸田首相は、次のキングメーカーの座も狙う戦略に出たとの見方があるのだ。

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山田厚俊 山田厚俊

黒田ジャーナル、大谷昭宏事務所を経てフリー記者に。週刊誌をはじめ、ビジネス誌、月刊誌で執筆活動中。

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