目的は〝旧統一教会隠し〞だけではない、岸田内閣改造人事の真相
政治・〝他の案件〞隠し
ところが、あまりに急いだためか、綻びだらけの一面が露わになった。
改造内閣で起用された閣僚では、留任となった林外相と山際経済再生担当相のほか、寺田稔総務相・加藤勝信厚労相・葉梨康弘法相・高市早苗経済安全保障担当相・岡田直樹地方創生担当相の七人が統一教会に関与していたことが発覚した。
それだけではない。朝日新聞は8月15日付で、副大臣・政務官に至っては、任命された54人のうち、約4割にあたる23人が教会と接点を持っていたと報じた。要は、セキュリティチェックを何もせずに組閣したといわれても仕方がないような杜撰な組閣だったのである。
「かつての小泉純一郎内閣の場合、飯島勲首相秘書官が陣頭指揮を取り“身体検査”を徹底して行なっていた。しかし、今の官邸には飯島氏のようなノウハウを持った人材がいない。詰まるところ、単に当人に聞き取りするだけ。これでは何もしていないのと同じ」(前出の自民党関係者)。
岸田首相にしてみれば、前倒しの改造人事で手腕を示したとご満悦だったのも束の間、さらに事態を悪化させただけのように見える。
しかし、この改造の一番の目的は“統一教会関係者外し”ではないとの指摘が漏れ伝わってきた。自民党の元衆院議員は明かす。
「岸田首相は、教会を隠れ蓑にして、“他の案件”隠しをしたのです」。
他の案件―。それは内閣改造から一週間経った8月17日、表沙汰になった贈収賄事件だ。
東京五輪2020組織委員会で理事を務めていた元電通専務の高橋治之容疑者を、東京地検特捜部が受託収賄容疑で逮捕。また、紳士服量販店AOKIホールディングス前会長の青木拡憲容疑者ら3人を贈賄容疑で逮捕した。
東京五輪・パラリンピックの大会スポンサー選定などをめぐり、高橋容疑者がAOKI側に便宜を図った見返りに計5100万円の賄賂を受け取ったというもので、東京地検特捜部が巨大スポーツビジネスの闇に斬り込んでいったものだ。
先の元衆院議員は語る。
「特捜は、電通の社員200人以上に聞き取りを行ない、そのうち30人以上を再聴取したと聞いています。そうやってしっかり高橋・青木両容疑者らの周りを固め、今回の逮捕に至ったそうです。取り調べの中で、政治家の名前も出ている」。
現在はバッヂを外している元首相経験者をはじめ、現職衆院議員2人の名前が浮上しており、すでに検事総長から岸田首相には話が伝わっていると、この元議員は語った。足元がグラつくなか、統一教会を隠れ蓑にして早期に改造に着手し、国民の目から五輪スキャンダルを薄めさせようとした狙いがあるとの指摘である。
しかし、いずれ政治家への関与がつまびらかになることは間違いない。一方で、政治家には不逮捕特権がある。憲法第50条に記されているもので、〈国会議員は原則として国会の会期中は逮捕されない。会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない〉と規定されている。
とはいえ、「巨悪は眠らせない」を掲げる特捜部が、本腰を入れて捜査に臨んでいるのは間違いなく、手を緩めることはないだろう。秋の臨時国会までに最低一人でも“政治銘柄”に着手するだろうというのが大方の見方である。
・それでも余裕を見せる自民党
そこで急きょ浮上したのが「10月解散説」だった。今も自民党幹部職員や官公庁にネットワークを持つ元重要閣僚の政策秘書はこう解説する。
「統一教会問題で、閉会時でも開催できる委員会審査もままならない。これに五輪汚職が政治家に飛び火すれば、間違いなく臨時国会召集もままならない。国会を開いたところで、法案審議どころの騒ぎではなくなる。となれば、臨時国会招集日の冒頭解散も十分あり得る話だ」。
統一教会問題と五輪汚職のダブルパンチで、自民党が議席を減らすことは目に見えている。7月の参院選で、自民党は議席を伸ばし、衆参で自民党・公明党の与党に加え、日本維新の会、国民民主党の4党による改憲勢力は衆参で3分の2を超えている。
衆院では、自民党261、公明党32、日本維新の会41、国民民主党11で計345議席だ。衆院の総数は465で、3分の2ラインは310議席。過半数を維持しても、この3分の2を割り込めば責任問題に発展するだろうと前出の秘書は指摘する。
「解散しなければ、内閣支持率が急落していくことは明らか。解散しても地獄、解散しなくても地獄の状態で、岸田首相は難しい舵取りが求められる」。
これまで取材した自民党関係者がみな口を揃えて語るのが、「今の野党なら政権交代はない」というもの。
「このような事態になっても、現状の野党が相手なら大負けはしないだろう。自民党が単独で233議席を確保すればギリギリ過半数は維持できる。それと連立パートナーである公明党の32議席を合わせれば、なんとか政権の維持はできる。ただ負け幅によっては首相の責任問題に発展しかねない。ここが難しいところだ」(前出の政策秘書)。
参院選では、野党共闘がうまく機能せず、安倍元首相襲撃事件の影響もあり、立憲民主党や共産党は議席を減らした。保守勢力が優勢の状態なら、自民党が減らす票は日本維新の会や、参院選で初の議席を確保した参政党が躍進してくる可能性が高い。となれば、結局改憲勢力は安泰なのだ。
「詰まるところ、自民も立憲も国民民主も共産も、どこも“賞味期限切れ”なんだよ。今後は日本維新の会や参政党、れいわ新選組といった新しい政党がどんどん台頭してきて新しい政治を作るのではないか。寂しいけど、仕方ないことかもしれない」(同前)
統一教会や東京五輪利権と政治の闇に切り込むと同時に、野党の立て直しも急務ということだろう。
(月刊「紙の爆弾」2022年10月号より)
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黒田ジャーナル、大谷昭宏事務所を経てフリー記者に。週刊誌をはじめ、ビジネス誌、月刊誌で執筆活動中。