【連載】改めて検証するウクライナ問題の本質(成澤宗男)

改めて検証するウクライナ問題の本質:XVII NATOの秘密作戦Stay-behindの影(その5)

成澤宗男

「祖国」のメンバーが果たした役割

残ったアヴァコフ氏も「祖国」の国会議員で、クーデター後、暫定内務相になったが、やはり銃撃事件との関連で不明な点が多い。

内務相になったアヴァコフ氏。ネオナチ民兵主体の「アゾフ大隊」を、内務相傘下の国家親衛隊に組み込んだ責任者。

 

マイダンでの暴力行為で中心的役割を果たし、「右派セクター」の一部を構成していた「ホワイトモロット」という過激グループのリーダーだったミコラ・ドゥルスキー氏は、16年12月3日に放映されたロシアのテレビ局「Russia 1」のニュース番組に出演し、2月20日の事件について内幕を証言しているが、「銃撃による最初の殺人があり、警官と抗議者の両方が犠牲になった際、銃撃はパシンスキー氏とアヴァコフ氏によって命じられた」(注7)と述べている。

なお、クーデターで大統領職を追われたヤヌコビッチ氏も15年12月8日、ロシアのスプートニク通信のインタビュー記事で、銃撃事件に関し「慎重に痕跡を隠そうとした現在のウクライナ政府の高官の一部が、殺戮の背後にいると固く信じている」(注8)と述べながら、その「高官の一部」としてトルチノフ氏とパルビィ氏、パシンスキー氏の3人の実名を挙げている。

こうして見ると14年のクーデターでは、街頭における極右・ネオナチの暴力的活動のみならず、右派政党ながら欧米では極右・ネオナチには分類されていない「祖国」の主要人物も重要な役割を果たした。銃撃事件に加え、短期間で実行されたクーデター後の隠ぺい工作両方に関与していたのは想像に難くない。

パルビィ氏に代表される極右・ネオナチと政治的に隔たりがあるようなイメージの「祖国」は、クーデターで一心同体であったように思える。

だが繰り返すように、クーデター時の彼らの動きが未だ不明なのは、本来捜査の対象となるべき銃撃事件の実行犯が権力の座に就いたからだ。

これによって隠ぺい工作が可能となり、欧米諸国とその御用マスメディアがクーデターを「民主革命」などと言いくるめるフェイクニュースを流せた。

ウクライナを対ロシアの「駒」にしたい米国政府にとっても、「民主革命」という名目で軍事支援をとがめられることはない。

だからこそパルビィ氏のような「ネオナチ政党の創立者」で、「ウクライナの最も悪名の高い右翼過激主義者」(注9)のみならず50人近い死者が出た銃撃事件の第一容疑者でも、メディアに批判されもせず米国に入国し、有力政治家の歓待に浴せたのだ。

さらに、アザロフ氏もヤヌコビッチ氏も言及していないが、重要な「高官の一部」がまだいる。クーデター直後に、ウクライナ保安庁(SBU)の長官に二度目の就任を果たしたヴァレンティン・ナリヴァイチェンコ氏だ。

CIAのエージェントとされるSBU長官に二度就任したナリヴァイチェンコ氏。

 

外交官も経験したエリートだが、当時の所属は、既述したクーデター前のヤツェニク氏ら野党の「ビッグ3」の一人であるヴィタリ・クリチコ氏が率いていた「ウクライナ民主改革連合」(UDAR)だった。

19年に「祖国」に鞍替えしているが、以下はナリヴァイチェンコの前任だった既述のアレキサンドル・ヤキメンコ氏による評価だ。

「ナリヴァイチェンコ氏は、ワシントンのウクライナ大使館総領事として働いていた際、CIAからスカウトされた。SBUがウクライナ検察庁と共同で捜査したが、自分の部下がそれを裏付ける資料を入手した。ナリヴァイチェンコ氏は外交官を辞めた後も、米国諜報機関と接触を続けていた。特にナリヴァイチェンコ氏がSBUの長官だった2006年から2010年にかけての時期においてだ」(注10)。

戦前の血に濡れたナチス協力者の影

またヤキメンコは、この期間に「キエフのSBUの建物の1階フロアがCIAの職員の仕事用に提供された」(注11)のみならず、ナリヴァイチェンコ氏が「ウクライナ特殊部隊員とSBU職員の個人ファイルをCIAに提供していた」(注12)と証言している。

クーデター当時、ナリヴァイチェンコはUDARの国会議員で、そこでどのような役割を果たしたのかは不明だ。

しかしヤキメンコ氏が指摘するように、「ナリヴァイチェンコを始めとするウクライナの法執行機関の長とCIAのつながりは、米国諜報機関がウクライナで起きることに大きな影響力を及ぼしているということを裏付けている」(注13)以上、クーデターをめぐる深い闇は、実行犯の動きのみならず米国諜報機関の関与の実態なのかも知れない。

無論、今日までその具体的内容は不明だが、少なくとも米国がクーデターに何を期待していたかは推測可能だろう。それは、ナリヴァイチェンコの言動が参考になる。

2014年2月のクーデターに先行した04年11月から12月にかけての右派主導による「オレンジ革命」で、親米派かつNATO加盟論者のヴィクトル・ユシチェンコ氏が大統領になって以降、ナリヴァイチェンコが長官だったSBUは「第二次世界大戦中にナチスと協力したOUN‐UPAと、及びその指導者で、ナチスの諜報機関アプヴェーア(Abwehr)と共に行動したステファン・バンデラ氏とロマン・シュヘービッチ氏の復権に反対するウクライナ市民を、精力的に弾圧した。……(ナリヴァイチェンコが長官だった)当時のSBUはCIAの地方支部に変貌し、バンデラ氏のイデオロギーに反対するわずかな気配にも斧を振るった」(注14)とされる。

Kyiv, Ukraine – July 11, 2008: Unidentified people on Independence Square in the center of Kyiv, Ukraine. In 2004 the Orange Revolution took place on this square.

 

このOUNは、戦前のウルトラナショナリストが集まった「ウクライナ民族主義者組織」の略。その軍事組織がUPA、すなわち「ウクライナ蜂起軍」に他ならない。バンデラ氏とシュヘービッチ氏を指導者とするOUNは旧ソビエト連邦時代のウクライナに侵攻したナチスドイツと一時手を組み、約7万人とされるユダヤ人やポーランド人の「絶滅作戦」に手を染めた。

だがナリヴァイチェンコ氏は、「ユシチェンコの大統領時代、2006年から2010年の間にSBU長官として、OUN‐UPAとその指導者のバンデラ氏の名誉回復に、決定的な役割を果たした」(注15)とされる。つまりCIAとの接触を続けながら、同時にナチス協力者の名誉回復に尽力したのだ。

バンデラ氏はヤヌコビッチ政権時代に名誉回復が取り消されたが、クーデター後の14年に公的に「民族の英雄」として再度名誉回復された。現在もウクライナのネオナチにとっては最高の崇拝の対象で、その誕生日はナチス式の夜間の松明デモによって祝されている。

しかもナリヴァイチェンコ氏は、クーデター後にSBUのトップに再任された後、ウクライナのインターネットサイト「デイ」での15年4月1日のインタビューで、注目すべき発言をしている。

「(治安部門の改革について)SBUにとっては、余計なものを発明する必要はない。1930年代と1950年代のOUN‐UPAの治安部隊の仕事の伝統とアプローチを基礎とすることだ」(注16)。

この「伝統とアプローチ」が具体的に何を意味するか明らかではないが、OUN‐UPAが「戦間期にはイタリアのファシズムをモデル」にしており、「ナチスと密接に協力していただけではなく、ユダヤ人、ポーランド人に対するポグロム、ロシア人とウクライナ人の反ファシストパルチザンの大量殺戮に関与していた」(注17)のは歴史的事実だ。

であれば、「OUN‐UPAの治安部隊の仕事の伝統とアプローチ」の復権が、ナチスと過去の虐殺の正当化につながるのみならずナチスの時代を再現しかねない。

しかもこのように発言しているのは、第二次世界大戦で公式的には「ナチスドイツと戦った」ことになっている米国の諜報機関の「エージェント」と名指しされた人物なのだ。

ここにこそ、スティーブン・コーエン氏が指弾した米国によるウクライナの「新ファシズム」への「暗黙かつ公式な支援と許容」が示す欺瞞性がある。では、なぜ戦前のナチスドイツ協力者をルーツとするようなネオナチ主導の体制を米国が望んだのか。

(この項続く)

 

(注1)「America’s Collusion With Neo-Nazis  Neo-fascists play an important official or tolerated role in US-backed Ukraine」(URL:https://www.thenation.com/article/archive/americas-collusion-with-neo-nazis/).

(注2)2 mars 2014「Qui sont les nazis au sein du gouvernement ukrainien ?:par Thierry Meyssan」(URL:https://www.voltairenet.org/article182426.html).

(注3)May 20,2014「Who was Maidan snipers’ mastermind?」(URL:https://orientalreview.org/2014/05/29/who-was-maidan-snipers-mastermind/).

(注4)(注3)と同。

(注5)February 22,2017「Azarov’s Bombshell: Ukrainian Ex-PM Reveals Who Was Behind Maidan Sniper Deaths」(URL:https://sputniknews.com/20170222/azarov-maidan-sniper-deaths-investigation-1050940444.html).

(注6)December 16, 2016「Former chief of Yanukovich’s staff names three main masterminds of Maidan coup」(URL:https://tass.com/world/920043).

(注7)「Радикал обвинил Пашинского, Парубия и Авакова в провоцировании расстрела Майдана」(URL: https://vesti.ua/strana/213356-radikal-obvinil-pashinckoho-parubija-i-avakova-v-provotsirovanii-racctrela-majdana).

(注8)December 10,2015「Incumbent Ukraine Top Officials Behind Maidan Civilian Deaths – Yanukovych」(URL:https://sputniknews.com/20151210/yanukovych-maidan-officials-1031512598.html).

(注9)June23, 2017「John McCain and Paul Ryan hold ‘good meeting’ with veteran Ukrainian Nazi demagogue Andriy Parubiy」(URL:https://thegrayzone.com/2017/06/23/john-mccain-paul-ryan-meeting-ukrainian-nazi-andriy-parubiy/).

(注10)April 14 ,2014「The head of the SBU Nalyvaichenko was a CIA agent」(URL:https://en.topwar.ru/43842-glava-sbu-nalivaychenko-okazalsya-agentom-cru.html

(注11)(注9)と同。

(注12)March 13,2014「Head of Ukraine’s SBU provided Ukrainian special service officials’ personal files to CIA – Yakimenko」(URL:https://interfax.com/newsroom/top-stories/44522/

(注13)(注9)と同。

(注14)March 5,2014「The new head of ukrainian counter-intelligence works for the CIA」(URL: https://niqnaq.wordpress.com/2014/04/03/the-new-head-of-ukrainian-counter-intelligence-works-for-the-cia/

(注15)April 2, 2015「Ukrainian Security Service (SBU) to be re-organised on the model of nazi-collaborating OUN-UPA」(URL:https://ukraineantifascistsolidarity.wordpress.com/2015/04/02/ukrainian-security-service-sbu-to-be-re-organised-on-the-model-of-nazi-collaborating-oun-upa/

(注16)「СБУ проти ФСБ」(URL:https://day.kyiv.ua/uk/article/podrobyci/sbu-proty-fsb

(注17)(注15と同)。

 

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成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

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