【連載】フランス便り(ラップ聖子)

第3回 Laïcité (政教分離の原則)

ラップ 聖子

20年前リベラルな校風のカナダのヨーク大学のキャンパスで、当時隆盛であったカナダの多文化主義を肌で感じながら過ごした私には、このような主張は、強権的であり、また相互理解の姿勢に欠けているように思われてならないのである。

もちろん、ライシテや表現の自由といった概念には私も賛成だし、素晴らしいと思っている。しかし、「表現の自由」を教える風刺画に敢えてムハンマドの風刺画を教材に使わなくてはならなかったのだろうか。

「表現の自由」を教える為の教材なら、フランスの豊かな風刺画文化にゴマンと他にある。敢えて偶像崇拝を禁止しているムハンマドの風刺を教材に使う事も、見る見ないの選択肢を与えたとはいえ、教室において例え一時的であったとはしても生徒を分断せざるを得ない教材を使う必要が果たしてあったのだろうかと、やはり疑問が残るのだ。

もちろんフランスが多くのものを犠牲にして勝ち取ってきたライシテや表現の自由といった理念は、フランス人にとって誇りあるアイデンティティーであり、共和国を成す揺るぎ難い信念である。

フランスは多大な努力をして、ジュール・フェリー法(1882年)、ゴブレ法(1886年)、ライシテ法(1905年)と、国家と学校教育における宗教的中立性と世俗性、宗教の自由の保障を実現してきた。

それ故、ある意味では皮肉にも、フランス人のライシテそれ自体がある意味宗教的な正義となってはいやしないかと思うことがある。もしそうであるならば、フランスの不可分性は、とても危うく脆弱なものになってしまうだろう。

2022年7月8日、安倍晋三元首相が選挙演説中に銃撃されて暗殺された。フランス時間の早朝にこの一報を聞き、本当に衝撃を受けた。日本で選挙の応援演説中に、銃で元首相が撃たれる。

 

映像に出てきた手製のオモチャのような銃を見て、また衝撃を受けた。沢山の哀悼と献花をする人々とメディアの報道を見て、これから先のメディアと政治家のスクラムによって形成されるだろう、安易な世論の行末が見えるようで、衝撃と共に暗い気持ちになった。

しかし、そう簡単にはいかなかった。犯人の山上徹也容疑者は、政治犯でも何でもなく、自身の家族を崩壊に至らしめた旧統一教会と密接な関係にあった安倍元首相を、旧統一教会教祖に対する復讐の身代わりとして安倍元首相を狙った。

 

安倍元首相と旧統一教会の蜜月関係については、週刊誌やインターネットで目にしたことがあったので、正直それほど驚く事は無かったのだが、安倍元首相の死後、次々と明らかになった選挙協力や票の割振り等、旧統一教会が長期間において、政権与党の中にここまで入り込んでいた事には驚きの念を禁じ得ない。

それは国葬に反対した多くの国民に共通する思いであろう。安倍元首相とその支持者は、嫌韓・嫌中を叫び、政権批判するものを「反日スパイ」とレッテルを貼る事で正当な批判に耳を傾ける事なく誤魔化し続けてきた。

ところがその当事者たちが、実は外国の「反日」思想に基づいた宗教カルト集団とズブズブな関係にあった事は、正直陳腐な悲喜劇を見せられているようだと思う。

日本会議や国家神道に傾倒し、公明党と連立政権を組み、旧統一教会と親交を深める。これはあまりに節操が無いのではないか。「空虚な器」と評されてきた彼人らしさなのかもしれない。

私は特定の宗教の信仰を持たないせいか、あらゆる宗教をどこか悲喜劇的に見るところがあるのだが、日本のライシテはそれ以前の問題のような気がしている。「空虚な器」の彼人が残していった「空虚な国」に、今虚しさだけが漂っている。

 

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ラップ 聖子 ラップ 聖子

1982年、鹿児島出身。フランス在住。地元鹿児島とフランスを繋ぐ日本茶の輸入ビジネスを起業。日本茶販売とともにお茶と日本文化に関するワークショップを開催。一児の母。カナダ、オランダに留学経験があり、国際交流や語学が好きで、最近は母親になった事もありSDGsに関心を持っている。

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