【連載】人権破壊メカニズム“知られざる核戦争”(矢ヶ﨑克馬)

第5回 低空で水平に広がる円形原子雲 ―「黒い雨」雨域に放射能が運ばれたメカニズム―(上)

矢ヶ﨑克馬

第2章 黒い雨との関わり

(何故水平原子雲が重要か)

何故この雲の存在が大切かというと、「放射能を広域に運ぶことが出来る構造」を有するからである。きのこ雲と言われてきた大きな頭部と細い軸は非常にクリアで雲の外には雨を降らしていない。

爆心地の風上・横方向の15kmも離れた場所に放射能雨を降らせることは出来ない。高温気塊生成当初、放射能は原子雲内に全部留まっていたので、水平原子雲無しには雨や放射能が運べるはずがないのである。ましてや強力な「砂漠モデル」が風下以外の放射能汚染を否定する。

(水平円形原子雲は厚くなくとも雨を降らせる)

水平円形原子雲は放射能を持つ。放射線は電離を行い,電離は水分子を凝集させ水滴/雨滴を生ずる。放射能が供給される限り雨を降らせ続ける(「はじめに」の考察参照)。

(黒い雨の「黒」について)
(1) (放射性微粒子は黒い)原爆の爆弾そのものを構成したすべての個体は核分裂連鎖反応後、発生した強烈な熱のため、瞬時にして気体となった。

はじめ、原子を構成できない(原子核と電子が合体している原子状態を維持できずに、バラバラになっている)プラズマ状態が出現したが、断熱膨張する間に温度が下がり、原子が再構成され、ぶつかり合う原子が互いに結合しあうようになり、放射性微粒子が構成された。

最初は単体の時に高い融点を示すような元素の原子が結合しあい、次第に融点の低い元素の原子が結合されて微粒子が構成された。この微粒子の表面は原子が不規則に並び、光を反射しあるいは屈折させる状態にはなく、全ての光が吸収されてしまう。この状態を黒いと呼ぶ。

火球内物質は全て黒い微粒子群となった。「黒い雨」の黒さはこの火球内で発生された黒い微粒子群と火災による「すす」がもたらしたものである。

(2) (放射性微粒子と黒い雨)水平原子雲があり、また火災雲等が原子雲と相互作用する限り黒い雨は放射能を伴う。

(3) (水溶性と不溶性)さらに、黒い雨の黒い微粒子は水溶性のものと不溶性のものがあり、黒い雨はそれらの混合物である。放射線による電離は、放射性微粒子など電荷を保持し周囲に強く水滴を凝結させ、水に溶けないものでも水とよく混合する(懸濁)。

(水平原子雲の生成発展/移動と黒い雨雨域)
(1) (雨域:水平原子雲の移動、成長・発展と、局所的気象条件との相互作用)原子雲は自然風に運ばれながら、成長しやがて消滅する。火災で形成された雲と原子雲の重なり方混ざり方に加えて局所的な気象条件が加わり,降雨の場所や時間経過は複雑となったが、大瀧雨域などの黒い雨雨域の広さと移動が説明できるものである。

(2) (黒い雨環境は放射能環境)水平に広がる原子雲が黒い雨雨域を説明可能であることは,黒い雨が降った環境に居た者は黒い雨に打たれても打たれなくとも放射線被曝の影響を避けることは出来ない。

黒い雨に打たれる(雨に濡れる)と皮膚や衣服に放射性微粒子が付着し密着あるいは近接した場所から継続的に被ばくを与える(密着被曝・付着被曝)。

黒い雨の混じった水を飲むと内部被曝がもたらされる。

黒い雨の降雨中の空気には放射性微粒子が含まれており、呼吸による内部被曝がもたらされる。

放射性物質は光合成する葉などの表面には特に集中付着し吸収される(気孔からの二酸化炭素吸収により放射能蓄積)。黒い雨は土壌を汚染し、根から吸収され農作物を汚染する。農作物/植物には放射能が濃縮されるので、内部被曝は特に危険となる。

黒い雨降雨地域では、被曝後、脱毛、がんをはじめ各種の健康被害が多発することになった。

(中心軸は竜巻ではない)

主として米軍による大気圏内原爆実験の動画をあらかた観察し、形成される中心軸にはトーネイドあるいは竜巻のような渦はない事を確認した。また,広島長崎の測候所あるいは市民による記録では、局所的に竜巻が観測されたが、爆心地を中心とする大きな渦は生じていない。中心軸の形成は高温気塊の熱的動作で説明できる。

(測定問題:全体に対する部分,被測定体の現場保存ができていない)
(1) 放射能環境の強さを土壌放射能等の測定値で定量的に議論すると著しい過小評価を導く。全ての測定値は放射能環境の全量を語るものではなく放射能の多様な存在様式のひとつを測定するにすぎず、個別の測定値は全て部分的なものである。また初期の放射能環境が保存されてはいないので、測定値は放射能汚染の証拠であるが、定量的意味で議論してはならない。

(2) 例えば、原爆投下後3日目に収集した土壌サンプルであっても部分的であり放射能環境の全量を反映するものではない。その土壌に雨が降り、その雨に放射能が含まれたとしても、降った場所そのものから水として流れてしまえば、もはやその場所は降下した放射能全量を留めてはいない。定量的な価値があるものではない。

(3) これに対し、中性子誘導放射化物は物体深くに存在し現場保存がなされやすい。誘導放射化の測定値には定量的な意味がある。

 

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矢ヶ﨑克馬 矢ヶ﨑克馬

1943年出生、長野県松本育ち。祖国復帰運動に感銘を受け「教育研究の基盤整備で協力できるかもしれない」と琉球大学に職を求めた(1974年)。専門は物性物理学。連れ合いの沖本八重美は広島原爆の「胎内被爆者」であり、「一人一人が大切にされる社会」を目指して生涯奮闘したが、「NO MORE被爆者」が原点。沖本の生き様に共鳴し2003年以来「原爆症認定集団訴訟」支援等の放射線被曝分野の調査研究に当る。著書に「放射線被曝の隠蔽と科学」(緑風出版、2021)等。

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