【連載】改めて検証するウクライナ問題の本質(成澤宗男)

改めて検証するウクライナ問題の本質:Ⅱ 米国によるウクライナの全面支援表明

成澤宗男

「共同声明」から「憲章」へ

しかも「共同声明」の「Ⅰ.安全保障と防衛」では、「ウクライナのNATO加盟願望の尊重を含む、ウクライナの外部からの干渉を排した自国の将来の外交方針を決定する権利を支持する」と改めてロシア側の意向を度外視し、ウクライナのNATO加盟が同意されている。

NATO text and logo on a AWACS E-3 Sentry radar plane at it’s homebase Geilenkirchen airbase. 2017, July 2

 

さらに「14年以降の25億ドル」に加え、「ロシアの侵略に対するより効果的な自己防衛を可能にするため」という名目で、「追加のジャベリン対戦車ミサイルを含む新たな6000万ドルの安全保障支援パッケージ」も用意していると明記している。そしてこの「共同声明」は2カ月後、具体的措置として明文化された。

「ウクライナ国境のロシア軍の集結」が騒がれ始めた21年11月10日に、米国務省で国務長官のアントニー・ブリンケンとウクライナ外相のドミトロ・クレバが、「共同声明」を基にした「米・ウクライナ戦略的パートナーシップ憲章」(注3)に調印したのだ。

内容的には「共同声明」の「Ⅰ.安全保障と防衛」を大幅に拡充し、ウクライナの「領土的一体性」をさらに強調。同時に、次のようにロシアとの対決色を格段にエスカレートさせている。

「米国とウクライナは……、クリミアの奪取と併合の試みや、ウクライナのドネツク及びルハンスク地域の一部におけるロシア主導の武力紛争、さらに継続する悪意ある行動を含めて、侵略と国際法違反の責任をロシアに取らせるため、さまざまな実質的措置を継続していく」。

ここでもミンスク2への言及がないまま、「ロシアへの制裁」を含むウクライナへの支援が、「ウクライナの領土的一体性が回復する」まで継続するとされている。

 

・米国はロシアとの交渉でゼロ回答

この結果、ロシアはさらに死活的な脅威が迫っていると受け止めたはずだ。時間の経過と共に「占領回復と再統合戦略」を狙うウクライナの軍事力が米国の支援で強化され、NATO加盟も避けられそうにないのだから。

ロシア大統領のプーチンはウクライナ侵攻前の22年2月1日、ハンガリー首相のオルバーン・ヴィクトルと会談後の記者会見で、「ウクライナがNATOへの加盟を認められ、そしてクリミア半島を奪い返すという起こり得る将来のシナリオ」について言及。

「そうなったら、NATOブロックと戦争になるのか?そんなことを考えたことがあるのだろうか?明らかにノーだ」(注4)と述べたが、「大統領指令117号」についてロシアが真に恐怖したのは、この「シナリオ」だったろう。しかも、ドンバスの運命も定かでない。

そのためロシアが、要求が通らなければ軍事力行使も排除しないという威嚇を背景に、自国の安全保障についての最終的な交渉に臨む決意を固めたのは疑いない。

恐らく「ウクライナ国境付近のロシア軍の集結」とは、そうした威嚇の現れだったのではないか。だが、ロシア側の思惑は破綻する。

21年12月17日にロシア外相のセルゲイ・ラブロフが明らかにしたように、ロシアは同月、米国に対し、ウクライナのNATO加盟中止を軸として「一方の側の安全保障に影響を及ぼすような活動を止め、そうした活動に加わらず、活動を支援することも控える」(注5)といった
両国間の細かい「安全保障に関する条約案」を提示した。しかし米国側の回答は、完全拒否だった。

プーチンはウクライナ侵攻を開始した22年2月24日当日のテレビ演説で、「我々の提案に対し、返ってきたのは冷笑的な欺きとウソ、
そして圧力と脅しの試みだった。……すべては無駄であった」(注6)と米国を批判した。

おそらく米国がロシアに対し何らかの妥協点を提示していたら、侵攻という事態は回避された可能性が高かったのではないか。

(注1)「Joint Statement on the U.S.-Ukraine Strategic Partnership」
(URL: https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2021/09/01/joint-statement-on-the-u-s-ukraine-strategic-partnership/
(注2)Dave DeCamp / January 31, 2022「Ukraine’s Security Chief: Kyiv Shouldn’t Be Forced to Fulfill Minsk Agreements」
(URL:https://news.antiwar.com/2022/01/31/ukraines-security-chief-kyiv-shouldnt-be-forced-to-fulfill-minsk-agreements/
(注3)「U.S.-Ukraine Charter on Strategic Partnership」
(URL: https://www.state.gov/u-s-ukraine-charter-on-strategic-partnership/
(注4)February 1,2022「Putin accuses US, allies of trying to lure Russia into a war in Ukraine」
(URL:https://www.france24.com/en/europe/20220201-putin-accuses-us-allies-of-trying-to-lure-russia-into-a-war-in-ukraine
(注5)December17,2021 「Russia calls on US to stop NATO eastward expansion in draft security treaty」
(URL:https://tass.com/politics/1377261?utm_source=news.antiwar.com&utm_medium=referral&utm_campaign=news.antiwar.com&utm_referrer=news.antiwar.com
(注6)February 24, 2022「Here Is the Full Text of Putin’s Speech This Morning」
(URL:https://www.paulcraigroberts.org/2022/02/24/here-is-the-full-text-of-putins-speech-this-morning-feb-24-2022/

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成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

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