戦争に落ちていこうとするこの国
政治7月8日、参議院選挙投票日の前々日、アベさんが銃撃を受け、死んだ。その時に私は下の文章を書いた。そして、私の心配が残念ながら当たり、マスコミはアベさんの功績を称え続けた。それが選挙の投票にどれだけ影響したのかは分からない。でも参議院選挙では自民党が大勝、改憲勢力は3分の2の議席を超えた。
戦争は人間同士が殺しあう。また近代の戦争では、一番被害を受けるのは非戦闘員である庶民である。戦争はどんな理由があってもしてはならない。でも、アベさんには日本での最高位の勲章「大勲位菊花章頸飾」が与えられ、秋には国葬もするそうだ。
アベさんも自民党も「悪い奴に攻めてこられたら大変だ」として着々と軍備を強化し、これからも憲法を改悪して日本を戦争のできる国にしようとしている。そして今や多くの日本人がそれを支持している。危うい時代になったと心が沈む。
(アベさんに対する銃撃について思うこと)
アベさんが銃撃を受けて死んだ。悲しくはない。アベさんは私が最も嫌う、少なくとも片手で数えられる5人に入る人だった。
アベさんがやったことは特定秘密保護法制定、集団的自衛権を認めた戦争法制定、共謀罪創設、フクシマ事故を忘れさせるための東京オリンピック誘致、そしてさらに憲法改悪まで進めようとしていた。彼のしたこと、しようとしてきたことはただただカネ儲け、戦争ができる国への道づくりだった。
アベさんは弱い立場の国・人達に対しては居丈高になり、強い国・人達に対してはとことん卑屈になる最低の人だった。朝鮮を徹底的にバッシングし、トランプさんにはこびへつらって、彼の言いなりに膨大な武器を購入した。彼は息をするかのように嘘をついた。森友学園、加計学園、桜を観る会、アベノマスク…彼とその取り巻きの利権集団で、国民のカネを、あたかも自分のカネでもあるかのように使い放題にした。
それがばれそうになると、丸ごと抱え込んだ官僚組織を使って証拠の隠ぺい、改ざん、廃棄をして自分の罪を逃れた。その中で、自死を
強いられる人まで出たが、彼は何の責任も取らないまま逃げおおせた。私は彼の悪行を一つひとつ明らかにし、処罰したいと思ってきた。
私は一人ひとりの人間は、他にかけがえのないその人であり、殺していい命も、殺されていい命も、一つとして存在していないと公言してきた。アベさんにはこれ以上の悪行を積む前に死んでほしいとは思ったが、殺していいとは思っていなかった。悪行についての責任を取らせることができないまま彼が殺されてしまったことをむしろ残念に思う。
多くの人が「民主主義社会では許されない蛮行」と言うが、私はその意見に与しない。すべての行為、出来事は歴史の大河の中で生まれる。歴史と切り離して、個々の行為を評価することはもともと誤っている。そもそも日本というこの国が民主主義的であると本気で思っている人がいるとすれば、それこそ不思議である。
国民、特に若い人たちを貧困に落とし、政治に関して考える力すら奪った。民主主義の根幹は選挙だなどと言いながら、自分に都合のいい小選挙区制を敷き、どんなに低投票率であっても、選挙に勝てば後は好き放題。国民の血税をあたかも自分のカネでもあるかのように、自分と身内にばらまいた。原子力など、どれほどの血税をつぎ込んで無駄にしたか考えるだけでもばかばかしい。
日本で作られた57基の原発は全て自由民主党が政権をとっている時に安全だと言って認可された。もちろん福島第一原発だって、安全だとして認可された。その福島原発が事故を起こし、膨大な被害と被害者を出し、事故後11年経った今も「原子力緊急事態宣言」が解除できないまま被害者たちが苦難にあえいでいる。
それでも、アベさんを含め自民党の誰一人として、そして自民党を支えて原発を推進してきた官僚たちも誰一人として責任を取らない。もちろん裁判所すら原発を許してきた国の組織であり、その裁判所は国の責任を認めないし、東京電力の会長・社長以下の責任も認めない。
どんな悲惨な事故を起こしても誰も責任を取らずに済むということをフクシマ事故から学んだ彼らはこれからもまた原子力を推進すると言っている。さらに、これからは軍事費を倍増させ、日本を戦争ができる国にしようとする。
愚かな国民には愚かな政府。それが民主主義であるというのであれば、そうかもしれない。しかし、それなら、虐げられた人々、抑圧された人々の悲しみはいつの日か爆発する。今回、アベさんを銃撃した人の思いは分からない。でも、何度も言うが、はじめから「許しがたい蛮行」として非難する意見には私は与さない。
心配なことは、投票日を目前にした参議院選挙に、アベさんが可哀想とかいう意見が反映されてしまわないかということだ。さらに、今回の出来事を理由に、治安維持法、共謀罪などがこれまで以上に強化され、この国がますます非民主主義的で息苦しい国にされてしまうのではないかと私は危惧する。
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1949年生まれで、京都大学原子炉実験所助教を2015年に定年退職。その後、信州松本市に移住。主著書は、『原発のウソ』(扶桑社新書)、『原発はいらない』『この国は原発事故から何を学んだのか』『原発ゼロ』(いずれも幻冬舎ルネッサンス新書)、『騙されたあなたにも責任がある』『脱原発の真実』(幻冬舎)、『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』(毎日新聞出版)、『原発事故は終わっていない』(毎日新聞出版)など多数。