【連載】改めて検証するウクライナ問題の本質(成澤宗男)

改めて検証するウクライナ問題の本質:XVIII NATOの秘密作戦Stay-behindの影(その6)(完)

成澤宗男

「権威主義」批判に見る米国の欺瞞性

さらに米国は冷戦が終結してウクライナが独立した後、ロシア人やユダヤ人といった「民族の敵の浄化」を掲げたバンデラの直系として公然と表に出た、ネオナチに注目した。「米国のCIAと英国のMI6は(冷戦終結後欧州で)ネオナチを支援し、ロシアに対抗させるためこうしたグループを発足させた。

現在もネオナチは、欧米の資金に大きく依存している」(注16)とされる。特にウクライナのネオナチに関しては、最終的にロシアとの戦争を米国に代わってけしかける上で、最高の利用価値があるのは疑いない。

ナチス式の敬礼をする、ウクライナのネオナチ。ロシアへの異様な憎悪が特徴だ。

 

中東を始めとした戦場レポーターとして知られ、戦略アナリストでもあるブリュッセル在住のイライジャ・マニエ氏は、ウクライナ戦争は「米国が長い間準備してきた」としながら、「キエフは(米国の)代理戦争でロシアと戦うために、国と住民を提供する準備ができている。米国はウクライナの犠牲の覚悟がなければ、ロシアに対して何もできなかった」(注17)と断じる。

正確には、NATOへの加盟を拒否してクーデターで倒されたヤヌコビッチ大統領のウクライナや、ロシアとの和平交渉に前向きだった一時のゼレンスキー氏のウクライナではない。レイシズムに満ち、非合理で狂信的なロシア人憎悪を燃やすネオナチが暴力で政府を動かしうるようなウクライナこそが、米国の期待に応える「代理戦争」を担えるのだ。

ただ、冷戦時代の反共という大義名分は、旧ナチス一派との癒着という後ろめたさを緩和するのに役立ったが、「国際共産主義勢力」が冷戦後消滅した以上、もはやネオナチを「盟友」扱いにする余地はない。

だからこそ、欧米の主流派メディアはクーデターを「民主革命」と言いくるめ、「ウクライナにネオナチはいない」「アゾフ大隊はネオナチではない」等々のフェイクニュースをこぞって垂れ流し、レイシズムと「暴力の聖域化」を無視しているのではないのか。

その米国は、自国を「民主主義」や「自由主義」と称する一方、ロシアや中国等を筆頭に敵意を向ける諸国を「権威主義」(authoritarianism)とレッテルを貼る習性がある。

だが、上記のような戦後一貫して続く「権威主義」そのもののナチス、あるいはネオナチ(さらにはイスラム原理主義勢力)との公然たる共謀関係は、米国(及びその欧州同盟諸国)の本質的欺瞞性を暴き出す。そもそも米国やウクライナが、「権威主義」に対置されるべき何かに立脚しているとはおよそ考え難い。

「米国に従うのか、抵抗するのか」

同時に、今や直接戦闘以外の偵察や通信、作戦立案等をすべて担っているNATO(及び加盟国の軍・諜報機関)も、戦後初期から多数の旧ナチスドイツの高級軍人やゲシュタポ、SSの人脈を絶やすことなく抱えていた事実はよく知られている。

このことは、NATOが冷戦期に欧州で極秘の偽装作戦であるStay-behind(あるいはGladio)を展開するにあたり、その「秘密軍隊」の多くが「CIAとMI6の支配下にあるナチスやファシストであった」(注18)という事実と密接に関連していよう。

そして冷戦終結後もキエフにおける14年2月のクーデターで既述したようなStay-behindと極似した偽装作戦が再現され、それがネオナチによる「暴力の聖域化」を生んで今日のウクライナでの戦争が引き起こされた経過は、NATOもやはり戦後一貫して、「権威主義」とは区別された行動原理に基づいているのではないという点を示唆している。

すでにこの「検証」シリーズの10回目「Ⅹ ポスト冷戦の米世界戦略と戦争の起源(その1)」等で触れたように、米国は旧ソ連であれロシアであれ、世界の一極支配のためにヘゲモニー下に置くべきユーラシア大陸において、並外れで巨大な面積を誇る国家の存在自体が地政学的に障害であり、「脅威」と映らざるを得ない。だからこそその国家を、常に「解体・分割」することが戦略目標となる。

現在のウクライナ戦争は、米国にとっては旧ソ連の崩壊後に開始されたNATOの東方拡大から始まった、ロシア連邦解体=ユーラシア大陸におけるヘゲモニー確立という最終的狙いの実現に向けた成否がかかっている。

米国がロシアの安全保障を求める交渉を開戦前に拒否し、ウクライナに対して4月に合意寸前だった停戦の交渉を打ち切らせたのも、戦争がそのためのまたとない機会と見なしているからに違いない。「バイデン大統領は、願っていたものを手に入れた」(マニエ)のだ。

ウクライナのクーデターから3カ月後、フランスの評論家のティエリー・メイサン氏は、「以前は資本主義の右派と社会主義の左派がいた。今日、世界は米国に支配されている。そこで最初に生じる問題は米国に従うのか、あるいは抵抗するのか(whether to serve or to resist them)ということなのだ」(注16)と提起した。

私たちが現段階で警戒し、優先的に対峙すべきは「権威主義」などではないはずだが、それから8年の歳月が過ぎて人類の破局を予兆させる戦争が起きながら、先進諸国で未だ「ロシア悪玉論」が横行しているのは、絶望的光景と言うしかない。

 

※検証シリーズはこれで終了し、次回から現在のウクライナをめぐる個別の問題を考察していきます。

(注1)March 5, 2022「”Zelensky And The Fascists: “He will hang on some tree on Khreshchatyk“」(URL:https://www.moonofalabama.org/2022/03/zelensky-and-the-fascists-he-will-hang-on-some-tree-on-khreshchatyk.html).
(注2)May 21,2022「DMYTRO IAROCH, NEO-NAZI AND ISIS ALLY」(URL:https://www.donbass-insider.com/2022/05/21/dmytro-iaroch-neo-nazi-and-isis-ally/).
(注3)October 28,2019「I’m not a loser’: Zelensky clashes with veterans over Donbas disengagement」(URL: https://www.kyivpost.com/ukraine-politics/im-not-a-loser-zelensky-clashes-with-veterans-over-donbas-disengagement.html).
(注4)March 4, 2022「How Ukraine’s Jewish president Zelensky made peace with neo-Nazi paramilitaries on front lines of war with Russia」(URL:https://thegrayzone.com/2022/03/04/nazis-ukrainian-war-russia/).
(注5)(注1)と同。
(注6)注1)と同。
(注7)ウクライナの「右派セクター」等のネオナチによる公共機関のみならず共産党や左派、ロマ人等の少数民族への処罰を受けた形跡が乏しい暴力行為はナチスドイツの「突撃隊」(SA)の機能を有し、さらにドンバスにおけるロシア系住民との戦闘で正規軍以上に果たした役割の大きさは、「親衛隊」(SS)に匹敵しよう。
(注8)May 30,2022 「Eight years ago in Odessa」(URL:https://mronline.org/2022/05/30/eight-years-ago-in-odessa/).
(注9)March 3, 2014「Russia’s Investigative Committee files case against Ukraine’s Right Sector leader」(URL:https://tass.com/russia/721752).
(注10)April 29, 2022「Ukraine: World War II Continues」(URL:https://libya360.wordpress.com/2022/04/29/ukraine-world-war-ii-continues/).
(注11)October 15, 2022「Chechen Jihadists Have Joined the Ranks of the Ukrainian Army」(URL:https://libya360.wordpress.com/2022/10/15/chechen-jihadists-have-joined-the-ranks-of-the-ukrainian-army/).
(注12)「テロリスト」や「イスラム原理主義」と呼ばれる集団と米軍や米国諜報機関との密接な関係は、成澤「暴かれた米軍とISの関係①」(https://blog.goo.ne.jp/lotus72ford/e/06a9f01fa8cca172c289601438e1699b)、「米国の『対テロ』という巨大な虚構①」(https://blog.goo.ne.jp/lotus72ford/e/1af27021c6d14a61578d4242e6757681)を参照。なお、チェチェンのみならずシリアの反アサドのイスラム武装勢力もドンバスで戦闘しているが、米国諜報機関の関与が疑われる。
(注13)February 23,2022「NATO TRAINS AND FINANCES NEO-NAZIS AND JIHADISTS IN UKRAINE
(URL:https://misionverdad.com/english/nato-trains-and-finances-neo-nazis-and-jihadists-ukraine).
(注14)October 20, 2022「The US-Nazi Connection Since World War II: From Inspiring the Third Reich to Supporting the Neo-Nazis of Ukraine」(URL:https://www.globalresearch.ca/us-nazi-connection-since-world-war-ii-from-inspiring-third-reich-to-supporting-neo-nazis-ukraine/5796800).
(注15)March 30, 2022「Nazis in Ukraine: seeing through the fog of the information war」(URL:https://mronline.org/2022/04/02/nazis-in-ukraine/).なお、ジョン・ロフタスは戦後の米国と旧ナチスの関係を暴いた『America’s Nazi Secret』の著者で、諜報機関出身の作家。
(注16)(注15)と同。
(注17)October 14, 2022「THE CIA’S INVISIBLE WAR ON RUSSIA: WHO IS WINNING IN THE BIGGER PICTURE OF THE WAR?」(URL:https://ejmagnier.com/2022/10/14/the-cias-invisible-war-on-russia-who-is-winning-in-the-bigger-picture-of-the-war/).
(注18)May 19,2014 「The CIA Coordinates Nazis and Jihadists」(URL:https://www.voltairenet.org/article183864.html).

 

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成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

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