インタビュー:山本太郎(衆議院議員)+渡辺てる子(れいわ新選組)、れいわ新選組の脱原発戦略

林克明

今年夏、YouTube番組で有名なメンタリストDaiGoさんがホームレスの命を軽んずる発言をして大問題となった。この問題に関する渡辺氏の講演会では、「ホームレスを5年経験した私ですら、差別してしまうかもしれない。差別する最初の人間は自分であるという自覚を、常に持つようにしている」という言葉が印象的だった。その姿勢が原発を見る彼女の視点に一直線につながっているのではないだろうか。

渡辺氏が言う、原発廃止と廃炉により新たな雇用を生み出せるという部分を同党のマニュフェストで見ると、まず原発を即時禁止して政府が買い上げる。そのうえで、原発立地の「公正な移行」の必要性を訴えている。

原発立地地域の人々を主役とした経済転換をはかり、当面は電源三法交付金と同様の財政支援を継続し、脱原発の目的に即した産業構造の転換と雇用の創出を目指す。解体に関わる労働者や専門人材のほかに、地域発展を担う人を数百人規模で公務員として雇用する。全国一九カ所の原発敷地もしくは隣接地に廃炉と地域経済発展のための拠点施設を設置。一拠点あたり解体関係者と研究者あわせて300人規模で雇用し、年間600万円(2020年の一般労働者の平均307.7万円の約2倍)の賃金を支払う。賃金だけで600万円×300人×19拠点で年間342億円。これらの費用を財政支出する。(林)

・人間の手でコントロールできないものは科学じゃない

渡辺:それから、今年の3月で首相官邸前のデモは、400回をもって休止となりましたが、これからはそれぞれの暮らしの中で、日常的に反原発を訴える段階だと思います(※その後、有志により復活)。

どこに行っても電力を使う暮らしがあるわけだから、生活の場が反原発を言っていく現場です。国会前デモではない形での運動が同時多発的に必要かと考えます。

市民が自主的にやることが運動の原点ですから、反原発に限らずあらゆる問題でそういう意識が必要だと思います。

そもそも人間の手でコントロールできないのが原発。コントロールできないものは科学じゃないんですよ、私からすれば。科学でないものを科学だという誤った前提のもとにすべてを進めて、トイレのない家を作っているような事態になってしまう。

とてつもない負の遺産を、次世代どころか、六ケ所村などの高レベル放射性廃棄物が安全になるには数万年。人間の領域を超えることをするのは、人類どころかこの自然に対するとてつもない過ちを犯している。その恐ろしさに我慢できない人がいるのは当然のことです。

さっき、加害者・被害者と言ったけれど、そのレベルを超えてとんでもない誤謬、これ以上ない誤謬を重ねてきています。こういうことをしでかしてしまった痛みと過ちを強く言っていかなきゃならないと思います。

福島第一原発の事故からもう10年が経っているわけですよね。被害を受けた人は多いし、そこで失われた多くのものは、どんなお金をもってしても償えない。そういう大切なものを失ってしまったわけじゃないですか。原発事故が起きなければ、幸せに暮らしていた者が、むざむざと亡き者にされた。原発さえなければと書き残して自殺した人もいるじゃないですか。これひとつとっても胸が痛みます。

自然の生態系とかあらゆるものを踏みにじったうえで東電社員は生活を成り立たせている。かつ会社は民間企業とはいえ競争相手がないまま高収益をあげてきました。市場原理ですらないのです。

――その一方で、原発に関する意思決定に一切かかわれない若手社員が、原発事故被害者の補償問題で矢面に立たされていた例も取材しましたが、過酷な業務でぼろぼろになっていました。

渡辺:家庭も崩壊してますでしょう。いったい誰のために原発ってあるんでしょう。様々な不幸を多くの人にもたらせて……。

反原発というと、じゃお前たちはロウソクで暮らせなどと言う人もいまだにいますが、いまは技術が発達しており、いくらでも再生エネルギーを推進し、脱炭素も両立できるわけですよ。自然エネルギー、カーボンニュートラルを実現できるんです。

何のために技術を発展させるのか認識し、お金をつかう優先順位を政治の力で設定すればできる。向かう方向を政治が決めれば、技術もあるし可能なのです。
*  *  *
れいわ新選組は、自然エネルギー100%の社会を2050年までに目指す。それを実現するために未確立の新技術にすがるのではなく、渡辺てる子氏がいま述べたように、すでに世界的に普及して低価格化が進んでいる既存の技術を最大限動員するという考えだ。そもそもかつての日本は新エネルギーの技術大国だった。しかし、国の方針の誤りゆえに乗り遅れてしまった感がある。(林)

solar panels and wind generators under blue sky on sunset

 

・DNAレベルまで汚染される原発 究極の生存権を守る

渡辺:何に対して本気で向きあうのかを追及していくと、自然に原発は不要になります。消費税も一緒です。日本人は、いったんお上が決めると、どんなに悪いことでもそれを変えられないと、深層意識に刷り込まれているんですよ。

衆院選の最中に行われた朝日新聞社の世論調査で57%以上の人が消費税は10%でいいと答えています。でも、それは情報を収集して分析し理解したうえでの回答ではなく、一種の宗教のように「消費税は必要だ」と刷り込まれているんじゃないですか。

宗教って批判が許されず、相対的に見ることが許されない側面がある。宗教のように改変の余地がないと思わされている。そういう呪縛のひとつが消費税であり、原発であると思います。だって、消費税なかったときもあったし、原発がなかったときもあったのだから。これだけ技術が発達しているから本気になればできないわけがありません。

――消費税だろうが原発だろうが、情報収集をするか否かで見える世界が変わってしまいますよね?

渡辺:金持ちは情報強者なので自分が得になる情報を常に収集するし、情報を得るから金持ちになれるという現状があります。あらゆる問題でこれに近い構図がありますよね。それから、加害者のほうが情報収集や分析が進んでいて、被害者のほうがまるでできていない。

その突破口を開くことこそに、本当の市民政党のれいわ新選組の存在価値があるのです。だからこそれいわ新選組が国政に乗り込んで、社会的弱者であり情報弱者にされている人々の権利を取り戻すのです。

取り戻すというと主権が今まであったかのように思われてしまうので、獲得する、奪い取るという感覚です。その強固なメルクマールが原発の即時禁止ということですよね。

放射能汚染でDNAまでが損なわれるということは、生命の細胞レベルにいたるまで私たちは脅かされているということじゃないですか。究極の生存権を守るというのが基本です。

今回の衆院選では比例東北ブロックにれいわ新選組から出馬した渡邉理明さんも普通の電気工事会社の方でした。しかし事故が起きてから、放射能被害のことにものすごく詳しくなり意識も高くなっているわけです。一度目覚めてしまった人は対象から目を背けるわけにいかなくなるからです。

汚染地域に住んでいれば自分だけ、自分の家族だけじゃないと、社会的な目が開かれてしまう。子々孫々に至るまで、その地域に住むコミュニティも損なわれてしまいます。そうすると、皮肉なことに社会的な目が開かれてしまうのです。

私たち庶民は、どんなところに置かれても学んで生きていかなければならない。その意味で福島第一原発事故の被害者は、こういう言い方がいいかは別として、はからずも当事者にされた人々が自らの体験から学び、社会的な目が開かれていくロールモデルのようになっている。闘う市民像を一つ提示してくれた想いがします。

女性が命をはぐくむ、何も女性だけに限りませんが、女性は自分の中に別の生命を宿すのだから、DNAレベルまで汚染される原発に対してノーを言うのは当然のこと。

原発事故でお父さんだけ除染作業をして家族と離れる。家族も引き離している。普通の生活も成り立たなくされている例もあるわけで、原発の罪深さは多方面にわたっています。

インドにはカーストという身分制度があり、一番下のカーストの人は苛酷な労働を強いられています。日本でも家族を持てない人が危険な仕事に従事している側面があるし、そうした厳しい現場に置かれることで、さらに下層に追いやられるカースト的で抑圧的な階層構造が、 除染作業とか原発の労働者に表れています。

誰かを犠牲にしなければ成り立たない制度設計や社会の仕組み自体がおかしいのだと訴える意味では、反原発の運動は普遍的な運動だと思います。日本に住むすべての人が反原発の当事者だと思いますよ。私は「当事者」ということにこだわりながら、今後も原発に対峙していきたいと思います。
[2021年11月4日東京にて]

(季刊「NO NUKES voice No.30」より 〔現在は誌名を「季節」に改題〕)

1 2
林克明 林克明

ジャーナリスト。1960年長野県生れ。業界誌記者を経て89年より週刊誌記者として働く。95年から1年10ヶ月、モスクワに住みチェチェン戦争を取材。環境問題をはじめ、社会問題を主なテーマとする。特定の人物を通して社会や歴史を見ることに興味がある。2001年「ジャーナリストの誕生」で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ