参院選・弁護士候補が語りつくす、れいわ新選組憲法対談:西みゆか(埼玉選挙区)×辻恵(比例代表)
政治・憲法の基本原則を崩す自民党憲法改正草案
辻:弁護士として、れいわ新選組から7月の参院選に出馬する私たちは、ともに憲法問題が最大の争点だと考えています。私は岸田文雄政権がなぜ改憲に前のめりなのか、その理由を焦点に街頭演説し、西さんは自民党の改憲草案をとり上げて、具体的に身近な危険性を訴えていますよね。この改憲草案のきわめて国家主義的な内容について、どう訴えておられますか。
西:まずは、民主主義社会を支えるうえで最も重要な「思想・良心の自由」と「表現の自由」について語るようにしています。日本国憲法では、思想・良心の自由は絶対的で、表現の自由についても「公共の利益に反しない限りは保証する」と、他人の権利をよほど侵害しない限りは保証されています。
これに対して改憲草案21条2項では、「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」となっています。そもそも何が「公益」であり「公の秩序」なのかを国家が決めることになっていて、全体主義・国家主義そのものです。
その後に続く文言はさらに問題です。「目的としているだろう」というだけで制限でき、「目的とした結社は許さない」ということは、結社には政党も入りますから、まだ現実の侵害行為が生ずる以前から、個人はもちろん政党も表現の自由が規制されることになります。
辻:戦前の治安維持法は、天皇制や私有財産制を否定する目的を持った行為や結社は処罰するというもので、全く同じ構造です。街宣をしていて、一番反応のある項目は何ですか。
西:やはり戦争の問題ですね。現行憲法で「国の交戦権は認めない」とあるのを改憲草案はすべて削除しており、これは戦争をするぞということです。そして「国防軍を設ける」「国防軍の組織は法律で定める」とされているから、徴兵制は当然出てくるのであり、男性だけでなく女性も徴兵されるということを一生懸命訴えています。
さらに問題なことに、改憲草案の9条3は「国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない」となっています。「お国のために頑張るぞ」ということで、「国民と協力して」とは、裏を返せば国民の協力義務があるということです。
辻:現行憲法は99条で、憲法を尊重して擁護する義務を負うのは国会議員等とされていますが、国民に協力義務を負わせるということになりますね。
西:そのとおり。改憲草案には102条が新設されていて、「すべて国民は、この憲法を尊重しなければならない」と規定されています。法律家が全体的に読めば、当然に国民の義務と捉えることになります。自民党のリーフレットの説明には、こんなことは全然書かれていませんが、今の憲法を180度ひっくり返す内容です。
辻:また改憲草案は、さまざまなところで「法律がこれを定める」となっていて、憲法の基本原則が法律により崩される構造になっていますよね。
西:たとえばれいわ新選組は消費税廃止を訴えていますが、改憲草案の83条2項に「財政の健全性は法律が定めるところにより確保されなければならない」とあります。これは、国のバランスシートをきれいにするために、「国民は節約しなさい。増税に堪えなさい」ということで、積極財政が憲法違反として否定されることになります。
辻:「財政の健全性」というドグマが絶対視され、時の政権の経済政策に対する批判の議論がハナから否定されることになります。
西:戦争の問題のほかに、もう一つ私が強調しているのは、家族に関する問題です。改憲草案の24条1項に、「家族は社会の自然かつ基礎的な単位として尊重される」と規定されています。これは反対解釈をすれば、LGBTの方々や、私のように結婚しないで子どもを設けなかった人は、「家族」という単位から排除されることが正当化される規定です。
昨年でしたか、性的少数者をめぐり「性自認や性趣向に基づく差別を許さない」という差別禁止の法案について自民党内で異論が出て、結局提出できなかったことがありました。性的自由は当たり前で、差別が許されないのは当然のこと。法案を国会に提出できないというのは平等権侵害だし、差別そのものです。
辻:安倍晋三元首相の側近といわれた稲田朋美元防衛大臣ですら、現行憲法24条に関してLGBT差別をとり上げようとしたところ、日本会議などから猛反発を受けました。つまり、家族を単位とすべきだというのは差別禁止反対派の人たちのいわばレーゾンデートルで、国や国家の基礎単位として、旧来の男女の役割を墨守し、ジェンダー平等を否定して、家族なるものにこだわるわけです。自民党内はもはやまともな議論ができない状態です。
・緊急事態条項とゼレンスキー礼賛
辻:私はウクライナ戦争によって、第二次世界大戦後の世界体制が大きく転換するという認識を持っています。もう二度と世界戦争を起こしてはならないということで国連が出来たのですが、結局、国連は戦争を止めることができなかった。今の国連の限界で、国連自体が変わっていかなければいけない段階に達していると思います。
西:街頭演説するなかで、日本がウクライナのような立場に立った時、私たちはどうなるの、という質問を受けることがあります。自民党の改憲草案には緊急事態条項というのがありますが、極めて漠然とした内容です。総理大臣の緊急事態宣言下の命令は法律と同等の効力を有します。「緊急事態だ」という一言で軍隊が動き、徴兵され、逃げる自由もなくなるのです。
辻:今のウクライナでは、ゼレンスキー大統領が国民に対し、60歳以下の男性は国外に脱出できないようにして、国から逃げる自由を奪っています。ウクライナ国民が戦争の被害者であることはもちろんですが、ウクライナの兵士も被害者だし、ロシアの兵士も被害者です。国と国とが戦うこと自体がダメなのであって、人を殺してはいけない、戦争をしてはいけないという原点に立ち返って、日本国憲法の意義を考える必要があると思います。
西:4月に国会でゼレンスキー大統領が演説された際、衆参両議員が最初からスタンディングオベーションしていました。内容を聞く前に称賛するというのはズレています。
辻:そうですね。ロシア弾劾や、ゼレンスキー大統領礼賛に反対すれば、非国民だと言われかねない状況が生まれつつあります。れいわ新選組は、全会一致決議を出すことがこのような傾向を強め、大政翼賛的になることに対して反対をしたわけです。
ロシアが日本に攻めてくるかもしれないという話がまことしやかに語られ、共産党の委員長までが「自衛隊が対応すればいい」と語ったということを聞いたとき、私は、そもそもロシアが日本に侵略してくる政治状況にあるということが荒唐無稽であるし、しかもその話を前提に「自衛隊が戦え」というのは、国対国の戦いを前提にしているわけで、日本国憲法の理念から全く外れているわけです。
西:私も本当にがっかりしました。市民もおかしいと思っている人は多いはずですが、ツイッターのコメントを見ると、侵略されたらどうするのという話ばかり。侵略されたり、戦争しなくてすむような外交や政治の話を、皆が議論しなくなっているのを感じます。
辻:参院選でこの話を議論すべきなのに、与党も野党もマスコミも、ほとんど本質的な議論をしません。3年前の参院選の投票率は48.80%で、国政選挙で50%を切るのは政党政治の危機です。しかし岸田政権はただただ今度の選挙で過半数以上の安定多数を獲って延命することのみを考えています。こんな政権を勝利させたら、今後3年間は国政選挙がないという、彼らにとっての黄金の期間を与えることになり、憲法改悪を含めどんな悪政をするかわからない状況になってしまいます。
西:本当にそう思います。マスコミは政府から情報をもらうことだけを考えているのでしょうか。
辻:戦前の大政翼賛体制の下で、各マスコミが雪崩を打って戦争賛美の報道になっていきました。国会も裁判所も官僚も、日本の主だったすべての機関が戦争体制に動員され、これを自ら支えていったわけです。その歴史への反省が、今の状況のなかで、どんどん薄れているようです。
株式会社鹿砦社が発行する月刊誌で2005年4月創刊。「死滅したジャーナリズムを越えて、の旗を掲げ愚直に巨悪とタブーに挑む」を標榜する。