【連載】週刊 鳥越俊太郎のイチオシ速報!!

第8回 私は何故イランで逮捕されたのか 女性の髪の毛 イスラム教の謎 隠すにはそれなりの理由があった/将棋名人戦 マスク外しで反則負けの違和感

鳥越俊太郎

もう一つの違和感。最近何度か見たニュース。手元にある記事を順番に示すと。

東京新聞10月16日の国際面の記事。

「イラン抗議デモ 死者200人超に」
「『ヒジャブ』巡り女性不審死1ヶ月」
「統制、くすぶる不満 反政府運動の様相も」

毎日新聞10月18日夕刊に5段もの大型特集記事。
「ヘジャブの自由 私が決める」
「ムスリム女性 変わる価値観」
「強制に抗議/『着用したい』の声も」
「イランで拘束 22歳死亡」

朝日新聞10月30日の国際面での特集。
「『女性、命、自由』命がけの抗議」
「イラン ヒジャブ巡り22歳急死」
「弾圧 政府内に懸念も」

この見出しで大体のニュースの概要はお分かりだと思う。東京新聞は【カイロ蜘手美鶴】、毎日新聞は【ニューデリー=川上珠美】、そして朝日新聞は【テヘラン=飯島健太】だけがイランの首都、テヘランからの配信だ。

このニュースを理解するには「ヘジャブまたはヒジャブ」という言葉を知らなければならない。

その前にイランの歴史を紐解く必要がある。イランは元々ペルシア帝国という歴史を持つ。現代は人類の生きる源、石油の産出国として繁栄を約束される国。

パーレビー王朝の下、欧米文化を取り入れ、繁栄を約束されたかに見えた。がしかし、1979年イスラム教シーア派のホメイ二師に率いられるイスラム革命部隊に政権を奪われ、新しいイスラムの国造りが始まった。

私はそのイラン・イスラム共和国が成立した5年後、その首都、テヘランの特派員として赴任した。イスラム教の何たるかなど何も知らずに。

世界はキリスト教、仏教、イスラム教この三つの宗教に分かれているが、中東地域、アフリカ、アジア、欧州などの世界の地図の中心にイスラムの勢力が存在することを私は知らなかった。

テヘランでペルシア語も全く話せない中で、私のイスラム教について一からの勉強が始まった。

イスラム教の国が今、スンニー派の国々とシーア派の国があることから始まる。

スンニー派の中心は石油の国、サウジアラビア。大半はスンニー派の国だ。

シーアの人々がいるのはイラクやレバノンなどだが、シーア派の勢力が革命で政権を打ち立てたのはこのイラン・イスラム共和国だけだ。
イスラム教は現在のサウジアラビアのメッカを発祥の地とし、唯一の神、アッラーへの絶対的な服従を説く一神教の宗教。7世紀の初め、神からの啓示を受けた預言者ムハンマド(日本風にいうモハメッド)によって形創られた。

ムハンマドが唯一の神、アッラーから受けた「神の啓示」をまとめたものが、「コーラン」(クルアーン、日本風にいうとコーラン)だ。
その中に今イランで大騒ぎになっているヒジャブ(ヘジャブ)の教えがあるのだという。日本人には何とも理解しがた話だが。

私がイラン人の助手、ハミド君から聞いたところでは、神は女性の手と顔以外は露出してはならないと厳しく教えたという。

で、イスラム教国の女性は髪の毛を覆うヒジャブを手放さないことになった。私はヘジャブと呼んでいたので、以後はヘジャブと呼ぶ。私はある時ハミド君に聞いた。

「なぜイスラ教の女性はヘジャブをしなければならなのか?」

イランでは目にしなかったが、他のイスラム国では全身を覆う「チャドル」(チャドールとも発音する)もある。ハミド君曰わく、女性の髪の毛や体のラインは男性の信仰心を忘れさせてしまうのだと。

なるほど、なるほど。それ真実。

男性は神の教えなんかより女性の髪の毛やボディラインに心奪われてしまうのだね。だからイスラム共和国の革命防衛隊に手荒く扱われ、死亡事件が発生。今回の抗議デモに繋がっているわけだ。

そこで最後に私の遭遇した話ね。

私はテヘランの特派員時代。ある夜のこと。日本人の商社マンの家にお呼ばれして日本食などのご馳走になり帰宅途中。後ろに1台のジープが着けてきた。しばらく、私も気になって見ていたら、そのジープが突如前に回り込み、私の乗っている車を停めた。さらに車の窓から一台の銃が侵入。

私は身柄を拘束された。ま、逮捕されたんだろうな。

呆然とする私にペルシア語の機関銃が。

横に乗っていたハミド君が言った。「なぜお前はヘジャブをしていないのか」と言っていますよ。

おいおい、俺は男や。

なんでや?

そこでハッとなってきがついた。

私は特派員時代、超ロングヘヤーで、髪の毛は肩に掛かるほどだった。私は車の後ろから見て、明らかに女性と見間違われたのだった。

日本語で抗議する私の声で気がついたんだろうな。その場で拘束をとかれた。イランのヘジャブ抗議デモの記事を見て、40年前のあの夜の出来事を思い出した。

今でもヘジャブはイスラムの教えの重要な一説なんだと。分かるがねー、それ仏教徒にはちょいと通用しませんよ!!

(2022年10月31日記)

 

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鳥越俊太郎 鳥越俊太郎

1940年3月13日生まれ。福岡県出身。京都大学卒業後、毎日新聞社に入社。大阪本社社会部、東京本社社会部、テヘラン特派員、『サンデー毎日』編集長を経て、同社を退職。1989年より活動の場をテレビに移し、「ザ・スクープ」キャスターやコメンテーターとして活躍。山あり谷ありの取材生活を経て辿りついた肩書は“ニュースの職人”。2005年、大腸がん4期発覚。その後も肺や肝臓への転移が見つかり、4度の手術を受ける。以来、がん患者やその家族を対象とした講演活動を積極的に行っている。2010年よりスポーツジムにも通うなど、新境地を開拓中。

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