【特集】ウクライナ危機の本質と背景

増長するゼレンスキー:米国の誤算

塩原俊彦

ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は「嘘」を平然とついているように思う。それを伝えているのがBBCとのインタビュー(https://www.bbc.com/russian/news-63178625)だ。

10月7日に公表されたインタビューのなかで、聞き手は「米国は、最近のロシア人ジャーナリスト(ダリア・ドゥーギナ氏)の殺害の背後に、あなたかウクライナがいると考えています。本当なのかどうか教えてください」と率直に尋ねた(3分20秒すぎの映像を見てほしい)。それに対して、ゼレンスキー大統領は、「我々はこのケースに関係がない」と答えている。

ゼレンスキー・ウクライナ大統領のBBCとのインタビュー風景
(出所)https://www.bbc.com/news/world-europe-63171679

 

しかし、これは「嘘」であると心ある多くの人々が考えているに違いない。なぜか。10月5日付の「ニューヨーク・タイムズ」(https://www.nytimes.com/2022/10/05/us/politics/ukraine-russia-dugina-assassination.html)が事件後、ウクライナ側から事件の真相を聞いた米国政府高官は「この暗殺についてウクライナ政府関係者を諭した」と報じているからである。

・8月20日の暗殺事件

この事件について説明しよう。8月20日、ロシアにおける陰謀論の理論的支柱アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリア氏の運転するトヨタ・ランドクルーザーが爆発し、死亡したというニュースが流れたのである。

父親をねらった殺人事件との見方もあったが、8月22日までの情報(https://www.kommersant.ru/doc/5524691)では、ロシア当局はウクライナ人女性のナターリヤ・ヴォフク(旧姓シャバン)を容疑者と特定、この女がダリア氏の住む建物内に住居を借り、彼女の動向を監視していたとしている。

女は前述したアゾフ連隊に属し、過激派組織「ライトセクター」とも関係があったとロシア側はみている。女はすでにエストニアに出国した。当局の見方では、あくまで殺害は娘を狙ったものとみていた。

ニューヨーク・タイムズの記事によると、ゼレンスキー大統領が殺害に関与していたかは不明だが、ウクライナ当局の無鉄砲な残虐行為がロシアをより復讐にかりたて、核戦争に至ることを米国政府は恐れていると伝えている。

ゼレンスキー大統領の「嘘」というのは、「我々」と言った点にある。「私はこのケースに関係ない」と答えていれば、ウクライナ当局のなかの「跳ね返り者」が事件を起こしたという可能性を残したことになる。

しかし、「我々」と述べたことで、ゼレンスキー大統領が命じて暗殺させた可能性すら出てくる。ウクライナ当局が仕組んだ可能性がかぎりなく確実な事件に対して、「ゼレンスキー大統領を含むウクライナ当局者=我々」は関係ないというのは「嘘」そのものだろう、と指摘しなければならない。

・「ダーティボム」を仕組んだのはウクライナか?

この暗殺事件の顚末をきっかけにして、米国政府がウクライナ政府を完全に制御しているわけではないことがわかる。ウクライナ当局はすべての情報を米国側に流しているわけではないのだ。その結果として、ロシアに対する復讐心に燃える、一部の「跳ね返り者」、すなわち超過激なナショナリストがロシアやロシア人に対してありとあらゆる手段で復讐を企てかねない状況にあることが推測できる。

このなかに、ゼレンスキー大統領が含まれているかどうかはわからない。ただし、ゼレンスキー政権中枢部分にそうした人物が複数いることは確実だと思われる。

そう考えると、10月23日以降、突然流れ出した「ダーティボム」にかかわる問題の真相も見えてくる。

10月23日、RIAノーボスチ通信(https://ria.ru/20221023/provokatsiya-1825967691.html)は、「ウクライナを含む各国の信頼できる情報筋によると、キーウ政権は自国内でいわゆるダーティボム、すなわち低収量の核兵器の爆発を伴う挑発行為を準備していると言われている」と報じた。

挑発の目的は、ロシアがウクライナの戦場で大量破壊兵器を使用したと非難し、それによってモスクワの信頼性を損なうことを目的とした強力な反ロシア・キャンペーンを世界に展開することであるという。

ドニプロペトロウシク州にある東部選鉱コンビナートの指導部とキーウ核研究所は、「ダーティボム」製造を命じられ、その作業は、すでに最終段階に入っていると伝えた。

同時に、ゼレンスキー大統領の指示により、ウクライナ大統領府の側近がウクライナ当局への核兵器部品移管の可能性について、英国代表と暗黙のうちに接触していたことがわかったとしている。

・ウクライナの目論見

このダーティボム(放射性拡散装置、RDD)は放射性同位元素と爆薬を入れた兵器で、爆薬が爆発すると容器が破壊され、衝撃波によって放射性物質が飛散し、数千平方キロメートルにおよぶ地域が汚染される。

放射性物質は、使用済み核燃料貯蔵施設や原子力発電所の使用済み燃料プールに保管されている使用済み燃料要素に含まれる酸化ウランの可能性があるとされる。

10月25日付の「コメルサント」(https://www.kommersant.ru/doc/5632780)によれば、ウクライナ側の計画では、このようなミサイルの爆発を、高濃縮ウランを装荷に使ったロシアの低収量核弾頭の異常誘爆に見せかけ、その後、ヨーロッパに設置された国際監視システムのセンサーによって大気中の放射性同位元素の存在が検出され、ロシアによる戦術核兵器の使用が非難されることになるという。

さらに、その結果、ロシアは主要なパートナーの多くから支持を失い、西側諸国は再びロシアの国連安保理常任理事国資格を剥奪する問題を提起するとみている。

別のロシア側の報道(https://expert.ru/expert/2022/44/gryaznaya-bomba-dlya-frontovoy-pauzy/)によれば、ウクライナの軍事企業ユジマシの専門家がすでにロシアのイスカンデルミサイルのダミーをつくっており、その頭部分に放射性物質を充填し、チェルノブイリ原発の立ち入り禁止区域上空でウクライナ防空軍に「撃墜」させてロシアの核爆弾発射を主張する計画があるという。

このイスカンダルの模型はトーチカ-Uミサイルシステムの発射体をベースに作られたものだという。ヘルソン州上空でダーティボムが爆発しても、たとえば広島のような大規模な破壊や汚染は起こらないが、数十から数百の死者や深刻な疾病が発生する可能性があるという。

多くの専門家は、ウクライナ人が自力でダーティボムを組み立てることができるかどうか疑念を示している。ただ、同盟国の協力があれば、この技術的課題は解決できる。ロシア国防省は、英国の支援をほのめかしている。

・欧米の「嘘」

これに対して、米英仏は10月23日に、ロシアが戦争をさらにエスカレートさせるために作り出した口実だとし、この主張を否定する声明を出すという珍しい行動に出た。

ウクライナを潜在的な核の侵略者に仕立て上げることで、ロシアは自国民の怒りを買うことなく、またプーチン大統領への支持をさらに低下させることなく、緊張を高めることができる、と欧米側はみている。しかし、この反応は何も知らない者を騙すための「嘘」ではないか。

10月24日の段階で、ロシアのヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長は、米国のマーク・ミリー統合幕僚本部議長と電話会談を行い、ウクライナによるダーティボム使用の可能性に関連する状況について話し合った。

10月24日、ゲラシモフ参謀総長は英国のアンソニー・ラダキン参謀総長アとも同様の会話を交わしたという。10月23日、ロシアのショイグ国防相はトルコのフルスィ・アカル参謀総長、イギリスのベン・ウォレス国防相、フランスのセバスチャン・ルコルニー国防相と会談し、アメリカのロイド・オースティン国防長官とも再協議したが、このときの内容がダーティボムにかかわるものであったとみられる。

ロシアの情報が正しいかどうかはわからない。ただ、前述した「予防的攻撃」を推奨していたゼレンスキー大統領がこのダーティボムによる戦争のエスカレート化をもくろんだとしても何の不思議もないと書いておきたい。

興味深いのは、The Economist(https://www.economist.com/united-states/2022/10/27/the-claim-of-a-ukrainian-dirty-bomb-has-got-americas-attention)が、「驚くべきことに、ワシントンでは、ロシアはウクライナのだれかがダーティボムを計画しているという本物の情報をつかんでいるのではないかとさえ推測している」と伝えている点だ。

「このような説がまことしやかに語られるのは、ウクライナの行動に対するある種の不信感を示している」との記述どおり、ウクライナ側の発表を米国政府は信じていない面があるのだ。

だからこそ、米国政府はウクライナでの武器の動きを追跡するための査察を再開した。10月31日付のロイター通信(https://www.reuters.com/world/europe/us-resumes-on-site-inspections-keep-track-weapons-ukraine-2022-10-31/)が伝えたものだ。現地査察は、各国が特定の兵器を提供される際に米国と締結する協定の日常的なものとされているが、腐敗が蔓延してきたウクライナに対する不信感があって当然と思われる(詳しくは拙著『ウクライナ3.0』を参照)。

いまのところ、米国防総省の高官は、「ウクライナ政府は兵器の保護と管理を約束しており、転用されている確かな証拠はない」という。

しかし、7月5日付のロシアの報道(https://www.rbc.ru/politics/05/07/2022/62c498979a79479781bd7feb?from=from_main_11)によれば、ウクライナ経済安全保障局のヴァディム・メルニク局長によると、同局は欧米の武器や人道的援助の売却をめぐり、約10件の刑事事件を起こしたという。

 

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。ウクライナについては、『復讐としてのウクライナ戦争』を2022年11月に社会評論社から刊行予定。ほかに、『ウクライナ3.0:米国・NATOの代理戦争の裏側』(社会評論社、2022)、『ウクライナ 2.0:地政学・通貨・ロビイスト』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート:「ネオコン」の情報操作と野望』(同、 2014)、ロシアについては、『プーチン3.0 殺戮と破壊への衝動:ウクライナ戦争はなぜ勃発したか』(同、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち:私が「KGB」に拉致された背景』(同、2016)、『プーチン2.0:岐路に立つ権力と腐敗』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオKGB 帝国: ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、 2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。エネルギーに関連して、『核なき世界論』 (東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)がある。権力分析として、『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)などがある。サイバー空間の分析として、『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』 (社会評論社、2019)がある。

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